望んだ最後の冒険者

ショウシ

第1話 最後の冒険者(ラスト ストレンジャー)

冒険者が人気だったのは既に遠い昔。

人類が数多の魔物の脅威に対抗しようと生まれた組織の名前が冒険者ギルドだった。

名のある冒険者は魔物の大移動や、ドラゴンや、ベヒーモスといった大型魔物を討伐し。

多くの財や特殊な魔物を吐き出していたダンジョンを攻略し、根こそぎ冒険し尽くした。


人類が驚異としていた魔物は、英雄と呼ばれた人達が狩り尽くしてしまった。

もう語り継がれるような冒険者は、物語の中にしかいない。


現代の冒険者は、手に職が無くて仕方なく日雇いの仕事を求めている浮浪者のようなものだ。


ちなみに、僕もそんな冒険者の1人だ。


「うぉらぁー! 待たんかいーーー!!」


僕が追いかけている指名手配の獲物は息を切らしながら縦横無尽に逃げ回る。

時には屋台の果物をぶちまけたり、塀の上に登ってそこを駆け抜けたり、木を伝って壁をよじ登ったりして逃走を続けているけど、相手が悪かったな!


「よっしゃー! 捕まえたぞ!」


「フニャーァァァァアア!!」


指名手配の相手は爪を剥き出しにして最後の抵抗をしてくるけど、その程度じゃ僕には通用しないのだ。

あっ、思ってたよりも痛い、痛いからやめて!

いつもはロクに仕事がないけど、今日の仕事は目ん玉が飛び出すほどに割高だったから受けたんだけど、思っていたよりも楽勝だったな!

こりゃグランドマスターから褒められちゃうかもなぁーーー!!


「大馬鹿者めが!!」


「あへぁ……」


「猫1匹捕まえるのに、街道の屋台半壊! 植林を倒木! ブロック塀にヒビ! 全部アンタに弁償してもらうからね!」


「あの。それ全部弁償したら今日どころか当分ご飯を食べられないんですけど……」


「なら別の依頼を受けるかい? 今のアンタにお似合いの依頼なら山のようにあるんだからね」


カッカッカッとグランドマスターババアが笑う。

これでも昔は大の女嫌いの僕でも国一番と思えるほどの美人さんだったのに、今ではシワクチャだし、美しかった燃えるような赤い髪の毛はもう真っ白になっていて潤いも無い。

時の流れってのは残酷だなぁ。


「おい、いま失礼なことを考えたね?」


「え? いや、そんな事は……」


「何十年の付き合いだと思ってるのさ! ガキが生意気考えてるんじゃないよ!!」


「いや、僕の方が年上だよね」


「尚更だよっ! この歳だけ無駄に重ねたクソガキがっ!!」


ガキじゃないんだけどな。


「ほれ! もうアンタと話すことは無いよ、もう出て行きな!」


クソババアめ、いつかボコボコにしてやる。


「なんか言ったかい?」


「いえ! 何んでもないです!」


僕は2階の部屋から飛びだしてそそくさと1階まで降りていく。


「チップさん。またおばあちゃんに絞られてたの?」


「ミザリー、君もいたのか」


1階の受付にはあのババアの孫娘であるミザリーが立っていた。

普段は立ってないんだけど、珍しいな。


「一応、普段から無い依頼があれば、どんな小さな依頼でも私もココにくるわよ」


「あぁ、今日は猫探しの依頼があったもんね」


ちなみに、それ以外の依頼といえば町内会みたいな所から草むしりの依頼くらいしかないけどな。

それで得られるお金なんて微々たるものだ。

昔は薬草採集なんてあったけど、魔物が絶滅してからは怪我人も少ないし、ポーションだって必要なくなってきている。

良い事だな。


「チップさん、ちょっといい?」


「ん? なんかあった?」


ミザリーは受付から出てきて、俺の頬を触りだした。

昔の僕なら振りほどくくらい嫌なことだけど、今の僕にはそんな気持ちは湧かない。


「チップさんって何歳でしたっけ?」


「それは企業秘密だから言えないよ」


「隠すような事でも無いでしょ? チップさんっておばあちゃんより歳上なのよね?」


「そうだけど、それがどうかした?」


「いつ見ても15歳くらいにしか見えないなって……それも魔術なの?」


「いや……まぁ、そんな所かな」


魔術で若さを再現することも出来なくは無いけど、僕の体質はそうじゃない。


「それじゃ、今回の報酬は僕が壊した分の復旧で使うみたいだから全部使っちゃって」


「はい、また何か依頼がありましたらご連絡しますね!」


僕は携帯端末を見せてミザリーさんに笑顔を見せてギルドを出た。

ギルドは既に老朽化がかなり進んでいて、無理に良く言えば味がある建物だけど、悪く言えばお化け屋敷というか、古臭いオンボロ屋敷だ。

昔は綺麗な建物で、それは人で溢れていたものだ。

やれどの魔物を狩っただの、やれどこを踏破しただのと冒険者達が語り合って賑やかだったのは、もう古い記憶の中の話だ。

僕は舗装されて綺麗になった大通りを歩く、ここも昔はマカダム舗装のような道ではなく、土と砂のただ人が踏んだことによって出来ていただけの道だったのにな。

建物も民家は木と土壁が主な素材だったのに、今は魔術が普及したこともあってコンクリートの壁と遜色ないし、断熱だってしっかりしている。


時代は変わった。


でもそれは良いことだ。

魔物に怯える人はもういない、これは僕達冒険者が成し遂げた成果だ。

そのまま歩き続け、大通りが一望できる高所へと僕は向かう。

ここも昔は憩いの場というか、公園のような場所だったけど……今はもう人はあまり来ない、だけどそれで丁度良い。


コイツと会話できるからな。


『魔術ねぇ……くだらねぇ嘘を付くのが好きな野郎だな、お前はよ』


小さなマスコットキャラみたいな悪魔が俺の横に浮いていた。

全ての根源、僕がこの世界に来たきっかけをくれた奴だ。


「うるさいな、別にいいだろ。説明できないんだし」


『言えばいいじゃねぇか、この俺様に呪われてんだってな! まっ! 信じてくれる奴がどれだけ居るかは知らねぇけどよ! ゲハハハハ!!』


不変の呪い、それが僕が年を取らない正体だ。

僕の若さゆえの過ちとでも言うべきだろうか……。

オカルトが好きだった僕は、元の世界で神の降臨というふざけた儀式を行った。

そこで出てきたのが神ではなく、この悪魔だった。


「僕を騙してここ別世界に連れてきたくせに、酷い言い様だね」


『でもお前だって望んでいたんだろう? それとも今更前のクソみてぇな平和ボケした世界に戻りてぇってか? いいぜ、お前には大きな借りがある。それを望むなら叶えてやるが?』


「やめとく、お前に望んだら次はどこに連れて行かれるか分かったもんじゃない」


『そうだよなぁ! 帰れねぇよな! もうお前の体は向こうの世界じゃ平行世界のお前に譲っちまってるし、仮に帰った所でお前は消滅するだけだ』


「消滅……僕が消えるのか?」


『平行世界のお前自身を道連れに対消滅するオマケ付きだがな』


「……ならいいや、この世界は嫌いじゃないし」


元の世界に戻るくらいなら、この世界に残ったほうが遥かにマシだ。

もうあんな苦痛にまみれた場所に戻ろうとも考えていない。


『変わった野郎だ。俺様が連れてきた奴は、泣きながら帰りたいって駄々を捏ねていた奴もいたんだがな』


「でも、それも僕でもう終わりだろう?」


『まぁな。お前の言うところの、人間を救ってくれたことにはこれでも感謝してる』


「感謝してるなら僕を普通の体に戻して欲しいんだけどね」


『そいつは出来ない頼みだな。呪いを解く方法は呪いを相手に返すしかない、消す方法なんて存在しねぇよ!』


酷い話だ。

まぁ、それも僕がこの悪魔と話し合って決めたことだし、後悔はしてないけどさ。

でもこういう呪いが降りかかるよと、説明くらいして欲しかったと思うのは贅沢なんだろうか。


『おい、なんだありゃ? なんか来るぜ』


悪魔が僕にそう言うので、悪魔が指差すほうを見た。

大通りの奥のほうから、なにやら暴走した魔力車両がこっちに向かって走ってるように見える。


『お前のファンか何かか?』


「んなわけあるか! この真下は大門だろうから、きっと門を抜けてこの国から出ようとしてるだけだろ」


『にしては穏やかじゃねぇな。ほれ、あれ』


暴走車両に乗っている人間は武装しているようで、走りながら門にいる衛兵を魔術武器で攻撃してる。


「急いでるってよりは、逃げてるって方が合ってるのかもな」


『いいや、あれはどちらかと言えば門を突破しようとしてるようにも見えるな。さて、どうする? 見て見ぬフリをするのが一番楽だと思うぜ?』


「そうだろうね……でもここで見逃したら一緒に戦ってきた歴代の冒険者達に申し訳が立たないだろ」


『ろくに戦えもしないくせに、よく言うぜ』


鼻で笑う悪魔が、口角をニィっと上げる。


『だが悪くねぇ、貧弱なお前に俺様の力も貸してやる。人間共はなるべく幸福に生かして、全員俺様の養分にしないといけねぇからな!!』


ゲハハッと笑う悪魔を見て、本当に動いていいのか僕は少し悩むのだった。




******************


ここまで読んで頂いてありがとうございます!

楽しんでいただけたら幸いであります!!


一応、自分が書いているもうひとつの小説の別世界のお話ですが、別にそちらを読まなくても楽しめるように設計します。


それとこちらは今のところ不定期更新&テンポは遅くなりますので、ご了承頂くと共に気長に更新を待っていただけると助かります。


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