エアコン

ツチノコのお口

エアコン

 近所の中学校の体育館に行った時の話。それは、友人がバスケットボールの試合に出るから、というものだった。

 体育館なのだから、モワッとした熱気と、熱い歓声に包まれ……ることはなかった。

 さて、今頃の中学校というのは体育館にもエアコンを設置しているようで、その環境はすごく快適なものだった。快適すぎて、あまりスポーツに興味のないやつらもスマホ片手にやって来ており、人の数の割に、歓声は大きくはなかった。

 友人曰く、「バスケはバドミントンほど風に影響されないから、エアコンつけ放題で凄くありがたいよ!」とのこと。同感だ。エアコンがなければ、こんな猛暑の中で友人を応援しに行くこともなかっただろう。


 エアコンといっても、ショッピングモールによくある、四角い形で天井に埋め込まれているようなあれではなく、家庭にもあるような、長方形で口がパカッとあくタイプのものが向かい合ってふたつ並んでいたのだ。予算が足りなかったのだろうか?

 しかし、私はこのタイプのエアコンの方が好きだ。味がある。そしてなんといっても、このタイプのエアコンというのはなんとも魅力的で、あの口の中に広がる闇に吸い込まれそうになる。家でもたまに、やるべき事、やりたいことを忘れてじーっと見つめてしまう。

 今日も、友人が敵からボールを奪う大活躍しているのを横目に、エアコンの闇に目線が吸い込まれてしまっていた。

 体育館の面積が広い分、やっぱりエアコンも大きいなぁ、口もかなり大きく開くものなんだなぁなんて思っていた。

 そんな風に考えていると、ふと、見えてはいけない何かが見えた気がして、慌ててコートに目線を動かした。

 俺の友人は、3ポイントシュートを決め、黄色い歓声に包まれていた。そして、私は何も無かった、と自分に言い聞かせるように大きな声を掛けた。あぁ、私は何も見ていない。


 それでも、人の癖というものは簡単には治らないものだ。子供に爪を噛まないように伝えても、気づけば爪が短くなっているように。エアコンを見ないように決意しても、エアコンに目を向けてしまうように……

 何か、光っている気がする……。気のせいではないか?と思うほどの感覚。それでも、私の感覚は光っていると伝えてくれていた。

 私は真偽を確かめるため、スマホを取り出した。

 拡大すれば、何かを見ることが出来れば少しは真実が掴めるかもしれない。

「…………!?!?」おもわず、言葉にならない声が出てしまった。それでも、私はこれで耐えた私を今でも褒め讃えたい。

 色彩を調整した私の目に写ったのは……


 紛れもなく、私を見つめる人間の目だった。


 直ぐに競技は中断。警察がその場を取りしきり、辺りには怒号やシャッター音が響く。

 発見者である私も問答無用で外へ出されてしまった。それでも、不謹慎ながら私は、どうしてもこの事態に立ち会えた事を人々に自慢したいと思い、写真を撮ることにした。

 ここでも活躍する拡大機能。マスコミに流され、だいぶ遠くまで来たから、少し体育館を拡大しようとしただけなんだ。

 しかし、しかし!そこで気がついてしまった。

「あれ?体育館の扉って白色じゃなかったかな?」

 驚きのあまり、私は凄い勢いで2本の指を動かし続け、そして私はその場で嘔吐してしまうかと覚悟した。


 扉の黒色は蠢いていたのだ。1匹1匹の小さく黒い彼らは、エアコンの中で増殖し、ちょうどそこに居たエアコンの彼を栄養源として……

 外の世界に向かって飛びたっているものもいた。

 警察の運ぶエアコンも、黒かった。

 警察の運ぶ、ブルーシートらしきものも、黒かった……

 警察の腕も、少し黒くなっていた。

 さて、エアコンの中の彼は一体どのくらいのときをあそこの中で放置されていたのだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

エアコン ツチノコのお口 @tsutinokodayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画