第4話 『神無月に囲まれて!』

太郎:いやーもう10月になってしまいましたねー!

花子:ほんっと、月日の経つのは早いって、お決まりの言葉だけどねー、早いわよ

   ねー。こんな調子だとさ、すーぐ年とっちゃって、もうねー嫌よねー。

太郎:おいおい、なんかさその口調ってさ、志村けんとさ、江本明のさ、芸者

   コントのセリフみたいでねえかー。

花子:うん、ちょっとね自分でも今そう思った。

太郎:まあ、それもまあいっか。でね、あんた10月のこと神無月って言うのは知っ

   てますよね。

花子:もちろん知ってますよ。何年生きてると思ってるの。日本人なんだから当た

   り前っしょ。

太郎:じゃあさ、なんで神無月って呼ぶのかも知ってますよね。

花子:「神様がいない月」って書くんだから、神様がいなくなるんでしょ。

太郎:いなくなるって?なんでいなくなるの?

花子:確か……出雲大社だったかな? そこに集まる月なんじゃなかった。

太郎:ほう、すごい。知ってるんですね。さすが還暦越えた日本人だね。

花子:なんかまたバカにすること考えてるな、その話し方だと。

太郎:馬鹿にするなんてことないんですけどね、あんたさ、じゃあ日本の神様って

   何人いるの?

花子:えっ、何人って……一人じゃないの?お釈迦様だから……。

太郎:お釈迦様はさ「仏様」って言うんだから神様じゃないでしょうが。

花子:そっか同じじゃないよね。神様、仏様って言うんだしね……。ああ、七福神

   って言うから七人。

太郎:うん、お正月によく話題になる神様ですよね。でも七福神はさ日本の神様じ

   ゃないみたいですよ。あの恵比寿様だけは日本らしいけど、あとはみんな中

   国とインドの神様に由来してるらしいからね。

花子:じゃあ、神無月にいなくなる日本の神様って誰なの?

太郎:ほら、やっぱりですねー。日本では昔から「八百万(やおよろず)の神」って

   言ってさ、身の回りのありとあらゆるものに神様が宿っているという考え方

   で生きて来たでしょ。

花子:ああ、そう言えばそうよね、昔から言ってたものね、トイレの神様だってい

   るしね。あの畑中恵の「しゃばけ」なんて九十九神って言うのも出てたし

   ね。

太郎:おういいね、懐かしいね、畑中恵ねー。

花子:それでさ、あんた今日は何に腹立ててるんですか?

太郎:いや、別に毎日腹立ててるわけじゃないですけどね、なんか10月になって

   ね、もう秋も深まるばっかりだからさ、気持ちを新たに生きましょうかって

   思っててもさ、なにせ神様のいない月だから嫌なこといっぱい起こりそうで

   心配なのさ。

花子:そうね、物価も相変わらずだし、月が替わるたんびに値上がりする物ばかり

   だしねー。介護保険料だって上がったんだよー。2600円もさー。今年年金が上   

   がりましたって言ってもさ、1400円だよ―上がったの。なんかこう言う裏があ

   ったのかって思っちゃうよねー。もうほんとに腹立つわ!!

   総理が石破さんに代わってなんかいいことないのかしらねー。

太郎:石破さんもさ、なんだか出だしから不安ばっかりみたいだなー。大臣たちの顔

   ぶれ見た? なんか、なんかでしょ!

花子:なにそれ、変な言い方ね。はっきり言いなさいよ、良いの悪いの?

太郎:良かったらこんな言い方しないって。もうさ、呆れてるわけよ。なんでこうい

   う人選するのかなって。石破さん今までずっと阿部さんとかと競ってたんだ

   から、なんか違う視点で臨むのかなって思ってたらさ、なーんだってもんで

   しょ。なんかねー、俺とほぼ同じような年代なんだけど、生きて来た世界が

   違うし、しがらみとかいっぱいあるんだろうねー、いまだにさ。もうそんな

   のすっぱり切り捨てて、本筋通してくれる人いないのかなー。総理になっち

   ゃうとやっぱりそうはいかないのかなー。

花子:自分たちのこと第一にするんじゃなくってさ、日本の未来ってのを考えられる

   人いないのかな。総理になる前と言うこと変わっちゃったみたいだものねー。

   まあ、皆そうかもしれないけど。選挙の時だけ腰低かったりねー。


太郎:そう言うのも含めてさやっぱりさ、言葉って大切だなって思うわけ。

花子:そんなの、今更って感じー。

太郎:ほらね、アラカンのあんたでさえそんな言い方になっちゃってるもんね。言葉

   の持つ力ってさ自分たちが思ってるよりうんと重たいなって。今更ながら思う

   わけよ。

花子:『言霊』って言う位だから、言葉には魂がこもってるってことでしょう?

太郎:まあそういう意味なんだろうけどね、言っている自分じゃなくって、聞いてい

   る方に言葉って「魂」を伝えるでしょう。しかも別な意味でさ。それを本人た

   ちが分かってるかってことさ。

花子:そうね、自分ではなかなか軽いつもりで言ってるかもね。テレビとかで慣れち

   ゃったからねー。


太郎:この前さ、何とか言うジャリタレが食レポって言うやつをする番組見てたら

   さ、なんかひどかったもんね。

花子:またー、ジャニタレでしょう。いやもうジャニーズなくなったからなんて言え

   ばいいかなー、とにかくジャリタレはないでしょ、もうずっと前から子供じゃ 

   ないんだから。

太郎:子供じゃないからもっとダメなんじゃねえの。だってさ「ヤバ!ウマ!マジ

   で?ヤバクネ!」って、なんじゃそれって思わないか?!

花子:ああ、見た見た。そんなのいっつもの話だもんね。「ヤバイ」だもんね。

太郎:全く食レポでもなんでもないでしょそんなの。どんな風においしいのか、何が

   どういう味なのかをちゃんとレポートするから「食レポ」なんだろう?「ヤ

   バ・ウマ・マジ・ヤバクネ」じゃ自分の頭の軽さをレポートしてるだけでしょ

   うが。

花子:そうね、似たような番組いっぱいあるけどみんな「ウマ!」で終わっちゃうも

   のね。女の子でも「ウマ!」が普通になっちゃってるみたいだし、「ヤバイ」が

   おいしいの意味になっちゃってるものねー。

太郎:今更さ、「ヤバイ」を使うなとは言わないけどね、ヤバイはやっぱり悪い時に使

   う語感から抜けられないでしょう俺たちにはさ。「ヤバイくうまい?」もわかる

   気はするけどね、なんか毒でも入ってる気になってしまう。

花子:うちの死んだお爺さんだったら激怒してるよねきっと。「日本語を破壊するつも

   りか!!」ってね。

太郎:いっぱい言われたんだろ。

花子:そうでもないよ。孫には甘かったからね。でも、国語の先生だったからね、周

   りには厳しかったよ。言葉の使い方間違うとがっちり説教の時間になってたみ

   たい。

太郎:そういう人たちが必要なんだね今も。俺なんか尊敬しちゃいますよ。さすが明

   治の生まれだねー。自分個人のことだけじゃなくって天下国家を語れる人たち

   だったものね。

花子:あら、令和の人たちだって天下国家を語ればいいじゃない。

太郎:そんな人見たことある?

花子:テレビのワイドショウなんかで毎日政治問題批判してる人いるじゃない。

太郎:あの人たちって、そういうキャラ演じてるだけじゃないの?自分に与えられた   

   役なんじゃないかと思うんだけど。

花子:そんなことないでしょう。だって弁護士さんだったり、元官僚だったりの人が  

   多いよ。

太郎:その割に毎回無責任なことしか言ってないと思わないか?芸能人のスキャンダ

   ルから外国の経済問題まで立派なこと言ってるみたいだけどさ、それ誰の考

   え?って思うことない?

花子:まあ、そんなことだってみんなあるんじゃない。でも、納得できること言って

   るならいいじゃない。

太郎:まあ、それは今回は置いといてさ、言葉の乱れは日本を乱すってこと言いたい

   わけよ。「言霊」ってことはさ、日本語を破壊してしまうと人心を無為にしてし

   まうってことなんだよ。

花子:相変わらず大げさだと思うけど。じゃあ、どうすればいいと思っているんで

   すか。


太郎:あんたのお爺さんと同じ。学校教育を見直すこと。一番はそれ。その為には

   あのテレビのいい加減な番組を見ない運動を起こす。最後は学校の在り方なん

   だよ絶対にさ。子供たちにとって学校の存在はものすごく重いんだ。そのこと

   をみんなもう一度考え直すことだよ。

花子:えー、学校にばっかり責任押し付けられないでしょう?

太郎:いや学校なんだよ!最後は学校しかないんだって!学校に責任押し付けてるん

   じゃなくってさ、学校教育を大切にさせなきゃダメだってことをね、日本人み

   んなが自覚しなきゃならないんだって。

花子:うーん、でもねー、最近の学校のセンセって言ってもねー。

太郎:ああ、言いたいことはわかるよ。学校の先生たちのスキャンダルのこと言って

   るわけだろ。だからこそさ、国として学校教育にお金をかけて人間教育に全力

   を尽くすことなんだよ。

花子:学校の先生って評判悪くなっちゃったしねー。職場もブラックだって人気ない

   でしょう?

太郎:そこだね!!マスコミから何から皆で学校の評判落としてるからさ、先生の成

   り手がないとか言って、益々学校をダメな場所にしてしまったのさ。残業時間

   が多いからって手当てを増やすとか、教頭の仕事軽減に主幹教員を配置すると

   か、ポイント外したことばっかりやってる。そんなんじゃ変わりっこないっ

   て。

花子:じゃああんたはどうすればいいと思うのさ。批判ばっかりじゃなんにも変わら

   ないわよ。

太郎:簡単さ!教員人数を増やせばいいんだって。

花子:教員採用試験の志願者減って言われてるじゃない。増やせるの?

太郎:あのね、学校で起きているいろいろな問題の根本的な原因はさ、学級人数が多

   過ぎることなんだよ。一学級35人にしますとか言って自慢してる官僚がいるけ

   どさ、多すぎるんだってそれでも。1学級25人とか20人とかにすべきなんで

   すよ。そうすればさ、学級が増えた分だけ教員数だって多くなる。教員数が増

   えれば分担でやっている仕事量だって劇的に変化するんだ。残業時間の問題だ

   って、部活指導の問題だって本当に劇的に改善するよ!

花子:じゃあなんで今までそうしなかったの?

太郎:なんでだろうね?増やしちゃうとまずいことがあったんだろうね。

花子:なんで?誰にマズイ?

太郎:もちろん、上の方の人にだろ。教職員団体だとかがさ、政府に反対することが

   多かったんだから。

花子:そう言えば日教組っていう話はよく耳にしてた。うちの爺さんも日教組の一員 

   だったはず。

太郎:昔はさ、日教組がね共産党系だとか社会党系で反政府活動してた人も多かった

   からね。その中から国会議員になった人もかなりの数いたからね。

花子:それって学校の為になるとか何とかじゃない問題でしょう。

太郎:そういうことだね。だけど大きな理由はそこにあって、教員定数の増加はなさ

   れないままだったわけ。先進国(?)に合わせるからと言って、英語教育だと

   かゆとり教育だとか週休二日だとかは簡単に変更できてもね、少人数教育と教

   員定数だけは真似をしなかった。

花子:だってお金かかることじゃない。

太郎:そこが間違いで、国民が学校教育に金がかかることを理由にしちゃダメなん

   だ。それ以外のことに掛かっている(無駄な)金がどんだけありますかって。

   そこをみんな指摘しなきゃダメなんですよ。

花子:そう言えばねー、裏金だとか政党交付金だとか半端な額じゃないわよねー。

太郎:そうだろう!何に使ってる金なんだかわからない莫大な金額がさ簡単に交付さ

   れてるんだ、税金からだよ。教員人数増やすのにいくら掛かるか、計算さえし

   てないよね。それでいて小学校で英語教育することになったから、現有教員に

   研修をしなさいって?プログラミング教えるから、教員もプログラミングを覚

   えなさいって?それって、益々教員に働けってことですよね。


花子:うちの爺さんはさ、昔理科の専科の先生やってたはずだけど、それって理科だ

   け専門で教えるってことでしょ。あの、中学校の理科の先生みたいにさ。

太郎:そうそう、そういうことさ。英語専科にして英語の先生として新しく採用すれ 

   ばいいのさ。プログラミングだってさ、ITの専門の先生を増やせばいいでし

   ょ。それだけのことなんだよ。なんでそれができない。子供たちは日本の未来

   を創る人たちだよ。そこに金をかけないということはさ、日本の未来に投資し

   ないってことでしょ。だから、教育に金を掛けない国は滅びるってことなんだ

   よ。

花子:あらまー、今日はなんかカッコいいわあんた!

太郎:いつだってちゃんと考えてるんですよ。ただね、なかなかそれを外に出すこと

   ができない年になっちゃったからね、こうしてあんたにぶちまけていたわけ。

   でないとさ、腹膨れて「王様の耳は……」状態になっちゃうからさ。

花子:こういうカッコいいことならねー、聞いてあげてもいいわよー。もっと続けて

   いいよ。

太郎:いや今日はもうやめるよ疲れて来た!……ああ、でもやっぱ一つ気になってる

   ことがあった。

花子:なら早く言っちゃいなさい。早くしないと眠くなってきちゃう。


太郎:大谷君がさパドレスとポストシーズンってのをやってるんだけどね、相手チー

   ムのさ、パドレスって言うチームの主力二人がねあまりにもひどい態度なんで

   ね、あきれちゃてるのさ。

花子:それって、この前見てたやつだ。テレビに向かって吠えてる姿が異常だなって

   思ったやつね。

太郎:あの二人って結構有名な選手で成績もすごいんだよ、MVPとったりしてるくら

   い。このシリーズでも大活躍なんだけどさ、反面その態度がひどくてさ……。

   なんでこんな選手がペナルティー受けないのかってレベルで、酷いのさ。でも

   ね、そんな選手が向こうでは人気があってあこがれの対象なんだって言うんだ

   子供たちには。だから子供たちはそんな選手の真似するわけよ、だらしない着

   こなしのスタイルから罵り合う言葉まで……。もう、絶望的だなって思うの

   よ。おまけに大統領選ではさ罵り合いにウソだらけのでっちあげ……。もう末

   期的でしょ。

花子:そうだよね。大統領選があんなのだものね。よくあれでアメリカ国民は普通で

   いられるなって思うよねー。

太郎:いや、普通にはいられないんだろうけど、慣れちゃったんだろうね、きっと。

   だからそれこそが教育の問題だと思うよ。あんたの爺さんの言うようにさ、言

   葉には魂が宿っているからね、きちんとした言葉遣いをすること、自分の言葉

   を大切にすること。それこそ日本語を破壊しないことをさ学校でしっかり身に

   つけさせてほしいことだよね。未来ってそこから始まると思うよ。

花子:なんか珍しく哲学的なお話になっちゃってるけど、「神無月」に入って、神様の

   いない場所で思案深くなってるのかもね。ああ、そう言えばね、神様が集まっ

   ている出雲大社のあたりは神無月じゃないはずよね。

太郎:島根県はね「神有月」なんですよ。

花子:本当?

太郎:本当です。でもまあ、北海道はもうすぐ冬を迎える季節なんで雪が降る前の10

   月を楽しみましょうかね。神無月に囲まれていろんなことに文句言ってるのも

   まあいいじゃないですか。


  と言うところで、今回はここまで。じゃあまた。(北海道弁では「したっけ!」)

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道産子太郎と花子の「笈(老い)の小文 @kitamitio

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