あなたの夢は

 崖の上に私がいました。


「あなたの夢はなに?」


『……。』


 私は、遠い過去を見つめるように涙を流していました。


「なぜ泣いているの?」


『夢の話をしようとすると涙が出るようになってしまったから。』


「そう。」


 私の背を見つめながら、わたしはただ待っていました。


『……あなたは誰?』


「わたしは、少し先のあなたよ。」


 フフッ、と笑った私は、わたしのことを見ると驚いた顔をしました。そして、縋るように聞いてきました。


『……あなたの夢はなに?』


「わたしの夢は……。」


 わたしは、少し嘘をつくことにしました。


「思い通りにいかないなって笑いながら終わることよ。」


『……そう。』


 私は、少し目を閉じた後、苦虫を噛みつぶしたような顔で言いました。


『……私は、まだ終わりたくない。』


「なら、そうしたらいいわ。」


『でも、生きていたくないの。』


「なら、生きなければいいじゃない。」


『……。』


「全てを終わらせなくとも、生きないことはできるのよ。命があればそれでいいじゃない。」


『……それで、いいの?』


「いいのよ。」


『……でも、そんな世界知らない。』


「いいじゃない。夢だったでしょ、異世界にいくの。」


『……そうね。』


 私は、笑ってくれました。


***


 夢の世界のような夕暮れの中、わたしたちは歩いていました。


『ねぇ。』


「なに?」


『さっきあなたが言った夢。あれ、噓でしょ?』


「なんでそう思うの?」


『だって今、あなた泣いてるもの。』


「……。」


『私の為に勇気を出してくれてありがとうね、わたし。』


 そう言って、私はわたしの頭を撫でました。


***


 もう一人のわたしが向かっていった夕日は、まるでわたしの想いを写すかのように雄大に沈んでいきました。


「本当、思い通りにいかないものね。」


 そして、わたしは流れていきました。

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夢流れの少女 @idakisime

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