古竜の巣窟②

「はぁ……はぁ…よ、ようやく合流できた…」

「あっ、称矢生きてたんだ」


セブンテイルドラゴンから命からがら帰還してきた俺に天宮凛が開口一番そう言う。


「あのなぁ、生きてたんだって俺が死んだみたいな言い方はよしてくれるかな?」

「だって、あんな化け物相手に生きて帰って来れるわけないじゃん」

「で、藤山が殺されたことについてはどう思ってるんだ?特に悲しんでる様子はないけど」

「あんなキッショいやつなんて死んだほうがマシだと思う」

「は?」

「いやだって…ねえ。あいつ自分最強〜って言ってるだけのバカだし死んで当然よ」

「お前らっ、少しは悲しむことは出来ないのかよっ」

「するわけないじゃん。というかお前が教えなかったのが悪いだろ」


酷い…どこまで人というものは醜いのだろう?人が犠牲になったのに何も悲しまずヘラヘラとしているクラスメイトに憤りを覚える。剰え、俺に責任を押し付けてきた。


「いや言おうとした時にはすでに攻撃をしていたし、言ったところで聞く耳を持たなかっただろ」

「言ってくれれば私たちも止めたのに…ねぇ、みんな?」

「そうだそうだ」

「称矢が言ってくれれば私たちも止めたのに」

「ほんっと最低なやつだな」


俺一人の責任ではない。これはみんなで背負うべき責任だ。それなのに全てを俺に押し付けて責任逃れをしようとする。俺は雅人に助けを求めるべく視線を送ったが『ごめん』と言いたそうな顔でどこかへ行ってしまった。


「称矢一人の責任じゃないだろっ!」


そう叫んだのは今まで何もアクションを起こさなかった先生の朝倉だった。いつもは授業をしたくないなとと呟く怠惰な先生で、怒ったことは一度もないが、今初めて起こっている姿を見せた。


「なんでだよ!称矢があのドラゴンのことを教えていたなら藤山は死んでいなかっただぞ!」

「教えなかった…いや、からじゃないか?」

「休憩時間中とか教える時間はたっぷりあったはずだ!それなのに教えなかった称矢が悪い!そうだろう!」

「確かに称矢も悪いかもしれない。でもそんな藤山を抑えなかったお前らにも責任はあるんじゃないか?」

「———っ!」

「お前らは自分が責任を負いたくないと一人に責任を押し付けてそいつを責める…そんなことをして楽しいのか?」

「ち、違う!俺は称矢が失敗をしたからそれに付いて責めてるだけだ」

「それは甘えじゃないか?」

「なっなんで先生は称矢の方を持つんですか⁉︎そいつは先生の生徒の一人を見殺しにしたんですよ!」

「そうだね…そのことについては残念だ。私も正直怒ってる」

「じゃあなんで?」

「それよりも一人を責め、仲間を蹴り落として自分だけは生き残っていく。お前たちもやっていることじゃないか。殺さないまでも人をいじめて不登校にさせたり自殺に追い込んでるんじゃないか?それはお前たちも人を見殺しにしているのと全く一緒だ」

「くっ!」


かっ、かっけぇ。いつも無気力で何もしたくないと呟く怠惰な先生が俺を庇ってくれている。この状況でかっこいいと思わない人はいないだろう。


「大丈夫か?」

「はい、ありがとうございました」

「気にすんな…で、大丈夫か?」

「?」

「お前…省かれ気味じゃないか?」

「やっぱりそう思いますよね…」


俺も薄々勘付いていたがあいつらは俺のことを邪魔者扱いをしてきていた。話しかけても無視するし、俺の言うことはあまり聞いてくれない、何論しようとすると力で抑えられる…ここまで酷いいじめは2一度もなかった。


「いつでも相談していいぞ。俺でいいなら相手になる」

「ありがとうございます」

「気にすんな。ここは異世界だから、あっちの世界に帰れたらあいつらにお灸を吸えんとな…」

「…帰れるといいですね」

「ん?なんだ訳ありか?」

「…………。」

「なんか話して…いや、止そう。これ以上の詮索はやめだ」

「ありがとうございます」

「気にすんな…あ、あいつらもう先言ってやがる、俺たちも行くぞ!」

「ハイっ!」


俺たちはダンジョンの奥底に向かっていった。階層を降りれば降りるほど魔物は強くなっていくのだが、『そんなことは関係ねぇ!』といわんばかりに攻略が進んでいく。気づけば階層ボスも倒し、25階層に差し掛かろうとしているところまで来ていた。25階層に着いた瞬間、魔力の濃度が一気に上がった。


「うっ———。」

「だ、大丈夫か?」


おかしい…やはり変だ。いくら運がよくたってここまで接敵が少ないと異常すら感じる。辺りを見渡し、この異常性を感じているのは先生と雅人、…俺だけか。

俺の視線に感じた雅人がこちらによってくる。


「ね、ねえやっぱりこのダンジョンおかしいよ」

「やっぱり雅人もそう思うか」

「だってここまで接敵ガスkないと流石に違和感を覚えるよ!1、2階層くらいならまだいいけど一匹も接敵しない階層なんて通常はありえない!」

「だよな…でも、そんな異常性にあいつらは気づいていないんだ」

「た、確かに…でもなんで」

「大方、魔物が寄って来なくなるくらい俺たちは強いんだとでも錯覚しているんだろ。何も持っていなかった人が急に力や権力を持った時と同じだな。冷静な判断ができなくなる」

「じゃ、じゃあ僕たちでどうにか説得しないと!」

「無理だ。雅人の言うことはまだしも俺の言うことには聞く耳を持たないだろう。それに、言ったところで力でねじ伏せられるのがオチだ」

「じゃあ、諦めろと」

「そうだ。あいつらは挫折を知らない。まだ自分たちに直接的な被害が及ばない限りあの状態だろ…あの時のあいつらみたいに…」


もはや聞く耳も持たないは攻略を進めていく。魔物も一撃二撃で倒していくためほとんど出番がない。階層を降りていくにつれ、魔素濃度も上がっていく。勇者には基礎スペックで魔素耐性があるから気づいていないようだが、ユニークモンスターの遭遇も増えている…そんな中どんどん進んでいき、ついには27階層まで到達した。


「もう二十七階層か…史上最高到達階層まで後三階層…どうしてここまで攻略が簡単なのに三十層で中断したんだ?食料切れ、仲間割れ、回復アイテムなどの在庫切れ?いや、まさか…よそう。そんなことが起きるはずがない」


ダンジョン攻略、いつ命が落ちてもおかしくはない現状、いついかなる時も油断をしてはいけない。それがダンジョンにおける常識。そして、ダンジョンの変異は超大量の魔素によって引き起こされ、魔素は魔物にとっての生命線だが、許容量を超えればどんな生き物でも毒になる。


「まさか…ここのダンジョン攻略が中止になった原因は、超大量の魔素が原因か?」


耐性があっても耐えることのできない超高密度な魔素。それが攻略の行手を阻む最大の障壁。とは言っても暗黒竜にはそれほど魔力を持っていなかったはずだ…でも、なんでこんなイレギュラーモンスターやユニークモンスターが大量に出てくるんだ?


『ふふっ、ご明察』

「——っ!誰だ!」


一匹の虫が俺の肩に止まったかと思うと、知らない女の声がどこかから俺に話しかける。

高く綺麗な声。それは俺にのみ聞こえた声だった。


『それはあなたたち勇者様がよく知っているのではないですか?』

「俺たちの知っている人物……もしかして魔王関連か?」

『あら、は脳筋バカしかいなかったのに冷静沈着な人もいたんだ』

「脳筋バカって…ん?お前いま最近の勇者と言ったか?」

『えぇ。言ったわ。でもこの続きは三十階層で待ってるわ。ではさようなら

「な、なんで名前を!おい、返事しろ!」


虫は俺の肩に止まって会話した後、床に落ちていった。魔導生命体。ゴーレムとでも言うべきか。


「いったいなんだってんだよくそがっ!」


床に落ちた虫を踏みつけ誰のもぶつけられない怒りをぶちまける。その靴の下では魔石がキラキラと光っていた。



『面白い子ね。ますます興味が湧いてきてわ』


鏡越しに、魔導生命体ゴーレムを踏みつける男の子を見てそう呟いた。

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