忘れてしまわれたようなので

壱原 一

 

忘れてしまわれたようなので


思い出していただきに 参りました


忘れてしまわれたと 申しましても


きっと 毎日の堆積に 沈み 埋もれているだけで


本当は ご記憶の片隅に


焼き付いて 彫り込まれ


覚えていてくださると 存じております


存じております


知っております


分かっております


知っていますよ


あの日から 今日に至るまでの


なにも 頭に考えない 一瞬


なにも 心に思わない 寸の間



あの時の 笑い声と 顔を


度々 汲み上げ 掘り起こして


くださって きた ことでしょう


あの場にいた あなた方 全員の 顔と 声


あなた方の 笑う顔 と声


あなた方は 笑っておられました ね


笑って なにをなさり 仰ったか


沈めた 日々の底から 埋めた 歳月の奥から


どうぞ どうぞ いま一度


思い出して ください


思い出して ご覧 ください


ご覧ください


こちら を


遥々 参りましたので


どうぞ よく こちらを ご覧 ください


ここです


思い出して くださった ご記憶の 通り


今も まだ 笑って おります


あなた方が あの時 笑って なさった


なさりよう 仰り よう に


□□も また おしまいには 笑いました


笑った


このように 笑いました


笑った おしまいに


覚えて おいでですね


もちろん 覚えて おいででしょう


あなた方は 笑って


笑った□□を 見て 笑った


□□も よく 覚えて おります


知っております


覚えております


あなた方の 顔 声 すべて つぶさに


覚えています


覚えて いますよ


片時も 忘れず こうして 笑い


思い 留まって 参りました


あれから 随分 が 過ぎて


どうも 皆さま 在所を 違えて 居られる


忘れてしまわれた ようなので


思い出していただきに 参りました


そちら 何が どうあっても


あなた様の 在所でない


どうぞ この顔を 御覧じて


よく 思い出して いらしてください


□□は おしまいに 笑い


あなた方は 笑い 笑った


お迎えに 参りましたので


どうぞ 同じく お笑いください


順に お迎えに 参りまして


皆さま 先に お待ちです


同じく 越えて お越し ください


おしまいに どうぞ 笑って


さあ どうぞ


こちらへ



終.

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忘れてしまわれたようなので 壱原 一 @Hajime1HARA

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