古竜の巣窟③

「返事しろよっ!」


地面に落ちた虫?のようなものに話しかけるが、何の返事も帰ってこない。

足音と魔物の唸り声が響くダンジョン内で癇癪を起こす。さっきの会話の中に、魔王関連という情報しか得られず、揶揄われたことと、何も情報を聞き出せなかった自分に対して怒る。そうしていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。雅人だ。


「おい、大丈夫か⁉︎」

「あ、雅人…ごめん千載一遇のチャンス逃した…」


【side雅人】


突然、後ろの方で怒号が聞こえ、急いで向かってみると、そこには癇癪起こした称矢が地団駄を踏んでいた。そんな称矢に僕は話しかけた。


「おい、大丈夫か⁉︎」

「あ、雅人…ごめん千載一遇のチャンス逃した…」


今までに見たことがない顔をしていた。怒っているのか泣いているのかわからない酷い顔をしていた。


「何があったの?」

「…魔王軍幹部と思われる奴から俺に接触してきた…」

「はっ⁉︎」


今まで声も姿も見たことのない敵からわざわざ接触してきたのだ。

初めての接触に僕は少し興奮して称矢に問いかけた。


「どんな奴だった⁉︎姿形は見たか⁉︎声は⁉︎」

「…すまない。本人自ら接触したのではなく魔物のようなものを介して話しただけだ」

「そうか…でも、声は聞いたんだろ?」

「聞いたけど、記憶が少し曖昧なんだ。それでもいいか?」

「十分だよ!情報を聞き出せなかったのは残念だけど、それでも何かの役には立つよ!」


首を垂れて謝ってくる称矢を励ましながら魔王幹部と思われるやつの情報を聞く。

称矢が他のみんなに行って話しても、嘘だと決めつけ話を聞かない。でも、僕伝に話せばあいつらも理解してくれるかもしれないと思い、できる限りのことを聞く。


「お前らと距離をとって探索してたら奥の方から虫が飛んできてそいつが俺に話しかけてきたんだ」


虫…ねぇ。ダンジョン内には虫も生息して入るらしいが、滅多に遭遇できないらしい。だからなんだと思うが、人の声を放つ虫なんているのか?そう思っていると、称矢が察したのか「これだ」と言って虫を拾い上げた。…よく触れるな…えっと確かにダンジョン内にはこういう虫もいたが、よく見てみると魔石に針のようなものがついている。魔道具に酷似しているが、微妙に違う。


「これ虫じゃなくて多分魔道具だよ」

「虫じゃなかったか…」

「でも、魔道具ってよりかは虫と魔道具を合体させたようなものかな?」

「すげぇな…よくそんな一瞬で分かったんだな」

「ま、まあ修行のおかげかな?まぁわかった。今の情報他の奴らに伝えてくるね」

「ありがとう」


称矢が話してくれた現状唯一の情報をみんなに知らせないと!

僕は急いで情報を共有すべくダンジョン内を走った。道中出てくる魔物を交わしながら走っていると、すぐに追いついた。


「ん?雅人どうした?そんな過呼吸になって」

「はぁ……はぁ…ま、魔王軍幹部と接触ができたって」

「ふ〜ん…は⁉︎いつだ!いつ接触した!」

「落ち着いてみんな。接触といっても魔道具を介した会話ってだけで姿はわからない」

「それでも十分だ!で、いつ⁉︎どこで魔王軍幹部と遭遇した⁉︎雅人言って!」

「遭遇したのは僕じゃなくて称矢だよ」

「なんだホラ吹きかよ。聞いて損した」


さっきまで興奮気味に話に聞いて来たのに称矢の名前を聞いた途端その興奮も一瞬で消えた。


「そんな奴の言葉なんか信じんなよ」

「あいつ、知っていても黙ってるだけだし意味ないでしょ」

「雅人、お前騙されてるぞ?冷静になれ」

「僕はいたって冷静だよ。それより唯一の情報なのに無視するの?」

「無視?違うぞ。俺は冷静に嘘か真実か分けているぞ。今回の情報も何かフワッとしていて信憑性もない。そうだろ?」

「それは称矢の気が動転していただけで…」

「どうせ俺たちに構って欲しいだけの陰キャだろ。雅人もほっとけ」

「そんな…」


僕と称矢の扱いに雲泥の差がある。この差を取り払わないといつまで経っても称矢ぼ話は無視していないものとして扱ってしまう…なんとかしないと。唯一の友達である僕が…

罪悪感に苛まされながらトボトボと称矢の元に戻って行った。称矢は僕が戻ってくるなり明るい顔になったが僕は顔を横に振った。そのサインを見て称矢は落ち込んでしまった。


「何もさせてあげられなくてごめん…」

「…気にすんな。これは元々俺に責任がある」

「責任って、称矢が追うべきものは何もないだろ?」

「違う。それじゃない。俺が追うべき責任はその先にある」

「何それ?詳しく説明して」

「……あいつらは以前俺が見た奴らと似ているんだ」

「称矢はあいつらに見覚えがあるの?」

「あいつら自身を見たことはないが似たような奴らを見たことがある」


称矢の口から出される一言一言は僕の心に響いた。


「俺が中学二年の時、友達が複数人の奴らに呼ばれていたんだ。毎日のように。そいつらは俺の友達に日々暴力を振るっていたんだ。暴言、暴力、ネットへの晒し…数え切れないほどのいじめを俺の友達にしていた。俺も最初の頃は他の奴らと協力していじめを注意していった。同じくいじめられている奴らを見放せなかった俺たちは協力していじめてくる奴らから狙われている奴らと一緒に帰ったりしていた。その日々は楽しかった…でも、日を追うにつれいじめはどんどんエスカレートしていき、ついにその友達は学校の三階のベランダから飛び降りて命を絶ったんだ。いじめから逃れるために。飛び降りる前、ベランダにいる友達を見て話かけたんだ。そしたらその友達が突然、「背中に翼があれば世界を旅してみたいなぁ…」と意味のわからないことを言い出したんだ。その発言に戸惑っていると、そいつは「ねぇ?僕が今から自殺するから警察が来たら動機に、誤って転落しましたと伝えてくれ」ってな。ははっ!笑えるだろ?そいつはいじめて来た奴らを庇おうとしたんだ。俺は必死に説得した。でも、日々のいじめに耐えきれなくなったあいつは自殺をしたんだ。その後すぐに警察が来て俺は事情聴取を受けた。いじめのことを言うべきか言わないべきか…そんな葛藤をしていると、いじめっ子たちからマークされ、俺も対象になった。耐えきれない。でも、逃げられない。そんな恐怖が俺に襲ってきた。その日以来俺はそいつの死ぬ間際の一部始終の夢が流れてくる。払拭したくても、告げ口したら殺される。…俺も何度も死のうと思ったが、そいつがくれたキーホルダを見るたびにやめた。毎日のように続くいじめに耐え、証拠を集め続けた。そして俺は意を決して警察に提供をした。写真やボイスレコーダなど、小遣いを溜め、復讐のために全てを費やしてきた。でも、叶わなかった。いじめとしての証拠は受理され、あいつらには罰が降った。でも、俺が望んだ自殺していったあいつの分の復讐は果たせなかった。だからそのあいつの分も復讐をするために俺はこの学校に入った。復讐する奴らはほとんどが刑務所にいるが、あいつだけ…雨宮凛だけのうのうと生きている。だから、俺はあいつに復讐をする。たとえこの身を捨ててまででも…」


称矢の明かされてこなかった過去が明かされた。称矢の過去や雨宮が称矢やその友人のいじめに関与していたことが明かされ、喋ることができない。復讐。あいつの中には復讐と憎悪が激っている。虎視眈々とそのチャンスを狙っていて今回のことが起きた。彼は殺す気だ。でも、止める気にはならない。


「…頑張れよ」


ようやくしゃべったその言葉に称矢はびっくりしていたが、


「…すまないな。殺人鬼の友人を友達と思ってくれるか?」

「もちろん!」


そう二人で密かな復讐を決心するのだった。

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