本屋

ぽんぽん丸

本屋

私たちは同じ歩幅で自動ドアをくぐった。少し歩いてから私は歩幅をずらした。話のフリのために大きく振りかえってから私は話し始めた。


「入口に必ず金属探知機みたいなのあるよね。そんなに大げさなものじゃないけど」


彼女は不思議そうな顔をした。だから続けた。


「本当に本を持ちだしたら警報が鳴ると思う?だってさ1店舗に本って1万冊くらいはあると思うんだよ。雑誌とか入れ替わりが激しいものも多いし、1つ1つに警報機を鳴らす何かがついてると思えないんだよね」


彼女は首をかしげて目線を斜め上に向けてすべての本に探知機を付けるところを想像している。


「だからさ、逆なんだと思うんだ。それこそ金属探知機みたいに入ってはいけないものに反応すると思うんだ」


彼女は突飛な意見に興味を失い週間売れ筋ランキングの5位の恋愛小説を手に取っている。


「そうするとさ本屋に入っていけないものってなんだろうって話なんだ。例えば文字の読めない人?目が見えない人?でもさ字が読めないから本を売らないなんて酷いことないだろ。例え実用でなくても本を買ったっていいと思うんだ。むしろ僕らみたいにさ、読めるからって積んだままにしているよりもずっと良い買い物だと思うんだよ」


「それで?」


彼女は恋愛小説の3ページ目に夢中だ。


「読めない人でもきっとあの機械は反応しないんだ。もちろんさ、クレーマーだったりお風呂に入ってないみたいな入店を断りたくなるような人も違うんだ。だってそれは店長や社員さんの仕事だし、そういう人に反応するなら機械が大きな警報音を鳴らしてるところを一度くらい見たことあると思うんだ」


「マンガ見て良い?」


彼女はすっかり5位の恋愛小説に飽きて次はマンガを見る。


「チェーンソーマンは治安の悪いディズニーランドなんだよ」


彼女はカグラバチの1巻を読みながら教えてくれる。


「そうなの?」


「治安が悪くて、でも隅々までぜんぶしっかり作られててずっと夢を見せてくれる」


彼女はペラペラとページをめくりながら理由を言った。


「最近はスタッフさんの質が落ちたりゴミ箱が溢れたりしてるらしいからいつか同じになるかもね」


「東京チェーンソーマンランド?行かなきゃね」


彼女はカグラバチの表紙カバーを外して楽しい仕掛けがないか確認しながら未来のデートの約束をしてくれた。


本屋の自動ドアをまたくぐる。


「やっぱりあの機械は何かを入れないためにあるんだろうね。だってあんな業務用の警報機なんて10万円とかするんじゃないかな。だからやっぱり何かを入れないためのものなんだよきっと」


「何にも反応しないんじゃない?無駄な高額な機械なのよ」


「でもさ」


彼女は私の言葉を遮った。


「だって反応しなかったじゃない。何かを拒むなら私達こそ拒まれるよ。何も買わずに余計なことばっかり喋って」


彼女は真面目な顔でそういった。私は熟考した。目の見えない人やお風呂に入っていない人のことよりもずっとよく理解できた。


「…確かに」


私が噛みしめるように言ったら、彼女はけたけた笑った。


「10万円で誰にも反応しない警報機を買ったのよ。変なダルマとかよく知らない神棚よりもずっとステキ」


彼女はけたけた笑った笑顔のままそう言った。

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