2話
あの最悪の日から4年の年月が経って、俺は高校生になった。
【異能力】という物が世界に現れたあの日から世界は大きく変化した。
言語が統一化されたことによって国境は取り払われて、世界は一つに纏まった
軍隊は解散し、世界は平和になったように思えた。
.....でも違った。強力な【異能力】を持つ者がこれまで国を治めてきた者を殺してトップに立った。下剋上が出来てしまった、当然世界は混乱を極めた。毎日、誰かが死ぬ。道には死体が並べられ、昼夜問わず誰かの悲鳴が聞こえてくる。俺の周りの人も死んだ....けど周りに気を配る余裕なんてなかった。
死が日常化してしまっていた。人の死を見ない日なんて無かった。
ただ、その混乱は長くは続かなかった。
異能力統治組織、通称「花」という組織が2年で混乱を収めたのだ。
「花」は元々国を収める地位にいて強力な異能力に目覚めた者達が協力して立ち上げた組織で、世界各国にいる正義の心を持った異能力者を集めて、暴れてる異能力者をどんどん鎮圧していった。でも、それは混乱を収めるのに一役買っただけで、直接的な理由じゃない。「花」が2年で混乱を収められた理由....それは腕輪だ。
正式名称は「消失の腕輪」
「花」に所属する科学者が開発したもので、体内にある異能力の原因である花の成分が一定値を超えるのを防げるらしい。
この腕輪は全ての人間に支給された。それによって、一般人の異能力の暴走がなくなり、混乱は3割ほどマシになった。この腕輪は身分を保証する物だ。この腕輪を着けてる者は「花」の庇護対象であり、着けてない者は攻撃対象になる。
この選別によって「花」も動きやすくなって2年で混乱を収めるに至った。
世界は着実に異能力が現れる前の世界に近づきつつあった。
現に俺は高校生になって普通の生活をしている。
駅で電車を待ってる俺の背中をバンッ!!と叩かれた。
叩いた人物の正体は俺の友達の朝日ナタネだ。
「ナタネ....朝から元気だな」
「おうよ!おはようヒカル」
「....おはよう」
「今日は珍しく朝から学校に行くんだな」
「まあね」
俺は普段この時間に学校に行く電車に乗ることはない。
大体毎日昼から行く。先生には事情とを話して許可を貰っている。
「今日はナタネに用事があったから」
「用事?何の用事だ?」
「それは後で話すよ。それより今日はハーレムメンバーいないんだね」
「ハーレムってお前....俺は誰とも付き合わないって言ってるだろう」
「はあー、まあナタネの恋愛事情はどうでも良いけど」
「おい!?」
とは言ってもハーレムメンバーがいなくて良かった。
ナタネの用事はハーレムメンバーがいたらやりにくいからな。
「ナタネ、あの女の子見える?」
「?ああ見えるぞ」
「じゃあ、あの女の子から絶対に目を離さないでね」
「まあ、いいけどさ。なんで?」
「見てれば分かるよ」
そう、見ていたらすぐに気付く....そこから行動に移せるかは別問題だけど。
電車が来るまではナタネと他愛のない話をしていた。
この時間帯、女の子それも容姿端麗なJKが電車を待ってるとゴミが現れる。
ほら、今日も平和ボケした社会のゴミが来た。
「おいヒカル、あれって....」
「うん。痴漢だね」
「っ、今すぐ止めたいけど決定的な証拠を掴むまでは....」
「大丈夫。証拠ならもうあるよ」
そう言って俺はナタネにスマホ画面を見せた。
「これって、確かに触ってる」
「後はナタネが犯人を糾弾するだけ、証拠は俺が出すよ」
「いや、駄目だ」
「なんで?」
「あのオジサンは今日は痴漢してない。俺が糾弾するのは筋違いだよ」
そうだよな。お前はそういう奴だったよ。
「全く、犯罪者に対して筋を通す義務は無いだろうに」
「ハハッ、難儀な性格でね」
「知ってるよ。でも今は後ろに並んでるだけだけど、あの男は電車に乗ってすぐ痴漢する。なるべく女の子から離れないでね」
「ああ!任せろ!!」
そんな話をしてる間に電車が来て、俺達が電車に乗って電車が発車した瞬間....男は手を出した。
「発情期かよ....」
取り敢えず無音カメラで証拠の写真撮って....ナタネもうオジサンに説教してる。
その後、俺達は次の駅で降りて駅員に状況を説明し、オジサンは無事連行された。
女の子はかなり前から痴漢被害に悩んでいたらしく、その悩みを解決してくれたナタネにとても感謝していた。あっ、連絡先交換してる。メンバー増員だな....
無事、痴漢被害を解決した俺達は遅延証明書的なやつを貰うために駅のベンチで時間を潰していた。
「なあヒカル。一つ聞いて良い?」
「良いよ」
「何でヒカルが解決しなかったんだ?証拠も持ってたしわざわざ俺に頼まなくても良かっただろう」
「そりゃあ、女の子もイケメンに助けてもらった方が良いだろう?」
「なっ!!!」
「冗談だよ。理由はさ、俺じゃあ抑止力にならないからだ。俺が注意した所であの男は時間が経てばまた痴漢する。そもそも俺は普段さっきの時間の電車に乗らない。でもお前は違う。お前は顔も良いし何より目立つ、お前がいるだけで痴漢の抑止力になるんだよ」
「そうかな?」
「そうだよ。それに....俺の手は人を裁けるほど綺麗な手じゃないから」
人を殺した。そんな奴に他人を裁く権利はない。
あっ、電車来た。
「じゃ、俺はもう行くわ」
「え?遅延証明書的なやつは?」
「いらない。どうせ昼から行くし」
「は?」
「んじゃ、また後で」
「え、いや、ちょっと待てよ....おいヒカル」
後ろで混乱するナタネをおいて俺は学校とは逆方向へ向かう電車に乗る。
やってる事はクズだな。とはいえ、あの女の子もナタネと2人きりになりたいだろうし、邪魔者はさっさと消えるにかぎる。
いつからこんな性格になったんだろうな....昔は純粋だったのに。
ぼんやりと外の景色を眺めていたら目的の駅に着いた。
[東京中央病院前駅]
そこは、俺が殺した男の母親が入院している病院だった。
「花」の活動によって世界が落ち着き出して俺がしたことは2つ。
1つは父さんと母さんの葬式。
もう1つは俺が殺した男の母、舞さんへの謝罪だった。
どんな理由があれ俺が舞さんの息子を殺したのは事実。
だから俺は罵倒の言葉や恨みの言葉を覚悟で舞さんに直接謝罪しに会いに行った。
でも、舞さんから出た言葉は"ごめんなさい"だった。
舞さんは俺を責めるどころか、逆に俺に謝罪した。
息子が本当に申し訳ないことをした、と。
俺に謝罪した事で気が抜けたのか、息子を失った悲しみからか、舞さんは体調を崩して入院した。俺は舞さんの希望もあって何日かに一度見舞いに行っていた。
最早この病院の常連とかした俺は馴染も看護師さんに舞さんの病室に案内された。
今日も今日とて、舞さんは病室で小説を読んでいた。
「ごめんねヒカル君。急に来てって無理言って」
「大丈夫ですよ。はい、これ新しい小説です。」
舞さんは小説を読むのが好きで、見舞いの際に小説を持っていったらいつも喜んでくれる。基本的にどんなジャンルでも舞さんは読む。
「ありがとう。でも小説はもういらないの。今日呼んだのもその事を伝える為なの」
「?それってどういう意味....」
「私はね、あと数日の生命なの」
は?今なんて......あと数日の生命?誰が?..........舞さんが?
「そんなの俺、聞いてない」
「私が黙っていてって頼んだの。直接ヒカル君に言いたかったから」
「そんな」
「悲しそうな顔しないで、貴方の憎むべき相手が死ぬだけよ」
なんで、
「なんで貴方はそんな事が言えるんだ」
「え?」
「貴方の前に居るのは息子の仇だ。死ぬ前くらい恨みの言葉を吐けよ。会った時からそうだ。貴方は一言も俺に対する恨み言を言わなかった。これじゃあ、貴方のことを恨んでた俺が馬鹿みたいじゃないか!!!」
最悪だ。どれだけクズなんだ俺は、舞さんは何も悪くないのに。
俺がいつまで経っても子供だから。
「すみません。失言でした、忘れてください」
そう謝って舞さんを見ると、舞さんは俺を抱きしめた。
「!?」
「ごめんなさい。。私の言動が貴方を苦しめてたのね。でも、もう良いの。前に進んでいいの。私達に縛られないで」
俺は舞さんの拘束をゆっくり解いた。
「駄目ですよ。人殺しに優しい言葉をかけちゃ。縛られてるとかじゃない。俺は背負わなくちゃいけないんですよ、人殺しという罪を、死ぬまで一生」
「....」
「だから、死ぬ前くらい正直になってください。どんな言葉も受け入れます」
「それは私の言葉を真剣に聞いてくれるってこと?」
「はい」
「そっか。ありがとう」
そう言って舞さんは話し始めた。
「人はさ、生きてると必ず辛いことや悲しいことにぶつかるの。時には、道を間違えることだってある。それはもう数え切れないくらいね。でもね、それらを全て覚えていたら精神が壊れちゃう。だから人は忘れることを覚えたの。人はさ、忘れることで前に進むことが出来ると思うんだよね。」
「....」
「だって私がそうだったから。最初は君の事が憎かった。でもね、毎日見舞いに来てくれた君を見て、私は憎しみなんて忘れちゃったの。今思えば、あの時私は前に進んだんだと思うの」
例え舞さんが憎しみを忘れても俺が人殺しっていう事実は変わらない。
それに忘れちゃ駄目だろ。
「ふふっ、忘れちゃ駄目って顔してるね。」
「ええ」
「君が私の言葉だけで納得するとは思ってないの。だから少しズルをするわ」
そう言うと舞さんは消失の腕輪を外した。
「な!?」
「大丈夫。ちゃんと許可は取ってるわ」
「いや、舞さん異能力発現してないんじゃ.......」
「してたの。たの。内緒にしてたけど。ヒカル君、手を出して」
「はい........」
舞さんは俺の手に花びらをのせた
「これは?」
「私の花はさ、月見草。花言葉は【自由】」
「っ!!!」
「もう良いの。自由になって、ヒカル君」
俺は...............ずっと苦しかった。
毎日後悔してた。
俺は、ずっと背負わなきゃって................でも
「もう............良いの?」
「ええ。」
「そっか............俺は前に進んで良いんだ。もう」
「ヒカル君、私にこんな事を言われても嬉しくないと思うけどさ、聞いててくれない?私の最後の言葉」
「はい」
『行ってらっしゃい』
『...........................................................行ってきます』
異能力は花開く 〜大切な人を失う代わりに異能力を手に入れた俺は後悔しないように生きていきます〜 清涼水90 @seiryousui90
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