松岡 祐樹  6


「松岡くん?」


急に黙ってしまった俺を不思議に思い、どうしたのと声をかけてきた。

いつのまにか考え事をしてしまっていたようだ。


「なんでもないよ。ちょっと、事故の光景思い出しちゃってて」


「……ほんとに?」


「なんで?ほんとだって」


華奈は突然黙ってしまった。

どうしたんだろうか?


「ん……松岡くん自分じゃ気づいてないみたいだけど、いつもと違うよ?」


「違うって、なにが?」


「だって、松岡くん事故で遅れるって連絡してきた時も、いつもだったらもっと『すごいの見た』とかって話したがるよ」


「それは……ビックリしてたし、警察とかもいたし…」


「運転手さんが大変なことになっちゃったからなのかなって思ったけど、そんなこともないみたいだし」


言われるまで気づかなかった。

言われてみれば、普段なら写真撮ったりしてたかもしれない。

人助けしちゃったし表彰とかされちゃうかも、なんて言っててもおかしくない。

自分で言ってて馬鹿みたいで嫌だけど。

事故の衝撃があったのは確かだけど、思ったよりも不安だったのかもしれない。


「それに、松岡くんの足……」


え?

なんで華奈が知って?


「クラブ室でみんなで話してたとき、松岡くん意識してなかったのかもしれないけど組んだ脚を手でさすってたよ。ホントは怪我しちゃったの?」


あの時は痛みはなかった。

本当に、無意識で触っていたのか。


「怪我は、してないよ」


「……何かあったの?」


「……………」


「今日谷さんが見せてくれた動画でもね、沙也加さんが何か映ってたって言ってたんだ。それに、谷さんも言ってなかったけど何か映ってたから今日見ようって言ってきたんだと思う」


「………あぁ……」


「それで、相馬さんがあんなことになっちゃって……絶対に関係あるとは言えないけど、あそこで撮ったのを見てたら……」


……多分、そうなんだと思う。

俺のことだけなら、たまたまあの横断歩道とかバスがおかしいってこともあり得る。

でも、あの家に行ったメンバーに変なことが起きているなら…


「今日の帰り道、松岡くんにも何かあったんじゃないかって思ったの。……ただの勘でしかないんだけど、なんとなく」


「…………俺も隠したかったわけじゃないんだ」


「え?」


「色々あったけど、そんな馬鹿なって笑ってもらうつもりでクラブ室行ったのに全然話せるような空気じゃなかったから……」


それから、俺は今日あったことを全部話した。

途中、ビデオ通話にして足首にある手の跡も見せた。

やめた方が、と止めたけど見ておいた方がいい気がするからと頑なだったので見せたんだけど、画面の向こうの顔には思い切り恐怖が浮かんでいた。


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祈りの家 黒い烏 @xix

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