古竜の巣窟④

小さな復讐を決心した俺たちはクラスメイト復讐対象の少し後ろに着き、あいつらが倒していく様を見ながら攻略していった。三十階層につき、階層ボスフロアについた。


「…なんか禍々しい魔力?っていうのが濃くなったな」

「本当にここ大丈夫なのか?」


そう不安になる俺と雅人とは対照に


「ここのボスなんてさっさと倒して次の階層いこーぜ!」

「そうだ!俺たちは勇者様なんだ!」

「こんなところで止まってられるかよ!」


やる気マックスで扉に手をかけた。重そうな扉を開け、中にゾロゾロと入っていく。全員が入り終わったのを見て、俺らも入る。


「なぁ?何か嫌な予感がしないか?」

「そう?気のせいじゃない?」

「それがフラグにつながるんだよなぁ…」


俺は保険で扉に人一人ほどの石を挟んでいつでも出られるようにしておいた。

ダンジョンの階層ボスの部屋は一度入ると出られなくなるが、石などのものを挟んでおけばいつでも撤退が可能になるダンジョンの裏技だ。


「お、黒竜か?倒し甲斐のありそうなやつだな」

「厨二病はよしてくれ…」

Gyaaaaaaaaaaaaa!

ドラゴンが吠える。それのよって濃密な魔素が俺たちに降りかかる。濃度が高すぎて何人かの顔色がだいぶ悪い。


「あいつ、本当に暗黒竜か?」

「ん?どうして」

「暗黒竜にしては数倍体が大きい気がする。あと、暗黒竜なら以前の最強パーティ攻略の時の傷を負っているはずなのに傷がない」

「治ったんじゃない?」

「いや、わからない。鑑定してみるか…鑑定———っ!」


鑑定結果は予想していたものとはかけ離れた絶望結果が待っていた。

―――――――――――――――――――

【厄災龍ファフニール】

レベル:1000

魔力:360000

攻撃力:690000

防御力:712000

俊敏力:100

知力:29000

スキル:≪暗黒魔術≫≪飛翔≫≪厄災のブレス≫

    ≪威嚇≫

称号:≪終末世界の覇者≫≪神代の厄災≫

―――――――――――――――――――


「な、なんでこんな奴がいるんだよ…」

「どうした?レベルが高かったのか?」

「あいつは暗黒竜グリードじゃない、ファフニールだ…」

「ファフニール?なんだソイツ?」

「俺も詳しくは知らないが地球の神話の中の厄災と描かれてた気がする…」

「じゃあ、今戦おうとしてるコイツは地球の厄災?」

「間違い無いだろう。今はとにかくあいつらと撤退だ!」


そのころ既に時遅し。情報を持っていないクラスメイトたちは攻撃をしていった。

ろくに回避もしない厄災ファフニールを軽視していた。


「はっ!回避もろくにしないコイツになんで撤退したんだ?」

「それな、まじでなんでコイツに負けたの?そいつら」

「もしかして肩書きだけのザコとか?」


戦いながら談笑するクラスメイトを黙って見ているファフニール。勇者ザコたちは自分らの攻撃が効いていると思っているが実際はノーダメージだ。鱗を貫通しているようだが、表面上にわずかな傷しかついていない。

「……貴様ら、異界の勇者か?」

異界の勇者はこんなに弱くはないと思いつつファフニールは聞いた。


「あぁそうさ!俺たちは魔王や貴様をぶっ殺す異界の勇者様だ!大人しく死にやがれ!」


増長しまくった自尊心を胸に確定した勝利実現不能な妄想をみて攻撃をしてくる奴が四名。


「よせ!そいつはもう暗黒竜グリードじゃない!厄災の龍だ!」

「くだらん。数百年前の10人組の方がよっぽど脅威だったわ。お前ら死ね」


忠告も間に合わず暗黒のブレスを正面一帯に吐き、勇者とほざいて攻撃していた奴らもろとも消し飛ばした。あたり一面には残骸で散らかったボス部屋がそこにはあった。攻撃していた4名は黒焦げになって、塵となって消えていった。


「そんな…こんな一瞬で…」


みんなの想いを代弁するかのように篠崎が独語する。

勝てない。誰もがそう思った。戦意喪失した全員を撤退させようと思い、扉の方へ振りむく。ない。さっきまで挟んでおいたところに剣が刺さって扉が閉じていた。


「そんな…コイツを倒せってのか…やってやろうじゃねぇか」


過去、様々な文献を読み漁って攻撃の特性や来るまえの予兆を全て暗記したが実践経験はない。はたまた竜なんて戦ったこともない。


「ほう、我に挑むか小僧。その戦意叩き潰してやろう。かかって来い」

「あぁ、やってやるよ!歯食いしばれ!」

「よせ!一人じゃ何もできないぞ!」

「じゃあ誰がやるんだ?」

「そ、それは…」

「どんな仕事も結局は誰かがやらないといけないんだよ。それが世の中ってやつだよ」


無謀とは思っているが帰還するにはやむを得ない。死ぬ気はさらさらないが、一応…な。会話している俺たちに間髪入れずにブレスを吐こうとするファフニール。口から黒い炎が見えた俺はさっき雅人からもらった投げナイフを唯一防御のない目に投げる。そっちに注意が向いてブレスの発生がなくなった途端、俺は急いで詰める。

ナイフを弾き、俺が正面にいることに驚いたファフニールだが、冷静に尻尾を振って攻撃をする。ジャンプでかわし、どんどん距離を詰める。その様子に残りの奴らは感嘆していた。今まで蔑んできた奴が俺たちを助けている…みんなが見たくない光景だが、今は携つくしかない。

ブレスや尻尾の動きなどで次の行動モーションを予測し、攻撃をしていく。木刀モドキでは斬れないと悟り、ミスリルの剣を出す。攻撃を交わしつつ、意味のない攻撃をしていく。少しでも戦意を取り戻してくれる奴が現れることを願って。

逆鱗に攻撃しなければ竜は討伐できない。ただでさえ、数十人いても厳しい戦いになるのにソロでどうにかなるような相手じゃないことは明白。

だから相手には効いていないが側から見ると聞いていそうな攻撃をして、戦う意志を持って欲しいと言う思いで戦う。雅人が途中参加し、二体一になったが状況は変わらない。ましてや不利状況になっている。せめて一人、遠距離攻撃のやつが復活してくれれば…そんな不利状況の中、何十分も戦った。俺も雅人も満身創痍だ。それに対してファフニールは余裕の表情を見せている…表情あるのか?

まぁ、そんなことはどうでもいい。早く、

「勇者なんだろ!戦えよ、陽太!」


【side篠崎】

無理だ、勝てない…

俺は絶望に打ちひしがれていた。称矢と雅人くんが必死に抵抗しているが攻撃が効いていない。それでも戦い続けている。足が動かない、手も動かない。逃げ出したい。そんな思い出いっぱいになっていた。全身切り傷だらけになりながらも戦う二人を傍観していた。くらったら即死の攻撃のせいで6人が死んだ。『ゲームなんかじゃない!現実だ!』という称矢の言葉を思い出す。…少し調子に乗りすぎていたみたいだ。勇者勇者ともてはやされ、自分を見失ってしまった。親友だった称矢がいじめられていても、庇えず見て見ぬふりをしてしまった。そんなの親友じゃない。

「勇者なんだろ!戦えよ、陽太!」

そんな声がしてくる。無理だ、できない。

「少しぐらい命かけろ!」

その声の主は称矢だった。

目尻が熱くなる。泣いているのか?俺は……勇者。その肩書きは彼に渡したほうがいいな。くらい、最高ので、人生を終えよう。

剣を再び持ち、みんなに呼びかけた。

「全員、武器を持て!総力戦であいつを倒すぞ!嫌いだからやりたくないなんて言うなよ!死にたくなかったら戦え!」


【side称矢】

よし!全員が再び戦意を取り戻してくれた!まだやれる!戦える!


「ここからは全員で始めるぞ!総力戦で厄災を討伐するぞ!」

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