異世界転移した召喚勇者の冒険譚

古竜の巣窟⑤

「厄災討伐だ！」

全員が戦意を取り戻し、再び剣や杖を握った。ここに来た当初は全く歯が立たず、たちすくんでいたが、篠崎が戦う意志を取り戻してくれたおかげでギリギリ立て直すことができた。

「ありがとな、称矢」

「気にすんな、そういうお礼はコイツをぶっ倒した後だ」

「わかった！なんとしてでも倒すぞ！」

さっきの篠崎とは大違いだ。恐怖を乗り越え、一緒に戦ってくれている。

「たかが一般人如きが調子に乗るな！」

「前衛とタンクは前を張って！後衛役は後ろから援護を！」

来た当初とは大違いなほどに連携が違う。でも、なかなか決定打を与えられない。

「称矢、まだあれに有効打がない。何かいい手段はないかい？」

「あるにはあるけど…かなり難しいぞ」

「それでもいい。仲間が…クラスメイトが助かるならそれでいい」

この目は、透き通るような目は覚悟を決めたやつの顔だ。

「…わかった。教える。あいつの首の下。鱗が一枚だけ上下逆になっている、逆鱗（･・）を切るんだ。そしたら有効打になるはずだ」

「そこを一発かませばいいんだね」

「だが、あそこまで近づくにはかなり難しいぞ。それこそ、バレないように何かに隠れないといけないし…」

「そうか…何かいい手段は———うわっ！」

攻撃を交わしながら対策を練っていたが、こちらの方に攻撃の手数が増えた。

こちらを警戒している…？篠崎にか？

「何はともあれ攻撃は厳しい。一瞬の隙に飛び込まないと倒せない」

「わかった！何かいい手段が思いついたら教えてくれ！」

攻撃をいなしながら考える。

以前俺が倒したドラゴンの倒し方ではほぼ不可能…だからと言っていい手段はないし、全体攻撃をしても硬い鱗に弾かれておしまいだ…何かいい手段はないか？いい手段は。

戦闘時間が一時間を過ぎ、決定打が出せないままじわじわと押されていった。一人…また一人と戦闘不能になっていった。

「称矢！何かいい案はないのか！」

「あったらとっくに実行しているよ！」

『どうした？傷もつけれない奴らがなにをしたって意味ないぞ？』

その間にもみんなは攻撃をしていく。鱗に弾かれ、魔法も当たっても意味がない。

鱗？正面から叩き切るのではなく隙間に差し込めば攻撃が入るんじゃないか？

剣を持ち直し、攻撃に加わる。ブレスを避け、尻尾を飛び、鱗の間に剣を差し込んだ。

『うぐっ…』

「よし、効いてる！篠崎！鱗と鱗の間を切れ！そしたら攻撃は効くぞ！」

「わかった！みんな聞いたか⁉︎ 称矢の言っていることを信じろ！鱗の隙間を狙え！後衛職の奴らは顔を狙って！視界を無くしてくれ！」

「「「「「「「了解！」」」」」」」」

攻撃が効き始めて攻勢が変わった。鱗の隙間を狙っての攻撃。致命打にはならないけど、確かに効いている。このまま押し切っていけば、倒せる！

『異世界民風情が、調子に乗るなあぁぁぁぁぁ！』

視界を無くしていながらも攻撃をしてくるファフニールは凄まじい。お前は強い！　だけど、こっちも負けられないんだ！少しずつしていた攻撃が効き始め、動きが鈍くなる。

『まだっ…だ。まだ終わってなどいないっ！』

「そ、空を飛びやがった！」

翼に穴が開きつつも空を飛び、ブレスを放とうとしてくる。絶体絶命…誰もがそう思った。

「させないっ！」

雅人のナイフがファフニールの口の中に入っていく。グサっと刺さり、ブレスの発動が止まった。

「今だ！押し切れ！」

攻撃を続け、お互いに戦いが出来なくなってきた。攻撃の密度も減って攻めやすくなったが、戦闘時間はゆうに三時間を超えていた。

『はぁ………はぁ………まだ…戦うか？』

「はぁ……あぁそうだ！まだ戦う！……まだ、決着がついていないだろ！」

『…そうか…今まで戦ってきた中で上位の奴らと並ぶ強さだ…だが、所詮はそこだ。そこまでの実力しかない。我を倒すことなんてできやしないのだ』

「この世に…できないことはない！お前は一人しかいないからわからないんだ！仲間を、親友がいれば…なんだってできる！お前は挑戦するのが怖いだけのただのビビリだ！」

『我を……侮辱するなあぁぁぁぁぁぁぁぁ！』

最後の攻防が始まった。さっき以上に攻撃密度が増し、攻撃をかわせずに喰らってしまう。何度くらっても、俺でなくとも、他の奴のために戦う。

one for all（ひとりはみんなのために） all for one（みんなはひとりのために）　その意思で、ここで命をかけて戦っているんだ！これはゲームじゃない。死んだ奴らも戻ってこない…だからっ、こんなところで終わりたくないっ！

「よし、いける！倒せる！みんな、あともう一踏ん張りだ！諦めるな！」

『うぐっ……こ、こんなことで終わらせるものかっ！　なぜだ！なぜそんなにあきらめない！』

「それは……守るべき奴ら（・・・・・・）がいるからだ！それを知らないお前なんかに負けない」

最後の攻撃が刺さった。ファフニールの巨大な図体が倒れる。倒した、倒したんだ。

「いやっっったあぁぁぁぁぁ！」

「勝ったぁぁあぁ！」

「終わった…」

みんなが勝利を確信した。倒し終わった、そう思っていた。

ファフニールの図体が起きる。死んだはず…

『お前たち如きに切り札を使うなんてな…』

生き返ったファフニールの下には骨があった。恐竜か？

『セブンテイルドラゴンを食っておいて正解だった』

「なっ……嘘…だろ？あと何回か殺さないといけないのか？」

「む、むりだ…勝てない…」

『はっはっは！その顔だ！以前にも戦った十人も同じ顔をしていたわ。勝てるようなら勝ってみせよ』

コイツらと同じ膨れ切った自尊心（プライド）自分は最強と思い込む姿はどこかあいつらと同じだ。

「く、クソおぉぉぉぉぉぉ！」

何人かが突っ込んでいく。その光景はまだあいつを知らなかった時と同じだ。壁に弾かれ、口から大量の血を吹き出し、気絶していく。当分、復帰は無理だろう。

でもっ、雅人は死んでほしくない。一人、歩を進める。誰も動けない中俺だけが動く。

「しょ、称矢？無茶だ！君がどんなに強くてもあ、アイツには勝てないっ…」

「なんでそう決めつける？」

「え？」

「そうやって勝てない勝てないと言って逃げてるだけじゃないのか？死にたくないから」

冷たい言葉でそう言い放つ。

「ち、違うっ！お、俺は…」

「だからなんだよ。現実から目を背け、自分に都合のいいことしかしていないじゃないか。でも、結局は誰かが終わらせないといけないんだ。それを俺ひとり（・・）でやる。それだけのことだ」

「称矢に…死んでほしくないから…」

その言葉に思わず泣きそうになる。実際、俺も怖い。逃げ出せるなら逃げ出したい。俺もまだ、恐怖から立ち直れていないし、乗り越えてすらいない。でも、現実を見て、悩むときは悩み、やることはやらなければいけない。そう思っているからこそ、今ここにいる。

「わかったな？」

「…………。」

話終わり、歩を再び進める。コツコツと小気味にいい音を立てながらファフニールの前まできた。

『話は…終わったのか？』

『あぁ、終わったさ。お前をぶっ殺すための算段もなっ！」