作品紹介:恋愛(ドロドロ愛憎劇)

1.マルベリーの木の下で、あなたはわたしの全てを奪う/碓氷シモン(紹介No. 8)

 今回は、2024年10月9日に完結したばかりの本格的ヒストリカルロマンス『マルベリーの木の下で、あなたはわたしの全てを奪う』(碓氷シモンさん作)です。


 このコラムの最後、------の後は少しネタバレになりますので、作品を読んでいない方は飛ばしていただけると幸いです。あまりのネタバレには一部伏字があります。


 なお、碓氷シモンさんが当紹介記事の内容についてのコメントを近況ノートで公開してくださったので、ネタバレの前にリンクを貼ってあります(追記2024/10/13、15)。



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紹介No. 8


URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093081278170948


話数:32(2024/10/9現在)※最後の2話は後書きと参考作品


文字数:66,105文字(2024/10/9現在)※最後の2話を含む


投稿状態:完結済


セルフレイティング:残酷描写有り、性描写有り

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 碓氷シモンさんとは、活動しているサイトがほとんど重なっている上に、私好みの本格ヒストリカルロマンスを書いていらっしゃることから、ありがたいことに普段から交流させていただいています。


 交流のきっかけは、私の自主企画『そのドロドロ、過剰です⁉︎』(現在は終了)でした。以前、この感想エッセイで取り上げた『桜兎(さくらうさぎ)・明治悲運奇譚』(瑠花さん作)も、その自主企画に参加していただいたのですが、碓氷シモンさんも別作品の『導く者に祝福を、照らす者には口づけを 〜見捨てられた伯爵夫人は高利貸しの愛で再び輝く〜』で参加してくださいました。実はその作品を別サイトでも読んでいたので、その作者様と交流することができることになってとても嬉しく思ったのを覚えています。


自主企画『そのドロドロ、過剰です⁉︎』(現在は終了)

https://kakuyomu.jp/user_events/16818093080425113428


『導く者に祝福を、照らす者には口づけを 〜見捨てられた伯爵夫人は高利貸しの愛で再び輝く〜』(完結済)

https://kakuyomu.jp/works/16818093080865790183


 碓氷シモンさんが私の自主企画に参加してくださった上記の作品に負けず劣らず、今回紹介させていただく『マルベリーの木の下で、あなたはわたしの全てを奪う』でも、主要登場人物達の愛がもつれにもつれ、読者に余韻は残すものの、タグ通りの結末になります。そこで、恋愛ジャンル作品紹介に特別に私の大好きな「ドロドロ愛憎劇」カテゴリーを新設し、今回、この作品をトップバッターで紹介いたします。次回のドロドロ愛憎劇カテゴリーで紹介する作品はもう決まっていますが、残念ながら(重要です!)のドロドロ愛憎劇のWeb小説は少なく、第3弾は未定です。そんな作品を見つけましたら、読者の皆様にぜひご一報いただきたいです。


 『マルベリーの木の下で……』も『導く者に祝福を……』も、碓氷シモンさんの「大陸の恋シリーズ」に入っています。必ずしも登場人物が重複するわけではありませんが、世界観が共通で、「19世紀半ばから20世紀にかけて、ヨーロッパの架空の国々で巻き起こる様々な恋模様」を題材とした本格的ヒストリカルロマンスです:


https://kakuyomu.jp/users/nekosukee/collections/16818093081561914156


 この「大陸の恋シリーズ」のようなシリアスな展開のヒストリカルロマンス、特に本作のように(ちょっと)切ない系のヒストリカルロマンスが私は大好きです。先日ご紹介した『レオナルドとベアトリーチェ』(荒川馳夫さん作)も本格的ヒストリカルロマンスですが、そのような作品が残念ながらWeb小説には少ないのが現状です。見つけ次第、この感想エッセイでも紹介していこうと思いますので、読者の方々も見つけたら是非教えてください。


 「大陸の恋シリーズ」のように、私は世界観を共通とした物語の世界が広がっていったり、一旦完結した作品のその後や関連のお話がスピンオフでまた読めたりするのが好きです。なので大陸の恋シリーズとして複数の作品が何かしら繋がっているのにワクワクします。この世界がどんどん広がってなっていくのを楽しみにしています。


 そのシリーズの中から、今回は完結したばかりの『マルベリーの木の下で、あなたはわたしの全てを奪う』を僭越ながら紹介するのに選ばせていただきました。


 前置きが長くなってしまいました。早速ですが、私の書いた粗筋を掲載します。ただし、ネタバレしてもいけないですし、ボキャ貧の私には碓氷シモンさんの用意した粗筋と大して違うことは書けていません。


【粗筋】

 第1次世界大戦前後の不穏な状況にあったヨーロッパのように、それまでの王侯貴族が支配してきた古い体制と価値観が崩壊した世界が舞台です。ヒロイン・エレノアは、そんな時代の荒波に翻弄されつつも、傾きかけた婚家を切り盛りし、過去の栄光を忘れられない姑と幼い息子を守って、夫ヴィルヘルムの出征後も強く賢く生き抜いています。でも彼女が待ち焦がれる夫は中々復員してきません。誰もが諦めろと言う中、6年後になってようやく彼は復員してきましたが、そんな彼には何やら秘密がありそうで、それが分かった時、彼らに悲劇が襲いかかります。


*****


 タイトルにあるマルベリーって桑の実のことなのですが、本作を読み始めてマルベリーをググるまでその事実を知りませんでした。桑の実っていうと、田舎のガキどもが近所の桑畑に侵入して手指と口の周りを赤黒く染めながら盗み食いするイメージがあります(古いかな?)。でも今の子供はそんなことしないでしょうし、そもそも桑畑がないかもしれませんね。とにかく桑の実をマルベリーと呼ぶと途端におしゃれな感じになって、碓氷シモンさんの作品の名付けセンスが光っています。このマルベリーの木も本作の中で重要な役割(文字通り!)を果たす場所になります。


 この作品を読むと、まず第1次世界大戦前後の不穏なヨーロッパの雰囲気たっぷりの世界観に魅入られます。それまで特権階級だった人々が突然落とされた境遇への悲哀、時代の荒波に翻弄されるありとあらゆる階級の人々の苦悩、それに伴う社会の混乱――そんな激動の時代の雰囲気が主人公達のエピソードから垣間見えます。


 でも私が最も惹きつけられたのは、エレノアとヴィルヘルム、粗筋には登場しないもう1人の幼馴染の3人が愛に翻弄されるところです。そこには今流行りの溺愛とかスパダリとかは登場しません。むしろ切ない気持ちが溢れますが、重厚な世界観と相まってむしろそこがいいのです。


 結末はほぼ「バッドエンド」のタグ通りですが、具体的な結末は予想していなかったもので驚きました。でもそれをエピローグが補って余韻を感じさせる結末でした。


 実はバッドエンドもメリバもあまり好まれている結末ではないのですが、碓氷シモンさんはちゃんとタグで予告していました。ただ、バッドエンドやメリバのタグを入れると具体的な内容が分からなくても、ハッピーエンドではないのは分かってしまい、ネタバレで興覚めするという意見もあると思います。そういう完全なネタバレ敬遠派がいる一方で、具体的な結末までは分からないのだから読む意欲をそぐことはないという意見もあるでしょう。読者がタグで選択肢を与えられている場合、バッドエンドやメリバが嫌な読者はその作品を読むのを回避することができます。


 タグとネタバレの関係は難しい問題で、人それぞれの考えがあるので、明確な結論は出ないでしょう。2024年8月にその件について考えさせられることがあり、近況ノートにも書きました。その内容を加筆して「物書き徒然日記」コーナーの「永遠の問題:タグ付けとネタバレの関係」という題で公開してありますので、もしよければどうぞ:


https://kakuyomu.jp/works/16818093085464641449/episodes/16818093085772586403


 話を『マルベリーの木の下で……』に戻しますが、碓氷シモンさんは後書きと最後の1話で当初のプロットと変わった部分など興味深い創作裏話や、インスピレーションの元になった作品を披露してくれています。プロットがどう変わったのか、読者の皆さんはどちらが好みか、確認してコメントしてみてはいかがでしょうか? 小説を書く身としては、読者の皆様にご意見をいただくと次の創作のヒントになってありがたいですよね。大抵の作者さんはそう思われることと思います。


 それから本作はスピンオフなどの予定はなくこれで完全完結とのことですが、碓氷シモンさんの大陸シリーズで『マルベリーの木の下で……』と『導く者に祝福を……』が繋がっていく予定だそうで楽しみにしています。


私のレビューはこちら:

https://kakuyomu.jp/works/16818093081278170948/reviews/16818093081622798439



【追記2024/10/13、15】

 碓氷シモンさんが当紹介記事についてコメントを近況ノートで公開してくださいました。


 当記事で「マルベリー」は「桑の実」だと書きましたが、碓氷シモンさんによればヨーロッパの桑の木は高さが3~5メートル以上もある大木になるそうです。確かに日本の桑の木だと作品の中のマルベリーの木より小さ過ぎるイメージでした。


 その他に近況ノートには、マルベリーをタイトルに選んだ理由や、バッドエンドについて碓氷シモンさんの考えが書かれていて興味深いですので、是非当記事と合わせてご覧下さい。


碓氷シモンさんの近況ノート「読書録で紹介して頂きました ~その1~」(2024/10/13)

https://kakuyomu.jp/users/nekosukee/news/16818093086608787642


碓氷シモンさんの近況ノート「読書録で紹介して頂きました ~その2~」(2024/10/15)

https://kakuyomu.jp/users/nekosukee/news/16818093086799760041



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↓まだ読んでいない方はネタバレがあるので、飛ばして下さい↓


 完全完結とおっしゃってるのに図々しくもスピンオフの希望を出してしまいます、すみません。エレノアの鬼姑が格下の男爵を見初めて無理矢理結婚まで持っていったのに結婚後にようやく現実が分かって失望していく過程も読みたいなぁなんて……需要ないですかね? ところで鬼姑は、復員してきた息子のあの事情に気付いていたのでしょうか?


 マクシミリアンは、父に手紙を送るなと言われてその理由を伝えられた時、父の意図を何となく悟っていたような気がします。それでも父の言うことを聞いた彼がいじらしくて涙ぐましかったです。


 タグにちゃんと「バッドエンド」とありましたが、碓氷シモンさんがプロットを変えるのを心の奥底で期待していたのか、結末はやっぱり衝撃的、かつ予想以上でした。〇〇には秘密をかかえたまま〇〇ていって欲しかったな、そうすれば△△も〇〇ていてくれただろうにとつい思ってしまいました。でも碓氷シモンさんは読者に微かな希望を残してくださいました! 最高です! それならタグはバッドエンドじゃなくてメリーバッドエンド(メリバ)かな?と思ったりもしました。

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