エピローグ

 ロンドンの街中のカフェのテラス席に、ミクとアキラは向かい合って座っていた。ミクは堂々としていたが、アキラは通行人が気になるようだった。

「どうして、俺たち、こんなところまで逃げなきゃいけないんですか?」

「どうしてって・・・」ミクは笑いながらアキラの顔を見た。「だって、アキラ君が悪いことをしたから」

「俺ですか?」

「だって、アキラ君、あっちこっちのサーバー、ハッキングしたでしょう。警視庁とか。E社のシステムだって。これから、本庁とE社が戦うって時に、日本にいたら、マジ殺されるよ」

「それって、ミクさんが、やれって言ったからでしょう・・・」

「まあ、そうだけど」

「それにしてもね、ミクさん、どうしてロンドンなんですか・・・」

「だって、ドイツ語とかフランス語とか、ヒアリングが苦手って言ったじゃん・・・アキラ君が・・・」

「会話ぐらいなら、なんとかなるけど・・・」

「うん。本当はベルリンとかパリとかでも、よかったんだけどね。映画一緒に観に行く約束したでしょう。だから、英語がいいかなって思ったんだ」

「だからって、ロンドンまで来ますか?」

「それにさ、私、ベーカー街とか見てみたかったし・・・」

「観光ですか?・・・ミクさん、俺たち、しばらくここで生活するんですよね」

「そうだよ。アパートとか借りて二人で住むんだよ。同棲するんだよ。え? イヤなの?」

「そういうことじゃなくて・・・お金というか、収入というか、生活費みたいなことは?」

「どうしようか。じゃあ、ここでも仕事する?」ミクは元気に言った。

「仕事?」

「そう、探偵とか。ちょうどいいじゃん。アキラ君、医学にくわしいから、ワトソンみたいで」

「あれは小説でしょう」

「そんなの気にしない。アキラ君がワトソンなら、じゃあ、私はね・・・」

 少し芝居じみた口調でそう言うと、ミクはテーブルの上のアキラの手を優しく握った。

「・・・我が名は義眼のホームズ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

義眼のマリア 新宿連続殺人事件 八雲 稔 @yakumo_minoru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ