松岡 祐樹 5
何事もなくアパートに帰ってくることが出来ただけでひどく安心した。
それが当たり前のことなのに、今日に限ってはまた何か起こるのではと思ってしまうのだ。
朝に通った横断歩道がある道は避けて帰ってきた。
またあそこに行ったら掴まれるのではないか。
華奈と歩いている時から足首に微かな痛みを感じていたので、どうしてもそんな風に意識してしまう。
部屋着に着替えると、足首が目に入った。
相変わらず手の跡はついたままだ。
気持ち悪い……
目に入るのが嫌だったので、エアコンの設定温度を下げて長ズボンへと履き替えた。
心なしか、バスで見た時よりも黒くなっているような気がした。
気づけば、時刻は21時になっていた。
何気なくSNSを見ているだけで、あっという間に時間が過ぎていく。
途中適当に酒のつまみに買ってあった菓子をつまんでいたのでお腹も減っていない。
色々な写真や、色々な人が踊っている動画、動物の日常系。
特に面白いと思うわけでもないけれど、何故だか次々と見てしまう。
意識が画面に集中していたからか、足の痛みも感じることなく忘れていた。
そんな時、スマホに通知が届いたので手が止まった。
連絡してきたのは、華奈だ。
『いま、なにしてる?』
『忙しくなかったら、話せないかな?』
時間的に、自室に戻った頃だろうか。
家族と過ごしてたのが1人になって不安になったのかもしれない。
大丈夫だよ、と送るとすぐに電話がかかってきた。
「もしもし?」
「うん、急にごめんね?」
「いや、大丈夫だよ。まぁ、今日は色々あったしな…」
「うん……」
これといって、何か話したいことがあったわけじゃないんだろう。
通話し始めてはみたものの、会話は続かなかった。
「……そういえば、会ってから聞けばと思ってたから聞けなかったけど、事故って大丈夫だったの?」
「……あぁ、うん。大丈夫だよ。俺の見てる前でバイクが転んだってだけだから、事故に関しては俺には特に影響なし」
「そっか……ならよかった。でも、怖いね。滑っちゃったとかなのかな?私事故とか見たことにないかも」
「俺も見たの初めてだと思う。いきなりのことだったから、何が何だかってうちにガシャーンって感じ」
「そうだよね、こわいなぁ。運転手さんは大丈夫だったの?」
「あぁ、まぁ大丈夫だったと思うよ。こけた後はちょっと混乱してたっぽいけど、すごい大怪我って感じでもなかったし」
運転手がうわ言のように呟いていた轢いてしまったという言葉。
バイクがぶつかったのは、俺の足を掴んだ『何か』なんだろうか。
足首に残った子供ぐらいの手の跡。
バスを降りる時に友人が見たという黒い人。
短い間に起きた2つの出来事。
同じ存在なのか、別の存在なのか。
俺に起きたのは偶然なんだろうか。
考えたくないけれど、相馬さんが消えてしまったことだって……
嫌な考えばかりが浮かんでしまう。
祈りの家 黒い烏 @xix
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