第16話 衝撃の誘拐

『貴船は何用でこの島に来た!応答されたし!』


港にある入港管理室から、拡声器を使って声がかけられる。

しかし、それに応じることもなく、そもそも答える義理もないとでも言いたげに、黒鉄の船……軍艦が島の港へと寄港する。


いくつもの大砲や機銃のついたその船は、その銃口を港には向けてはいないものの、しかしその威圧感に島の人間……シラマもチェサピークも、そして年輩であり漁業組合の長であるオヤカタですらも、気圧されていた。


明らかに武装した船が、こちらの呼びかけにも応じず港に乗り込んできた。


本来であれば緊急事態であり、港に居る人間たちが総出で武装し、そして港に備えられている防御設備……大砲などで船を攻撃する手筈になっている。

今回もまた、大砲などの設備に人は配置しているのだが、しかし攻撃は出来ずに状況を固唾をのんで見守っていた。


偏に、あの鋼鉄の船に果たして攻撃が通用するのか……今までに海賊船を見たり実際に迎撃した経験のある人間ですら、あの船に大砲を撃ち込んだところで効果があるか全く自信が無かった。


海賊船と言えば完全な木造の帆船とまでは言わないものの、漁船を改造して武装したような船が多かったのだ。

もっと粗末な船、というといい方は悪いが……それしか相手をしたことがない。


それに相手は、武装こそしているが未だに島に攻撃をしてくるような気配も動きもない。

下手に攻撃を仕掛けると、好機とばかりに反撃してきて、逆に島側が酷い被害を受けそうな、そんな予感がしたのだ。



シュウゥゥゥ━━━━・・・・・・


誰の妨害も受けないまま、軍艦が停止して錨が降ろされる。

そして機械的な音と共に船から階段が降りてきて、港の足場へと繋がった。


コツ…コツ……


階段を鳴らして、軍艦の乗組員が降りてくる。

頭には鍔付きの帽子をかぶり、灰がかった青色のフロックコートをスーツの上に羽織った中年の男性を筆頭にして、白い帽子に白いシャツとズボン、そして灰がかった青色のスカーフを身に着けた男性らが10人ほど降りてくる。


「銃……」


漁師の誰かがぽつりとつぶやく。

白い服装の男性らは、手に長い銃……ライフルを持っていた。


旧世代において武器は様々な進化を遂げていったが、しかし個人が携行する武器としては火薬を使った武器以上のものは開発することが出来なかった……レーザーを発射する銃というものも開発されてはいたのだが、エネルギーを供給するジェネレーターやバッテリーの運搬などが必要不可欠であり、小隊以上での運営が必要だったためである。

それ故に銃火器と言うものは世界が海に沈むその直前まで長く使われ続けており、大砲と同様にかなりの数が様々な人の手に渡った……この島にも数十挺の様々な銃が保管されているし、有事には使用できるように整備もなされている。


が、銃には致命的な欠陥があった……それは、銃弾である。


構造が単純であり、極論を言えば火薬のような爆発物さえあればその辺の岩だろうと鉄の塊だろうと発射できる大砲とは違い、銃火器のそれは銃にあった大きさの弾を用意し、使わなければならない……拳銃用の弾ではライフルで撃つことはできないのだ。

雷管のような手で作成するには時間も手間暇もかかる装置も必要であり、それを湯水とまでは言わないまでもまとまった量を消費する銃火器は、とても平時から運用できるような武器ではないのだ。


ごくまれに、軍用の密閉保管庫を回収サルベージする以外に、まともに銃弾を用意することが出来ないのが現状である。


そういった理由から、島に保管されている銃も本当に発砲できるのは何挺あるか、といったところだ。

そして、銃弾が何発残っているのかと言うのも考えると、これらを使うのは本当に最後の手段である。


が、相手はその銃を惜しげもなく持ち出しており……しかも、白い服を着た男たち全員がライフルを手にしている。

さらに言えば、フロックコートを着た中年の男も腰にピストルを提げており、単なる見せかけだけのハッタリでなければ、島が保有するものよりも遥かに相手の方が圧倒的な暴力を持つことになる。

……もっとも、それは軍艦に乗ってこちらに来ている時点で分かり切っていたことだが。


「突然の来訪、失礼する。こちらも多忙故に長期の滞在はせず、目的が達成次第、速やかに退去することを約束する」


フロックコートを着た中年の男性が声を上げる。

金色で短く切りそろえた髪と、鋭い鳶色の目が島の人々を睥睨する様子は、堂に入ったものであった。

彼が今回の出来事の責任者であると、誰しもが理解する。



「我々の目的はただ一つ。アンドロイドの身柄を引き渡しを要求する」


その言葉にシラマは目を見開き、オトは無表情なまま、しかし目を瞬かせた。

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