第一章「強化合宿先で起きた事件」
第4話「俺の意思」
俺は気付いた時には術師の活動に慣れていた。それも俺の下に来る任務が頻繁になったことで、稼いだ金額は六百万円を超える。これで俺はお金持ちになるのも夢じゃないように思えたが、日々の訓練にも影響が出たことには気付いた。
「そろそろ強化合宿が迫っている。そこで君にも参加してもらいたいと思う。君も強化対象に入っているため、それには必ず参加するのが決定しているんだ。もちろん参加したいよね?」
「まぁな。俺はさらに強くなって闇斗を殺すんだ。それには高みを目指さなきゃダメだって天真先生からも言われてるんでね? それに俺の階級は【三級】でしかない。まだ【二級】にも届かないんじゃあ大したことないんだよ」
「その意思は大事だ。術師にとって強さとは自身を守る術でもある。それに非術師を守りたいと思って戦う人間もいる中で、強化合宿は最も重要な意味を成すと言われている。それを断った者はこれまでに存在しないほど有益なんだよ」
「なるほど。それなら参加して損はないと思った方が良いな? それに名前だけ聞いても連想できることは変わらないだろう」
(ここで俺も大幅にパワーアップできるならするしかない。術師にも強化合宿なんてものがあるなら参加しない手はないだろう)
俺の意思は固いものだった。強くなりたいだけで動くのは術師には必要であると天真先生からも窺っている。しかも術師は命を賭けたお仕事であり、一般市民では実現できない範疇にあるのだ。だから。俺らがやらないとなると、この世は暗黒の時代に陥ると言う訳になるのだろう。それだけは阻止しなければならないと内心では思っていた。
そして今日も任務をこなしてからすぐに風呂に入る。汗を流さなければ布団が汚れてしまうので、それがないようにしっかり清潔にしておくのが良いと翔子先生にも言われていた。その教えを守るのもいずれ生徒として迎えられる俺には必要ことだと言う。それに俺からしても汚れた布団で寝るのは少し嫌だった。なので、風呂にはちゃんと入るようにしている。
そして風呂から上がると、俺は翔子先生の住む部屋まで訪問しては、一緒に食事を取るのが日課になっていた。それは黒美や天真先生も同じで、いつも食事は共にするのがお約束になっているのだ。それを破ることはしないほど、俺らは仲良しでもあると言える。なので、夕食は毎度賑やかなのが印象的だった。
「「「「いただきます!」」」」
そうやって俺らは一斉に挨拶をしてから夕食を開始する。そこで俺は今日になってこなした任務を話題にして話し合った。俺以外にも今日は黒美も任務をこなして来たみたいで、そこで出現した魔獣がどんな奴だったのかで話は盛り上がる。それを踏まえて天真先生や翔子先生たちが過去に倒した魔獣に関しても話題として取り上げられた。二人の相手した魔獣がどれだけ強くても二人にとっては大した敵でもなかったようだ。それを聞いて俺らも二人のようになりたいと思うばかりである。それを二人は応援してくれているのだった。
「そっかぁ? 零介は【バーンアーマー】の火力が一段と強まったのね? その術式に関しては筋力の底上げもすることで威力が増すのだから、日々の筋トレも大切になってくるわ。そこはしっかりね?」
「分かってますよ。やっぱ二級に上がるためにも必要になって来るよな?」
「私は身体を鍛えることで、分身にも影響が出るから筋トレは欠かさないの。だから、そこは私たちって一緒だね?」
「おう!」
「なるほどね? 黒美の分身は一斉攻撃に特化してるから、それはかなり強力だ。しかし、本体が叩かれれば消えてしまう単純な術式でもある。そこは本体に攻撃が及ばないように相手とは距離を取るのが適切だが、それって予測できないことでもない。もしそれが相手にバレたら、一瞬で距離の置かれた方を攻撃するよな?」
「そうですね? そこが難点とも言えるけど、そこは一部の分身を並列に設置して防御を固めれば問題ありません。どれが本体なのかを紛らわすことで、きっと相手も判断できないでしょう」
「さすがに万全だね? それは良い作戦だと思うわ」
黒美に関しては影を操る術式になる。自身の影が主な対象になっているのは彼女から聞いた情報によって知っていた。それに彼女の術式は影から武器を生成できることから、いつも斧を取り出しているのだ。それを分身にも装備させることで、攻防を高めているのだった。そこで黒美が作れる分身の上限としては、一度に八体までと決まっている。しかし、減らされた瞬間に増やすことが出来るので、八体の分身を維持させられるのだ。なので、基本的に減ることはないと思った方が良かった。
分身は本体と違った動きが可能で、それぞれに意思が備わっている上にそれが共有されているので、優れた連携が取れる。それによる攻撃に対応するのは困難だが、一度に複数を倒せる術式には弱いと言えてしまっているのだ。それを踏まえると、黒美の術式は相性が伴われるのであった。
「今回の強化合宿では俺らも参加するのが決まっている。そこで俺らと実戦形式で戦うのが定番になっているため、君たちはそれを相手にしなくてはいけなくなる。しかし、もちろん手加減はするのだが、咄嗟の判断力を身に付けてもらうために隙を突くのはお約束だ。君らが相手するのは一級術師である。だから、そこは念頭に置いといてくれ」
「マジか。天真先生を相手するのか?」
「でも、いつも決まって【シャイニングブレイク】は禁じ手になっている。しかし、天真先生はそれでも最強と謳われた身体能力で、生身だけでも私たちを苦しめるんだ。そこが厄介ではあるけど、もし闇斗と交戦なった時には、それと同等を相手にするのだと思った方が良いよ? 零介は簡単に闇斗を殺したいと言っているけど、それは天真先生を超えた上で口にするべきことなんだ。だから、闇斗があいてになってからじゃ遅いよ」
「そこで零介には闇斗に挑む前の準備体操だと思ってくれ。闇斗も生身での戦闘は得意だが、それを強化させる術式を駆使して来る。そこで、さらに厄介になるのが、闇斗が決まって術式の発動条件でもある闇を取り込むための技は、俺らを行動不能にする作用まで及ぼすことだ。それは【暗中展開】と言って、辺りを暗闇に変える術式になっている。それは通常の道具では照らせない闇であり、術式による光でなければ対抗できないのが特徴だ。俺が放つ光であれば照らせるが、それ以外で対抗するには俺の術式が付与された懐中電灯しかない。しかし、懐中電灯など持ちながら戦うなんて邪魔すぎるだろ? そこが厄介なんだ」
「マジで? 視界が塞がれるのか? それじゃあ太刀打ちできないじゃん!」
そこで天真先生が聞かせてくれた情報を整理すると分かる通り、闇斗が扱う技に掛かれば俺らを戦闘不能にするなど容易いのだ。しかし、唯一それを破れるのは天真先生の術式なら出来るらしい。なら、天真先生なしでは闇斗に勝つ方法は皆無だと思った方が良いのであった。
(天真先生でなければ対抗できないのなら、俺では勝てないと決まったも同然だ。だったら、天真先生はこの先の戦いにおいて死なせる訳にはいかない術師だと言える)
そんな風に考えるのが普通だと思う。それにこれから天真先生でも倒せない術師がいたなら、俺らはどうやって人々を守らなければいけないのか分からないくなるのであった。しかし、単純に闇斗以外の術師が相手なら、俺らがそれと並ぶ実力を付けれ勝てるのだと思える。
「ま、闇斗は俺が倒すのは決定事項だ。だけど、もし俺一人では勝てないと思った時には、奴に殺される前の段階で交戦に参加してくれ。頼むからな?」
「分かってますよ。その時は俺も参戦させてもらいたいですね?」
「よし。それじゃあ夕食も済んだ訳だし、俺は寝るよ?」
「俺も寝ることにします。すでに眠気に襲われ始めた頃なんで」
「それじゃあ明日も頑張るよ? これも平和のためなんだから」
そうやって俺らはそれぞれの部屋に戻った。強化合宿の話にもあった通りになるなら、俺らは手強い相手と戦うみたいである。それも一級に相当する天真先生と交戦する予定になっているみたいだ。そこで今のうちに彼と真面に戦えるようにするためにも、到達するべき強さを求めて精進しなくていけないのだった。
次の日。俺は六時には起床すると、そこで筋トレに入った。俺にとって早朝からの筋トレは欠かせない取り組みになっている。それも【バーンアーマー】で強化させた部位は筋力にも影響が出るので、そこを始めから鍛えることで攻撃の際に相手が受けるダメージを増やすのに最適だと言われているのだ。だから、そこの強度をさらに増加させるためにも、元々鍛えておくことが必要なのである。
そして七時になった時になって俺は筋トレを終わりにすると、その後は風呂でシャワーを浴びて汗を流した。それから朝食を取った後で、俺は本部に直行する。
「おはようございます」
「よぉ? 中々早い時間帯に来たな? 私の次に早かったぞ」
「さっきまで筋トレやってたんで遅れました」
「それは参ったな。私は二時間前からずっとスマホでニュースを見ていたよ。お前は鍛えていたみたいだけど、それでも私は一級術師だよ? 鍛えるなんて面倒だ」
(よほど自信があるんだな? けど、訓練を怠っているようでは、話にならないのは分かっているはずだ。それでも雨海さんは面倒だと言えるのかな?)
彼女の名前は津島雨海だ。雨海さんの術式は【レイニー】と言って、雨を降らせることが出来た。雨が降っている中では雨水を収束することで水流に変えられる。それに雨の降る領域にいる時は決まって動きが速くすることが可能だった。さらに雨海さんは【水烈剣】と言う魔剣を所持しており、それは水を吸収させることで切れ味や刃の強度が上がる効果がある。この組み合わせによって彼女は戦闘を有利に進めることが出来てしまうのだった。しかし、彼女は当然ながら天真先生には及ばないのである。
「ま、精々お前も私を超える術師になりなさい。けど、私の降らせる雨の中では炎は有効じゃないと思った方が良いわ。なら、貴方にしかない術式のストックで、私の雨を対抗する策を見出すと良いわね?」
「はい」
「それじゃあまたね?」
雨海さんはそれだけ言うと、俺の前からいなくなった。どこかに移動するようだけど、その先までは俺の分からない。しかし、彼女がどこに行こうが、どうでも良いことだった。なので、俺はそれ以上に追及することをしなかったのである。
そして誰よりも先に上層部の下に来ると、そこで俺には指定時間には任務を開始するように言われた。午前十時になった頃には任務が始まる予定なので、俺はそれまでの間を筋トレで過ごすのである。
そうやって残り十五分前になると、そこで術師を現場に送り届ける車が用意されるのであった。俺はそれに乗って現場まで向かった行くのである。
「ここか? この場所で毎回十時になると魔獣が姿を現すんだな?」
俺は車の中で把握した内容に沿って魔獣を倒す算段に出た。そこでさっき雨海さんが言っていた通り、新たな術式が発現させるためにも、俺は【バーンアーマー】を駆使するようであっても、別の作用を及ぼすことを意識している。そして危ないと判断した時になったら、俺の本気で魔獣を倒すのだった。
そして俺が任務の遂行に成功すると、外で待っていた車に乗って本部まで帰る。本部に戻って来ると、そこで雨海と鉢合わせた。すると、彼女から思いもしないことを口にされる。
「あら? 任務の帰りかしら? どうやら成功したみたいね? それで新たに術式は発現するの?」
「――え? いきなり何でそんなことを?」
「だって気になるじゃないのよ。今のお前では私と交戦しても相性で負ける。けど、術式が追加されれば、チャンスは巡って来るわ」
「それもそうですね? しかし、残念ながら今の段階では新しい術式は発現してません」
「そう。それなら良いのよ」
そうやって俺に新しく術式が発現しないと分かった瞬間に彼女はその場から去って行く。その後ろ姿を俺は見送ると、上層部に報告をするための部屋に向かった。そして今回の任務が成功したことで成功報酬が渡されるのである。
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