31-4.マクロナルド
マクロナルドでの注文を終え、受け取った商品を持って生徒会室へと向かう。
「休日までここに来ることになるなんて……なんか変な感じ」
「そうかな、生徒会役員はおおむね毎日誰かしらここにいるものだよ」
「ワーカホリックじゃないですか? えっ、私もそうなるってこと?」
ほかに生徒のいない校舎は異様な静寂観に包まれていて、非日常を演出しているように煌々と生徒会フロアだけが明るく電灯に照らされている。
会長の発言に若干引きつつ、自分の行く末を予言されたようで慄いた。
「それほどじゃないさ、やりがいもあるしね」
「そういえば、会長はなんでヒーローなんかやろうと思ったんですか?」
生徒会フロア、その応接室に入ってマクロナルドの袋をローテーブルに置く。
軽食をするにはかしこまった空間だけど、ほかの誰も気にしていないなら、それは無いのと同じこと。
なんともない風に装って一人ずつ紙袋に手をいれ、ハンバーガーなどを取り出した。
「やろうと思ってやってるわけじゃない。その必要があって、そのための力があったからね」
「うわ、キザで鼻につくセリフ……じゃあ、後悔とかしたことはないんですか」
えびフィレオの包装を剥きながら話を聞く。
注文した商品はそれぞれ、会長はサムライバーガー、副会長は照り焼きバーガー。
中田先生はチキンナゲットだけ。
「ある。 後悔のない選択なんかないさ。 誰にとっても、もしもあそこでああしていれば、あれをやれていればと思う事ばっかりだ」
「じゃあ、辞めたくなったりしないんですか?」
「ならないね。 僕には僕のやるべき事、為すべき事がある。 それは幸せなことだし、その期待に応えることができるのは僕にとっても幸運なことだから」
「ひぇ~~、真顔で言っちゃってる……本物なんだ……」
会長は淀みのない調子でそう語った。それは特別なことではないように、そして説教臭くもない、雑談のような流れで言われるにはあまりにも穿ったような……倫理の教科書のようなセリフで。
正直ドン引きしつつも、言ってること自体には納得もした。
「そういえば、”コレ”って先生が作ったんですよね」
「
チキンナゲットをソースをつけずに左手でむしゃむしゃと食べながら、中田先生がスマホで何らかのデータに目を通しつつ端的に訂正の言葉で返す。
「えっと、この
「ああ、中田先生はそもそも魔具の研究と開発を専門にしていた研究者だからですよ」
正式名称を呼ぶのが気恥ずかしいのと、こういうのではしゃぐ歳でもないので微妙に口ごもってしまいながら追及を進めると、副会長がポテトを勝手に中田先生の使わなかったソースにつけて食べながら答えてくれる。
「じゃあ、養護教諭っていうのは?」
「表向きの肩書。優秀な人材を囲い込むには相応の表向きの理由がいるものだから」
「そういうこと。お前、俺がちゃんと診察してるところ見たことあるか?」
中田先生はそう言うと、無精ひげの生えた顎をさすってニヤリと嗤う。
たしかに、中田先生がまともに生徒を治療しているところを私は見たことがない。
というか、この学園には複数人の養護教諭がいてそれぞれ担当している症状が違うためもあって、陰のうすい中田先生は「すごいダルそうでサボらせてくれる養護教諭」という印象しかない。
「……でもそれってすこしおかしくないですか? 中田先生は
「いや、生徒会にはそこまでの権限はないよ。関係各所に関しての影響力があると言っても、あくまで進言する程度。そしてああいう魔獣絡みのトラブルにおいて、お互いに不干渉というルールを作るくらいしかできない。 まあ、今期生徒会においては変身によって魔獣を滅することができるってアドバンテージがあるしね」
綺羅会長は満足げに疑問に答えてくれるが、それは表面上の回答でしかない。
私が聞きたいことはもっと深層の情報なのだけど。
「つまり、生徒会……じゃなくて
会長は、ただ微笑んで私の言葉を受け流した。
それについて今は応える気がないという事を察して、私はえびフィレオにかぶりつくのだった。
やっぱり、この街には私たちの知らない大きな陰謀が渦巻いている。
佳音さんや百々目はそれに巻き込まれているに違いない、そう確信するに足りる内容だったけど……。
まだ全貌は見えない。もう少し探らないと。
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