闇斗編

第?章「闇を知る者」

第?話「闇に堕ちた術師」

 僕の名前は暗狩闇斗。元々【魔術協会】の一員として活動していた術師だ。それも僕が取得していた階級は一級に相当する。さらにその中でも最強と謳われていた天真と並ぶ実力者だった。もはや僕には天真でしか殺せない術師として認識されていたのだ。


 そんな僕が何で闇堕ちしたのかについてだが、それには訳がある。何故なら僕は【魔術協会】に所属していた上層部の一人によって恋人を失ってしまったからだ。僕の恋人も術師だったが、階級は二級であり、それにも関わらず一級に相当する魔獣と戦わせたことによって死に至った。それが何よりも許せなかったのである。彼女が扱う術式は、言わば【黒炎創剣】と言って、黒く変色した炎から魔剣を作り出すことが出来た。黒炎で形成された魔剣で魔獣を斬り殺して行ったが、それにも限界があったのだ。それを構わずに実力以上の任務に行かせたのである。それで死んでしまった人間はもう戻って来ないのだ。だから、僕は誓った。あの【魔術協会】を潰してやるのだと、心の底から掲げることで、復讐を果たそうとしているのだ。しかし、すでにその事情を知った天真は彼女の死因にもなった上層部を殺している。それには感謝しているが、それでも彼女は帰って来ないのであった。それをどう受け止めれば良いのが僕には分からなかったのである。


「今からこの手で復讐しよう。この世の中を壊すことで、僕は心を満たして行くのだ!」


 そうやって僕の心は完全に闇に染まった。それも僕の術式と同じだ。だから、僕はこれからこの世界を変えるのだと、日々の活動に当たる際には言い聞かせていた。


「そんで? 闇斗は今日も術師の勧誘に行くの?」


「あぁ。僕以外に上手く術師の才能を見抜ける奴がいるのか? それに僕の方が勧誘も上手いんだから、任せてくれれば良いよ」


 僕の前に現れたのはミスアイスと言う女性だ。彼女の術式は【氷結】と言って、視界に入った箇所を凍らせることが出来る。それも意識するだけで凍らすことが可能で、さらに視界で捉えられれば、どこでも凍結させられるのだ。視界が塞がれると術式は発動しないのが難点だと本人は言っていた。


 そんなミスアイスも僕と同じ魔術教団の一員である。それに一級術師にも至る存在だった。


「それよりも例の子は【魔術協会】に取られたのね? らしくないじゃないのよ」


「悪かったな。さすがに先を越されていたのを足止めして横取りしようと思っていたが、予想以上に現着が早かった。それに邪魔になったのが天真なら僕は気にしていないよ。さすがに同階級なだけあったさ」


「まだ気に入ってるのかしら? そろそろ殺してくれても良いんじゃないの?」


「バカだな? そう簡単に殺さたらとっくに愛想も尽きてる。それに相手は君よりも強いんだ。もう少し実力不足に気付いてくれ」


「うるさいな。貴方の恋人になってあげたのは誰だと思ってるの? 未だに気にしてるみたいだけど、そろそろ飽きたらどうなのよ」


「分かってるつもりだ。それに君が魔術教団にいたから、僕は味方している。それが友を裏切った理由なんだから、それを褒めて欲しいぐらいだよ」


「偉いわ。あの【魔術協会】の敵に回るのも楽じゃないわよね?」


「そうだ。やっと理解したか?」


「それぐらい承知の上よ」


 そう彼女は僕の新たな恋人に選んだ女性として挙げられる。それも彼女が魔術教団で活動していることを知って、復讐するついでに僕もそこに入ったのだ。僕が闇堕ちした理由にもなることだった。


 そして僕の向かった先は悩みを訴えて来た術師になれる可能性を秘めた人材である。それも相手は男子だった。なるべく勧誘する術師は男性に絞っているが、それでも戦力になりそうだと判断した場合は、女性であっても誘っていたのだ。


(ここか? 確か掌から火が付いて友人に火傷を負わせたって言う男子高校生の家だ。すでに術式が発現しているようだが、【魔術協会】の奴らに遅れを取ってはいけない。人類が迎えている現状は術師で埋め尽くされると予測できる。ならば、今のうちに有力な人材を揃えておくことで、勢力の拡大に努めるのが最善って訳である)


 そんなことを考えながらも、俺は家のインターホンを鳴らした。すると、中から大人の女性が出て来る。きっと例の男子高校生が持つ親御さんであると考えるべきだ。そこで彼女は僕の格好を見て自宅内に招いた。


「どうぞお入りください。貴方が私の息子を救ってくれる人ですね?」


「はい。今回は貴方の息子さんに起きた現象の解明を任せられた者です。是非とも僕にお任せください」


「分かりました。よろしくお願いします」


(単純だな? これで我らの組織に入るのは八割ほど決まったも同然だ)


 僕の企みに気付かない一般市民などこの程度だと思えてしょうがなかった。しかし、ここは慎重に対応するのが良いと思っている。この場でもし連中らに気付かれでもしたら、その時は万事休すだ。それがないように努めることが最善策だと思っていた。


「こんにちは」


「この子が謎の現象で困っている息子です。どうかこの子の身に何が起きているのか解明してください!」


「よろしくお願いします」


(どうやら魔力が感じられるな? きっと彼は魔力を操作できない。だから、後は魔力の操作が出来れば術式だって扱えることになるよな? それならすぐにでも勧誘しても問題ないかも知れない)


 そこで僕が思い立ったことによると、自分の方から彼をスカウトするのが良いと思ったのだ。それも話によれば炎だと言っていたのだから、誘うなら良いと思えるのではないたさかと考えたのだった。そしてそれを彼に告げたのである。


「君にはすでに魔力と呼ばれる力が漲っている。それを存分に示す場を提供する。一緒に来ないか?」


「え? そんなこと急に言われても……」


「大丈夫。君の道は僕が示そう! そこを通れば君も一流の術師になれる!」


「術師? 何ですかそれ?」


(おっと。まだこの子には説明していなかったっけ。さっさと解説だけして一緒に来る決意させるか?)


 そうやって思った瞬間に僕は早急で説明を施した。それを聞くと、彼は不安そうに僕に返事をする。しかし、それにも迅速な対応で誘い切った。


「本当ですか?」


「あぁ。君は確か友人に火傷を負わせたようだけど、それは事故だと思った方が良い。だから、そこまで気にする必要はないよ」


「それなら是非とも入らせてください! そこで僕も役に立てるなら光栄です!」


「よし! その調子だ。それではこれから契約を交わしてもらう。それも刻印を付けるだけだ。心配ない。手を差し出しなさい」


 そんな風に僕は勧誘に成功した。この程度の奴ならチョロいのだと思わされる。ここで刻印を付ければ、後で逃げることや逆らった時になって自然に死を迎えるのだ。これは裏切り者に罰を与える魔術教団が扱っているものである。さすがにこの手の連中らは容易くて困ってしまうのだった。


 そして刻印を付けた後の話だ。早速彼には自分の親を殺すように命じる。すると、そこで彼は戸惑いを見せた。しかし、そこで逆らうなら殺すと脅しておくことで、彼の恐怖に満ちた感情は母親を自らの手で息の根を止める結末を招く。


 そんな感じで僕は今回も黙って二人を殺した。理由は簡単だ。警察官に通報すると脅されたのがきっかけである。その手を使うのであれば、こちらも容赦なく殺してしまうのが最善なのだ。しかし、まさか逆らうだけで殺されるとは思っても見なかったと考えられるのだった。


「全くこの手の人間は弱いな? 相手にならないんだよ。僕に向けて炎が放出できるなら良かったと思うが、実際に発動条件が満たされていない状態で術式を使うとは間抜けがいたものである」


 その後は僕の周囲で目撃した奴らを簡単に殺した。しかし、遺体なら後で活用できる場に提供すれば、僕の行いに関しても問題など無いに等しいのだ。それを僕は平気でこなした。それが日常であるかのように思える心情は本当のことを示している。


「見付けた。お前が闇斗か? 俺の娘と妻を殺したのも全部お前のようだな!」


「どした? そんな奴らなんてとっくに忘れたよ」


「だったら、あの世で知るが良い!」


「はぁ? 術式も持たないお前が僕に敵うとでも思った?」


 すると、そこで僕に復讐するため、刃物で突き刺して来るタイミングを狙って、自分は接近した男を波動で吹っ飛ばす。それによって上半身だけは消滅した様子を窺わせた。


「これが非術師かよ。挑発も大概にして欲しいぐらいだ」


 そんな風に僕が扱った術式は【暗黒戦鬼】と言ったものだ。これは体内に闇を取り込んで、それを掌から波動として放出させるのであった。その他にも身体機能を底上げさせるだけの術式ではある。それは天真に並ぶ術師は僕なんだ。

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