第?話「闇の中に潜む者」

 僕の下に訪れたとある少女が言った。


「お前は何で我々と共に来たんだ? その理由を提示しろ」


「一体どうして僕がそんなことを?」


「良いから答えろ! 答えなければ消してやる!」


「なっ⁉︎ その魔力量は一体……⁉︎」


その時、目の前にいた少女から放たれた風が僕の腹部に直撃した。それもかなりの強打を生み出し、僕に強烈な痛みを加える。


「ぶはっ⁉︎」


 僕は咄嗟に暗黒エネルギーを体に取り込んだ。そして少女が油断した隙を見付けて、そこに波動をぶち込む。すると、彼女はそれを腹部で受け止めた。その頑丈に出来た腹部は僕の波動でもダメージが与えられたようには見えない。そして驚いた隙に漬け込んで少女はもう一度だけ今度は後ろに吹っ飛ばす要領で放った。


「ぐぁっ⁉︎」


「その程度かしら? それでは私を倒せないわよ?」


「そんなバカな……! 一級術師にこれだけのダメージを与えるなんて⁉︎」


「さぁ! 質問に答えなさい!」


(こいつの放つ風には衝撃が伴っていると言うのか? それに僕の波動を腹部で受け止めた?)


 この一瞬では僕に理解することが出来なかった。しかし、それにはきっと仕組みがあるはずだと考えられる。けれど、それを解析している間に僕がこいつに敗北するのは時間の問題だ。


「畜生ぉ! こんなところで負ける訳にはいかないんだ!」


 僕は取り込んだ闇を有りっ丈の出力で波動を放った。すると、少女は同時に再び衝撃を加えた風を起こす。


 どーん!


「そ、そんなぁ……」


 僕はこの少女に成す術なく意識を失う。この時点で僕はこの先に賭けた思いがすべて終わったのだと思っていた。けれど、それは意識が戻った時にあの後のことを告げられる。


「マジか? ボスの娘だったのか? そんな人が何で僕を襲ったんだ?」


「あぁ。それはまだ十歳にして魔術教団の幹部に就任した時から存在意義を唱えていたみたいだ。お前を襲ったのは【ショックウィンド】と言う術式を使う衝豪ミリカ様になる。彼女はいずれ組織の中心核に配置される存在である。そこで彼女の付き添いだった男も上半身を吹っ飛ばされて亡くなっていたと聞いている。それぐらい精神状態が不安定だっだみたいだ」


「あれほどの術師が精神状態に問題を抱えているとは、かなり致命傷だな?」


「ま、とにかく今は反省しているみたいだ。ミリカ様を責めるなよ?」


「分かっている」


 そうやって僕は命の危機を逃れたみたいだが、ミリカ様の精神異常については少し不安を抱いていた。精神に異常が見られる少女をいずれ中心核として扱うのは、正直に言われせてもらうと問題がある。しかし、あの実力に関してはどこも文句を通すことは出来ないと見て良いのだった。


 そして僕が退院すると、そこで病院を出てすぐのところでミリカ様の姿が窺える。彼女はどうやら僕に用事があって来たみたいだ。しかし、再び襲いに来たのなら、少し嫌気が差してしまうのであった。


「どうかしましたか? ミリカ様が何で僕を待ち伏せなど?」


「それは貴方に謝りに来たからよ。何か悪いことでもあったかしら?」


「いいえ。わざわざそんなことする必要などなかったんですけどね?」


 そうやってミリカ様に杞憂だと伝えると、それでもと言うように彼女は僕に一言だけ口にした。それもどこに異常が見られるのか分からないぐらいに冷静な態度で示したのである。


「ごめんなさい。私としたことが、主戦力を殺し掛けたのは私のミスよ。だから、許して欲しいのよ」


「大丈夫です。別に気にしてませんから」


 そんな風に返事をすると、ミリカ様はそこで振り返ってから僕に背中を向けると、そのままどこかに行ってしまう。どうやらそれだけで用事は済んだらしく、彼女が向かった先には車が停められていた。きっとそこに向かって歩みを進めているのだろう。


(まさか謝罪しに来るとはな? 少し予想外だったが、別に悪くはない)


 そんな風に捉えると、僕は徒歩で一人きりの帰路に着いた。そこで僕にお迎えが来るほど気の利いたことはあるはずもないのだ。そう思っていた時に後ろから僕を呼び掛ける声が向けられる。


「あら? ミリカ様が直々に謝りに来るなんて良かったじゃないのよ? それともまだ何か不服でもあったのかしら?」


「んぅ? 何だ。僕にも迎えが来ていたようだな? わざわざ申し訳ない」


 そこにいたのは僕を迎えに来た仲間の姿だった。そのうちの一人でもある彼女の名前は津雲雨美と言って、僕が配属されている部隊で一緒に活動をしている女性だ。そんな彼女が僕のことをわざわざ迎えてくれるのは、少し嬉しく思えるところがあって良かった。僕はお言葉に甘えて車に乗せてもらうことにする。


 そして車内で交わされた会話によると、僕はこれからボスの下に連れて行かれるらしかった。そこで僕はボスに直接指示を出されるようで、それは急に決まった任務だと言う。僕としてはボスから来るなんてまずライカ思いながら、彼と落ち合う場所まで来ると、その先は一人で行かなければいけないようだ。


 そこは廃ビルと化した場所で、急用を伝えるためにわざわざ五分前に買い求めたみたいである。この場所にどんな秘密が隠されているのか分からないが、それでも僕はこの時点で落ち合う予定のボスを前にすることに躊躇いはなかった。しかし、少しばかりは緊張感は抱いていても可笑しくはないと思っていたのである。


「来ました。どうやら直接会うつもりはないみたいですね?」


「それはそうだろ? 俺が君と話すのに何で直々に会わなければいけなんだ? それは良いとして、まさか娘の襲撃を受けるとは、災難だったな? しかし、そこまで気にすることじゃないよ。あの子は次期にボスとなる存在だ。君にもしっかり理解して欲しい」


「別に僕はそこまで問題視してません。それにボスの娘であり、あそこまでの実力があるのなら、僕から文句などありはしないと思います。なので、僕は彼女が次期のボスなら、それに従わない理由などありません」


「さすがに弁えているな? それで良いんのだ。君にはミリカの襲撃に遭って痛い目にあったぐらいだもんな? さすがの君では逆らえない存在な訳だ」


(あの襲撃は僕に対する見せしめか? そこまでして僕を従わせに来る必要があったようだ。しかし、確かに実力は本物と呼べるに相応しい。そこに何の疑問もない)


 僕は内心でミリカ様の魔力量には驚かされている。それに衝撃の伴った風を吹かせる術式には僕でも敵わなかったのは事実だ。しかも僕の波動が彼女には少しも効かなかった。それが一番の決め手と言っても良い。


 僕としてはミリカ様に殺され掛けた事実を受け入れなくてはいけなかった。だから、僕にはさらなる強さを求めなければ、いつかボスになる夢が途絶えてしまう。だから、どうにかして彼女を変える必要があるのだ。


「そこで君には任務を与える。ミリカの付き添いになってくれ。もちろん殺しはしないのが条件だ。少しでも死に掛けたなら、そこでミリカには片腕を失ってもらう。それを条件にミリカに付き添ってくれ。頼むよ?」


(ミリカ様の付き添うのが今回の任務だと言うのか? 別に大した任務でもないな? それに殺さないのが条件なら、それを受けない手はないだろう)


「良いでしょう。それなら受けますよ」


「よぉし。それでは今後はよろしく頼むよ」


 僕はボスが出した条件で、ミリカ様に付き添う任務を受けた。それは僕にとって彼女をよく知れることに関してもメリットがある。彼女を近くで見ることで、その強さの秘訣を知る余地を見出すのだ。


「これから付き添いの任務を受けましたり暗狩闇斗です。どうかよろしくお願いします」


「ふーん? 父上が仕向けたのね? 良いでしょう。これから私の期待に応えられるように精進しなさい」


「はい」


 そうやって僕はミリカ様の懐に忍び込むことに成功した。後は普段の生活を見ながら、その実力がどこから来ているのかを探りに入るのだ。


 まずは任務を受けて一日目の朝。ミリカ様を起こしに部屋まで来ると、彼女はすでに目覚めていた。なので、僕は起こす手間を掛けずに朝食の支度が出来たことを知らせる。すると、ミリカ様はそれに素直な反応を見せるのであった。


「分かったわ。今から行く」


(これでは僕などいらないように思えてしまうな? しかし、それに文句はない)


 僕が食卓まで来ると、それから少ししてミリカ様が顔を出す。そして使用人に向けて挨拶をすると、すぐに食卓に着いた。そこでミリカ様は食事を開始する。


 そうやって僕はミリカ様のお世話をしていると、そこでいきなり彼女から質問を受けた。それは何で命を狙った自分のお世話に尽くすのかである。それが彼女にとっては不思議でしょうがないようで、僕もそれにはなんて答えたら良いか困った。まさか懐に入ってミリカ様に備わった力の正体を明かしたいなんて言える訳がないのだ。そこで僕が出した答えはとてもシンプルなものだった。


「純粋にお世話に就きたかったからです。何か問題でもありましたでしょうか?」


「いいえ。それなら良いのよ。しかし、それにしても不思議に思うわ」


「そこまで気にすることはないと思います。ミリカ様をお世話するに当たって怪しい行動などしませんから、どうかご心配なく」


「分かったわ。信じるからね?」


「はい」


 単純だった。彼女はすっかり僕を信じているように思える。それが命取りになることも知らずに僕と接触するのは正直に言わせてもらうと問題があった。しかし、こちらとしては好都合なので、僕はそれを利用させてもらうことにする。


 そして僕がミリカ様のお世話を務めて一ヵ月が経った。僕の見ている前で彼女がどんな訓練を積んでいるのかが公開された時から、すでに解析済みだったと言える。それも僕に与えられた休み時間中で密かに強化に当たっていると、そこで自分は彼女を超えたと言う確信が生じた。それによって僕はいつでもミリカ様を殺せる段階に陥る。しかし、現段階ではまだ彼女を活かしておく必要があったので、僕の実力は隠した状態を維持した。

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