第44話 最終話 旅立ち
この部屋の契約は今月末までと商業ギルドに連絡していて、月末まで後6日ほどある。
自分で買ったベッドやテーブルセット、シーツや毛布とか細々した物もインベントリに入れて持って行くつもり。また、どこかの街で部屋を借りるかも知れないからね。
<フォス>の街を出るにしても、一人旅なんてしたことがないから、近い街がいいと思うの。だからビーさんに、まだ見たことがない魔物がいる近い街はどこか聞いた。
〖アスカ、ここから近い街は2つで、北西にある<アークレイ>と東にある<オーロ>になります〗
――その街の名前はスタンピードの時に聞いたね。
〖はい、冒険者ギルドで街の名前が飛び交っていましたね。アスカ、スキルポイント狙いなら<アークレイ>がお勧めです〗
<アークレイ>の西側には、<カガン帝国>との国境になる無主地が広がっていて、そこには深い森と高い山々が
その森と、山の中に鉱山があって――鉱山でしか見かけない魔物がいるんだって。
〖後は、<アークレイ>の北側に大きな湖があり、その湖にもアスカがまだ見たことない魔物がいます〗
――あっ、ビーさん、湖には産卵に上ってきたセーモンがいるのかな? 魔物だから産卵後に死なないよね?
〖死にませんが、セーモンは湖で産卵が終わると海へ帰るそうです〗
――海へ帰るの? ちょっと残念。
〖もう1つの街<オーロ>の近くに現れる魔物は、ここの草原にいる魔物と変わりません〗
――それなら、行き先は<アークレイ>ね。
◇◇◇
月末まで森で狩りをして、休みの日は冒険者ギルドの資料室で<アークレイ>周辺に出る魔物を調べた。
<アークレイ>までは、辻馬車じゃなくのんびり歩いて向かうつもり。エレナとレオンがいるからね。
〖アスカ、街道では
――ええっ! ビーさん、盗賊が出るの?
〖可能性はあります。公爵家の騎士団よって、定期的に街道沿いの魔物狩りや盗賊が出たら討伐隊が出ますが、100%安全ではありません。私がレベルAになったので、不意打ちされることはないですが、盗賊がいるということを知っておいてください〗
――うん、分かった。私……、人間相手に魔法を撃てるかな……?
〖アスカ、慣れです〗
――! 慣れたくないけど……そんな綺麗事、言っていられないのよね……。私の判断が鈍ると、スラ君やエレナとレオンが傷ついて、最悪、殺されてしまう……。
――ビーさん、私が間違わないように助けてね。
〖はい、サポートします〗
◇◇◇
<フォス>での最後の狩りを終えて、ギルドの買い取りカウンターにいるベールズさんに挨拶をした。
「ベールズさん、街を出て<アークレイ>に行こうと思っているんです。お世話になりました」
「何……アスカ、<フォス>を出るのか?」
ベールズさんが驚いた顔をする。
「はい。この国の……色んな場所を見たいので、旅をすることにしました」
……見たことのない魔物を倒して、スキルポイントを増やす為とは言えないからね。
ベールズさんに、ギルドで移動の届けや手続きをするのかと聞いたら何もないらしい。
「冒険者の移動はよくあるからな。特に管理はしないんだ」
ギルドで依頼を受ける時の冒険者カードの提示と、買い取りカウンターで出す冒険者カードの記録だけなんだって。
「アスカはパーティーを組まないから、ここでのんびり冒険者を続けるんだと思っていたが……そうか、分かった。アスカ、また戻って来いよ。いつでも歓迎するからな!」
"また戻って来い"なんて言ってもらえて嬉しい。のんびりと狩りをしたいのはその通りだけど、この世界をもう少し知りたいの。
「ベールズさん、ありがとうございます」
「おう! アスカ、元気でな!」
◇◇
翌朝、食事をした後、自分で買ったベッドやテーブルセット、その他の荷物をまとめてインベントリに入れていく。
忘れ物がないか部屋を見回して、マントのフードを深く被ってスラ君を肩に乗せる……ショートボブだった髪も少し伸びて、もう直ぐ肩に付きそう。前髪が伸びて邪魔だけどね。
部屋を出て、鍵を商業ギルドに返しに行った。
その後、屋台でホットドッグとサンドイッチを多めに買って、市場で卵とお米も買ったから、これでしばらくは大丈夫ね。
そうだ、街を出る前に、教会に行って神様に挨拶しよう。
◇
教会の扉を開けると、誰もいなかったのでエレナとレオンも連れて入る。
長椅子に座って、エレナにお祈りするからと声を掛けたら、エレナとレオンも横の通路でおすわりをするの。ふふ、賢いね。
目を閉じて、両手を握るように合わせる。
……神様、仲間が増えました。この世界にも少し慣れて、スキルポイントを稼ぐ為にこの街を出て、北の街<アークレイ>に行きます。
立ち上がって正面の水晶に向かい、手前にある寄付金箱に――お金も貯まったので金貨を1枚入れた。
すると水晶がキラキラ輝いて……あれ、なぜ光るの? 光るのは初めて寄付した時だけじゃないの?
〖――アスカ、違うみたいですね〗
……う~ん、<アークレイ>の教会でも寄付をしようと思っていたけど、毎回光るのなら考えないとね。
水晶のキラキラが収まったと思ったら、私の肩の上でスラ君がポワッと淡く光って……いる? えっ、勘違いよね?
〖アスカ、エレナとレオンも光っています〗
――えっ! エレナたちも?
ビーさんに言われて隣にいるエレナを見たら……淡く光っている。レオンも……何で?
〖アスカ、スラ君たちを『鑑定』したら――創造神アリラートスから加護を
――えっ! 加護って……神様が守ってくれるって意味よね?
〖はい、神がその力によって守るものに与えられます〗
スラ君たちのステータスを見ようとしたら声を掛けられた。
「アスカさん、教会にようこそ。フフ」
そこには、ニコニコと満面の笑みを浮かべたフラン司祭様がいた……あぁ、執務室の水晶も光ったのね。
「フラン司祭様、こんにちは。あの……」
フラン司祭様にこの街を出て北の街に行くと話した。
「そうですか……アスカさん、気をつけて旅をしてくださいね。もし、助けが必要な時は必ず教会に行ってください。教会は全力で貴方を守ります……創造神アリラートス様のご加護がありますように――」
「……ありがとうございます。フラン司祭様、失礼しますね」
フラン司祭様に見送られて、大通りから北門へ向かう。
フラン司祭様に「神様の加護は、スラ君たちがもらったみたいです」とは言えない……これ、誰かに知られたらヤバいんじゃないの?
〖スラ君たちが創造神アリラートスの加護を持つと知られたら、欲しがる者が出て来るでしょう。ですが、スラ君やエレナを『鑑定』して、加護まで見える者は少ないと思います。レベルの低いレオンは別ですが――〗
――レオンのレベルは『E』だからね。スラ君やエレナみたいに『B』になったら、加護まで見られなくなるのね。
〖はい。
――あー、私が覚えたくらいだし、いるよね。
あの時……あそこには30人位いたから、私以上にマンガやゲームの知識があれば『鑑定A』を覚えるよね。
北門で、警備兵さんにこれから狩りかと声を掛けられたので、<アークレイ>へ行きますと答える。
「そうか、気をつけてな」
「はい、ありがとうございます」
警備兵さんに頭を下げて門を
◇
街道を歩き始めると、段々と気持ちが
「スラ君、エレナ、レオン、私たちの冒険の旅が始まるのよ。楽しみね! ふふ」
肩でプルルンとスラ君が揺れて、エレナとレオンが喉を鳴らす。
『……(アスカ、楽しそう)』
『ガルル(ええ、楽しそうね)ゴロゴロ……』
『ミ"ャー!(うん、楽しみだ!)ゴロゴロ……』
えっ……? 肩から可愛らしい子供の声と、エレナから女性の声、ちょっとかすれた男の子の声はレオンから聞こえた。
「今の……みんなの声なの? ええっ! もしかして、スラ君たちは話せるようになったの?」
スラ君は私の肩で背を少し伸ばして首を傾げて、エレナとレオンはキョトンとした顔で私を見る。
〖アスカ、創造神アリラートスの加護のお陰でしょう。
――えっ、神様の加護で? ビーさんにも、スラ君たちの声が聞こえたの?
〖はい、聞こえました〗
「うわぁ~、それは嬉しい! 教会に引き返して、神様にお礼を言いたいくらいよ!」
<アークレイ>に着いたら教会に行ってお礼を言わないとね! キラキラしてもいいからお布施もするわ!
『……(アスカ、ボクの声、聞こえるの?)』
『ガルル?(えっ、ワタシの言葉が分かるのかしら?)』
『ミ"ャ~?(オレのも?)』
「そうよ、みんなの声が聞こえるの! ふふ、神様の加護だって! 何てステキな加護かしら? 嬉しい~!」
スラ君が『……(うん! うれしい!)』と言って頬にスリスリしてきて、エレナとレオンは『ガルルル!(アスカ、嬉しいわ~!)』とか『ミ"ャー!(やったー!)』って嬉しそうに私の周りをくるくる回る。
ふふ、これからの旅が賑やかになりそうね~。
小説でよくある、スローライフな生活に憧れるのよ……。
だから、いつかお風呂付きの家を買って……賃貸でもいいけど、みんなで住むのもいいかもね。ふふ。
――――――――――――――――――――――――――――
【あとがき】
拙作を最後まで読んで頂いてありがとうございます。
カクヨムコン10参加に向けて、10万文字を目指して書いていましたので、こちらで一旦完結とさせて頂きます。
♡や★をありがとうございます。ギフトも感謝しています。
良いお年をお迎えください。
2024/12/29 Rapu
異世界でテイマーになりたい Rapu @Rapudesu
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