第7話


夏海の場合3


私は高校の時はそのままズルズルと雅史と一緒にいるようになった。


もちろん、私は翔太を誘うのだが、翔太は私と雅史を気遣って(私にとってはいらない気遣いなんだけど)私と雅史を2人きりにさせたがるのだ。


でも、翔太も一緒に遊ぶこともあるので、その時は、私が翔太を構うものだから、雅史の目に嫉妬の影が見えるのを私は密かに悦ぶ。


そして翔太を入れて3人で遊んだ翌日には嫉妬に身を焦がした雅史が私と仲を深めようとしてくるのを私がさり気なく躱しながらも、逆に私から雅史に触れたりすることで、雅史の虚栄心を煽って、周囲に自慢する態度を見て、私は雅史に幻滅しながらも、雅史の態度や視線から得られる選ばれたという

悦びに浸るのだ。


高校の時から分かっていたことだけど、卒業後については翔太や私は大学に進学を希望していて、雅史は親が経営する酒屋を継ぐために親と一緒に働くことを選んでいた。


私は密かに翔太の希望する大学を聞いていて、私は夜中や雅史と遊ばない日は勉強をしていた。


もちろん、テスト前なんかは3人で勉強したりしていたので、翔太には敵わないかもしれないけど、私も学力はあったので、テストの点は悪くなかった。


雅史は進学を希望していないし、親の経営する酒屋に就職するから勉強は手を抜いていて、いつも平均点そこそこだった。


私は雅史のそんなところも気に入らないのだけど、雅史はお構いなしにテスト前でも遊びに誘ってくるので、私はますます雅史に幻滅してくるのだ。


そして、私は高校卒業の時、雅史とは別れることにした。

そのためには、翔太と一緒に大学に合格しないとね。私は受験期間に入る前には翔太と一緒に勉強したり、年始には3人で神社にお参りに行き、翔太と自分が合格できるようにと絵馬に書いて奉納したりすると、雅史の目が嫉妬に狂うのでそこで受験のストレスを発散したりしていた。


私の中では雅史と付き合ってはいないのだけど、雅史があまりに未練たらしく、大学に来られても困るので、卒業前に雅史とは幼馴染の関係に戻ることを告げることにした。


私はある土曜日に適当な喫茶店に雅史を呼び出して、幼馴染の関係に戻ることを告げる。


「雅史、貴方からの告白を断った後、貴方が2人で出かけることを要求してきたから、ここまで付き合ってきたけど、雅史とはもう無理だよ。幼馴染の関係に戻ろう。」


私がそう告げると雅史は少し悔しそうな顔をしたけど、何故かその後、スッキリとした顔になって、


「分かった。夏海の心の中に俺が入る余地はないんだな。ありがとう。」


そう言って頭を下げる雅史を見ていると私はある考えが頭に浮かんできた。


私がこのまま、雅史と元の幼馴染の関係に戻った後、翔太に告白したら、私は翔太と恋人になれるのだろうか?

翔太のことだ、雅史に気を使って、私とは付き合ってくれないかもしれない。


そして、翔太も大学に進学する、そこで素敵な女性に会うかもしれない。そうすれば、私とは幼馴染の関係のままだ。


私はこの大事な高校の時間を、翔太との仲を深めることができる時間を無駄に過ごしてきたことを悟ってしまった。


すると目の前にいる雅史が憎らしくなってきた。

私はこいつのせいで大事な時間を大切な人との関係を深める時間を無為に過ごしてきてしまったのだ。


そう思っていると、雅史が恐るべきことを言ってきた。


「夏海・・・、最後の思い出に、一緒に・・その・・、ホテルに行ってくれないか?」


私は驚いて雅史を見る。


「何を言っているの?バカじゃない!その・・ホテルなんて行くわけないじゃない。」


私は自分の声が他の席の人に聞こえないように声を小さくする。


雅史はまた私をあの嫉妬に狂った目をして、私に告げる。


「バカなことを言っているのは分かっている。だけど、俺は本気だ。夏海を忘れるために1回で良い。俺と一緒にホテルに行ってくれ。そうすれば、俺はお前を諦める。翔太にもお前との関係は言わない。でも、このまま別れるというなら、翔太には正直にお前との関係を話す。そして俺がお前のことを好きなことも話す。」


私は雅史の嫉妬に狂った目を見つめてながら雅史の言ったことを考える。


翔太のことだから、私と雅史との今までの関係を聞いても軽蔑することはないかもしれない。


だけど、私と雅史との今までよ関係や雅史の私への気持ちを聞いた後、私が翔太に告白しても、私を受け入れてくれるとは限らない・・。


そうすれば、私は幼馴染のままで、翔太に・・・、大好きな人に別の女が、寄り添い歩く姿を大学で見るかもしれないと思うと、目の前が暗くなる。


私は自分の顔が歪むのが分かる。

雅史・・・、やってくれるわね。


私は唇を噛みながら考えるが、良い考えは何も浮かばない。


「駄目か・・・、分かった。これで終わりだな。」


雅史がそう言って、立ち上がろうとした時、私は口を開いた。


「・・・分かった・・・、だけど、1回だけよ・・・、そして、ちゃんと約束して、口先だけではなく、録音して。元の幼馴染に関係は戻して、私と翔太との関係を邪魔しないこと。後、避妊もしてよ。もし、変なことになったら、一生恨むからね。」



私は、お互いにこのことは誰にも話さないこと。

急に離れたら翔太が勘付くかもしれないから元の幼馴染の関係に戻ること。

私が翔太と付き合うことに反対しないこと。

人に話したら、お互いの親に話して法的措置も辞さないこと。

それらを録音したり紙に書いて雅史に署名してもらいその様子を録画もした。私は淡々とこの行為を行う。

この後、雅史とすることが怖かったからだ。その事を忘れるために敢えて淡々としていたのだけど、気付いたら、私は小刻みに震えていた。


そうして、私は雅史に連れられるままにホテルに入る。


私は雅史に必要以上に触れられるのが、嫌がって、ほとんど触らせなかったけど、雅史は気にすることなく興奮していた。


避妊具は私も確認して、グロテスクな雅史の股間のそれにしっかりと付けさせる。


そして前戯もそこそこに雅史が私に覆いかぶさるように近づき、私の股間に鈍い痛みがはしる。


あぁ、私は初めてを好きな人ではなくて・・・。

幼馴染とはいえ、好きでもないこんな奴に・・・。


私の悪夢のような初めてが終わった。

ごめんね。翔太・・・、だけど、これで私は翔太に向かうことができる。

待っていてね。

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