アンチ・ヒーロー!

赤佐田那覇摩耶羅羽

掌編

Ex.はじめましての方はここから! 大体1500文字でわかる! アンチ・ヒーロー!


 はじめに。

 この小説の主人公は「朝霧百々目(あさぎり どどめ)」です。

 魔術師なのに魔術が使えない「欠け紋(ロスト)」として生きていましたが、「終焉(オメガ)」と呼ばれる力に目覚め、戦いの日々に巻き込まれていきます。



 ***


 ――街に、危機が訪れる。


 紅い亀裂が空間に走り、その裂け目から恐ろしい魔獣たちが次々と溢れ出した。人々はパニックに陥り、あたりには悲鳴がこだまする。闇夜を覆うのは、蜘蛛のような8本の肢体を持つ、異形の怪物。

 その凶悪な魔獣が、逃げ遅れ躓いた少女に狙いを定めた。


「きゃあっ!」


 少女の叫び声が虚しく響く。瞬く間に蜘蛛男は糸を吐きかけ、彼女をぐるぐると縛り上げた。その巨体が少女を肩に担ぎ上げる様子は、まさに圧倒的な力による捕食行動だった。

 だが、その時。


「そこまでだ。お前たちの好きにはさせない」


 冷たく、鋭い声が響いた。魔獣の前に立ちはだかるのは、目つきの悪い少年。黒髪を尻尾のように後ろに流した姿が、夜闇に溶け込むように現れる。

 ――朝霧百々目。


「キシャ!?」

 少女を担いだまま、蜘蛛男は本能的に敵の存在を察知し、警戒心を露わにする。糸を吐き出し、少年を絡め取ろうとする動きは素早く、的確だった。しかし、その一撃は無駄に終わる。


 バシュー! と放たれた糸は空を切り、少年の足元をかすめた。百々目は冷静に身を翻し、軽やかに回避する。

 その動きには迷いがなく、彼の顔には余裕すら浮かんでいた。


「真の邪悪ってものを、教えてやるよ……変身!」


 百々目が両腕を前に突き出し、咆哮する。その瞬間、彼の身体を覆うように蒼い結晶が突如として現れ、周囲の空気を震わせた。

 結晶はまるで砕けるように細かな亀裂を生じ、瞬時に粉砕される。

 そして、その場所に立っていたのは――黒鉄の戦鬼だった。


「オ、オメガ……ッ!?」

 蜘蛛男の驚愕の声が漏れ出る。まるでその言葉が口にするのも恐ろしい存在であるかのように、震えが混じる。


「喋れるんじゃねえか、三下怪人が!」


 百々目――いや、「オメガ」となった彼は、壁に張り付いた蜘蛛糸を無造作に掴むと、一気に引き寄せる。蜘蛛男との距離を瞬時に詰め、その巨大な体躯を蹴り飛ばした。

 その一撃は見事に蜘蛛男の腹部にめり込み、苦悶の声を上げさせる。少女はその隙に救出され、地面に転がり落ちた。


「おい、テメエもこんな夜中に一人で出歩いてんじゃねえよ」


 百々目は救出した少女の額を軽く小突き、蜘蛛糸を手で引きちぎって解放する。彼の無愛想な態度には、どこか厳しさと優しさが入り混じっている。


 少女は放心状態で感謝の言葉も言えずに立ち尽くしていたが、その間にも蜘蛛男は再び立ち上がり、鋭いかぎ爪の腕を構えた。


「オメガ……ナゼ、ジャマスル」


 蜘蛛男の声には、混乱と恐れが同居していた。彼はまだ戦えるはずだが、その言葉には敗北を予感するような響きがある。


「なぜって? 決まってんだろ。俺はお前らみたいな『英雄気取り』をぶっ壊す――アンチ・ヒーローだからだよ!」


 百々目は口角をわずかに上げ、冷徹な目で蜘蛛男を見据える。彼の言葉に、純粋な正義感など欠片もなかった。

 そこにあるのは、ただ「破壊」と「対立」。偽者の英雄たちを壊すために立ち向かう、アンチ・ヒーローとしての強い信念だけだった。


「ギ、ギシャアア!!」

 蜘蛛男も覚悟を決め、拳と爪が交錯する――




 拘束から解放された少女が、逃げ出しながら振り返る。そこにいたのは、まるで漆黒の鬼のような――邪悪にも見えるほどの圧倒的な存在感を纏った彼が、ただ一人、立っていた。



 ***



 この出会いは物語のほんの序章。百々目が向き合う世界の深淵と、彼の選択を本編でお確かめください!

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