最後の予告状
@Taoguo2856
最後の予告状
序
町の片隅にある古びた郵便受け
ここには、毎朝、一通の封筒が届く
封筒の中には奇妙な「予告状」が入っており、その日起こることが書かれている
ある日偶然、郵便受けを覗いた和馬はこの封筒の存在を知る唯一の人物となる
これは、「予告状」の内容に翻弄される1人の少年の物語
本
和馬は、朝の霧が立ち込める中、郵便受けに手を伸ばした
毎日決まった時間に届く封筒を取り出し、封を開ける
今日も例の予告状が中にあった
『午前10時、あなたの目の前で大きな出来事が起こる』
和馬は「またか」と苦笑しながらも、どこか不安を感じていた
何が起こるのか、明確には書かれていないからこそ
大きな出来事がどれほどの出来事を指すのか、分からないのだ
しかも、これまではの「予告状」の内容は明日は雨が降る、とか
県知事が変わる、とか
自分に関係があるようで、直接的な関係はないことばかりだったのだ
だが、不安に駆られていても仕方ない
「どうせ、大したことないだろう」と自分に言い聞かせた和馬は
少し冷たい風に体を震わせながら、足早に歩き始めた
・
駅前に着くと、和馬は立ち止まり、周囲の様子を観察していた
時刻は9時58分
「予告状」には10時に何か起こると書いてあったため、もうそろそろ何か大きな出来事が自分の目の前で起こるはず
何が起こるか分からない恐怖を抱えながらも移動をするため、駅前の中でも1番大きな交差点に向かって歩いた
ちょうど信号が赤に変わったところだったので視線をスマホに落とすと和馬の耳に一際大きな何かがすり減る音が聞こえてきた
「予告状」に書かれていた出来事が起こったのか、と視線をスマホから離すと
目の前で車と車が接触する寸前で止まるところだった
車両を運転していたであろう男たちが車から降りて、口論を始めている
周囲が騒然となる中、和馬はその場面を見て、「予告状」が現実になった事に驚いた
今まで占いぐらいの気持ちで思っていたけど、あの「予告状」は本物だったらしい
「まさか、こんな形で予告状が当たるとはな」
・
光は和馬との待ち合わせ場所に向かっている最中に、車の運転手同士の喧嘩現場を目撃した
周りの人々はその様子を白い目で見ている
いい年したおっさんが道路の真ん中で言い争いなんてなー
そんなことを思い、横目でその場を通り過ぎようとした時、和馬の姿が目に入った
彼はどこか一人冷静に見守っているように見え、その様子が光には少し印象的だった
「和馬!お前もちょうど待ち合わせ場所に向かってたんだな!!」
「…いや、ただの偶然だよ」
そういった和馬は隣にいるはずなのに、光から遠いところにいるみたいで
彼は和馬が得体の知れない何かのように見えてしまった
・
次の日、予告状には
『午後3時、あなたが誰かを助けることになる』
と書かれていた
午後3時といえば、部活に行くために学校に向かっている時間帯だ
「母さーん、部活行ってくる。」
「行ってらっしゃい、車には気をつけるのよ。」
母に手を振ると、和馬は部活に行くため学校へと足を進めた
・
午後3時、和馬は駅の構内で困っている若い女性を見かけた
彼女は何かを探しているのか、足元を重点的に見ながら辺りを彷徨いている
和馬は女性を見て見ぬふりをしようとしたその時
視界の隅に何かが落ちているのが見えた
落ちているものの正体を探るために近づくと、その正体は緑色のがま口財布であった
和馬はこの財布を見た時に直感的にあの女性が持ち主であると感じた
「すみません、この財布って、貴女のですか?」
・
駅で財布を探していた彼女は、困惑と不安に押しつぶされそうだった
かれこれ探し始めて10分ほど経つが、全く見つからない
もう諦めた方がいいのだろうかと思い始めた時
突然、頭上から優しい声が聞こえた
「すみません、この財布って、貴女のですか?」
声の正体は高校生ぐらいの男の子だった
手に持っているのは自身のがま口財布
「あ、わたしのです!よかった、見つかったぁ…!」
「やっぱりそうでしたか」
「本当に助かりました、ありがとうございます。」
彼女は目に涙を浮かべながら彼の優しさに心からの感謝を伝えた
「どういたしまして、困っている人を見過ごすわけにはいかないから。」
少年はそう微笑みながら言い残すと、颯爽とその場を去っていった
その後ろ姿を見ながら、彼女は自分の胸が高鳴るのを感じた
・
学校へ向かうために乗っている電車の中で和馬は先ほどの出来事を思い返していた
財布を取り戻した女性からの感謝の言葉とその表情に心が温まったのを感じる
誇らしいことをした気持ちになったが、その直後に再び予告状の内容が現実となることに対する不安がよぎった
この予告状が、次は何を告げるのか
学校に着く頃には和馬の心の中は「予告状」による不安で溢れていた
・
数日後
遅刻しそうになった和馬は眠い目を擦りながらも郵便受けの中身を確認した
中にはいつもと変わらず「予告状」が入っている
いつもはすぐに封を開けるのだが、遅刻するわけにはいかなかった和馬は「予告状」を学校から帰ってきてから開けることにした
ここ最近の「予告状」の内容はまた以前のように天気の予報や和馬には関係がない些細なことになっていたのだ
まぁ今すぐに読まなくても大したこと、書いてないもんな
そう思い郵便受けから出した「予告状」を和馬は上着のポケットに突っ込んだ
・
学校が終わり、家に帰ってきた和馬
着ていた上着を部屋で脱ぎ捨てた時、朝ポケットに入れた「予告状」がそのままになっていたことに気づいた
どうせ今日の天気は晴れです、ぐらいしか書いてないんだろうな
そんなふうに思いながら封を切る
しかし、「予告状」を見た和馬は表情を一変させ急いで家を飛び出した
・
今晩、光は親友の和馬とカフェで会う約束をしていた
カフェの中は暖かい灯りで包まれ、心地よい音楽が流れている
しばらくして、息を荒くした和馬がカフェの前へとやってきた
「お、和馬〜。なんだ、走ってきたのか?」
いつもの調子で和馬に話しかけたが、すぐさま彼の様子がいつもとは少し違うことを感じた
「…とりあえず、店の中入るか。」
店員さんに席に通してもらうなり、どこか遠くを見つめるような表情をしながら
「最近、なんか不安なことがあってさ…」
と和馬は話を切り出した
「何か悩んでいるのか?」
「うん、ちょっと。」
「何でも話してくれ。お前のことを心配してるんだよ。」
彼は何かを抱え込んでいる
そう感じた光は和馬に話すように促す
しかし、和馬は悩みを打ち明けてくれることはなく、大丈夫とだけ言い
結局光は彼の悩みを聞くことはできなかった
・
カフェでの会話が終わり、和馬が帰ろうとしたその時
急に光が胸を抑え、突然倒れてしまった
「光!大丈夫か!?」
突然の出来事に焦る和馬は光の名前を叫びながら、すぐに救急車を呼んだ
救急隊が到着するまでの間、和馬は彼の側に付き添い続けた
しかし、光は倒れてから救急車が来るまでの間、和馬の言葉に反応することは無く、病院に運ばれた後も意識を取り戻すことなく、そのまま亡くなってしまった
どうしてこんなことになってしまったのか
和馬は呆然とした
光が倒れたあの時、彼の姿を見つめながら、何もできない自分の無力さを感じた
思い当たることとしたら一つ
あの「予告状」に書かれていたことだ
『今晩、あなたが最も大切な人を失う』
「あの「予告状」が、避けられることのできない運命なのだとしたら…」
そう呟きながら、和馬は心の中で大切な人を失った喪失感に打ちひしがれていた
・
光の死から数週間が経った頃、和馬は予告状が避けられない運命であることを受け入れつつあった
「未来に対してどう向き合うべきかを考え続けている。」
彼は「予告状」の内容に淡々と対処しながらも、その試練が自分自身の成長につながると信じることで、今日も心を保っている
幕
郵便受けから毎日届く「予告状」は、運命の通告
「この先に何が待っているのか、未来なんて決められているかも知れない。」
「でも俺は、絶対にその未来をいつか変えてやる」
最後の「予告状」が届くその日まで
完
最後の予告状 @Taoguo2856
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