第5話
夏海の場合
私が幼馴染だと思い浮かべるのは、相模原翔太と川崎雅史の2人だ。
彼らとは小さな頃に知り合い、いつも一緒に遊んでいた。
雅史は、周りの友達より、身体が大きく、自分の意思をはっきりと言うタイプで、いつもグループやクラスでは、リーダーみたいな扱いをされていた。
雅史自身もいつもリーダーみたいな振る舞いをしていて、よく周りの人を引き連れて遊んだり、イタズラをしたりしていた。
雅史は小学校の頃から、カッコいいというよりはワイルドな感じでスポーツ全般得意だったから、運動会なんかでは頼りにされていたし、困ったことがあったら、積極的に人を助けたりしていた。
翔太はどちらかといえば、大人しいタイプで、一人でいることが多いが、根暗というわけではなく、話せば普通に対応してくれるし、時には冗談も言ったりする。
見た目は凄い美形というわけではないけど、端正な感じで、周りの女子達にも受けが良かった。
翔太も積極的にではないけど、困った人を見ると助けたり、相談に乗ったりしていた。
彼と話すことで悩みごとなんかも忘れたり、ちょっとしたアドバイスで解決することも何回かあった。
私は一人で翔太に話しかけるのは恥ずかしかったから、実家が近くだった雅史と一緒になって翔太に話しかけて、かけっこやかくれんぼに誘ったりしていた。
小学校の高学年になると、女子も男子も周りのいいなと思っている子にひっそりと恋心を抱くようになり、私は悩みや勉強のアドバイスをしてくれる翔太に心惹かれるようになっていた。
だけど、大人しい翔太よりも、活発な雅史と遊んでいると目立つのか、同じクラスの同級生からは雅史とカップルなんて言われはじめてしまった。
私は、
「雅史とは家が近いだけの幼馴染で、ただの友達だよ。」
って、否定していたけど、否定をすればするほど、周りの同級生は私が照れていると思って、嘘をついていると思われていたのよね。
雅史も私が近くにいる時は、周りの同級生に否定しているから大丈夫だと思ったら、どうやら、陰で仲の良い友達には私と付き合いたいと言っていたらしい。
私は2面性のある雅史の態度に少しモヤモヤしていたので、ちょっと雅史が嫌いになった。
翔太とは別のクラスだったし、翔太の周りには、私と雅史が付き合っているなんて聞こえていないから、彼には誤解をされていないからそこだけは安心だった。
中学校に入学すると翔太や雅史と同じクラスになり、小学生の時のように周りから、囃し立てられたりはしなかったけど(これは多分、自分達が異性と付き合うようになった時に、自分自身が囃し立てられたくないからだと思う。)、
表にでない代わりに裏で密かに誰かと誰かが付き合っているとか、カップルの噂が流れるようになり、その噂の整合性はともかく、噂が広まるのは早かった。
私と雅史が付き合っているという噂が広まるのも早かった。
それはそうだ。
クラスでも目立つ雅史とほとんどいつも一緒にいるのだから。
雅史は満更でもない顔をしているけど、私は雅史に彼氏面されるのは嫌なので、人に聞かれるたびに、
「私と雅史は単なる幼馴染だよ。雅史以外にも別のクラスにも幼馴染がいるから、いつも二人きりじゃないからね!」
なんて言って、はっきりと噂を否定していたけど、否定をすればするほど、周りの同級生は私が照れているだけだと勘違いしていた。
そのせいで、私は恋とか愛とかいうものにうんざりし始めた。
私は心の中では
皆、私達はまだ中学生だよ!
大多数の中学生は、親に頼って生きているのに、恋とか愛とか言っているのはどうなの?!
自分の面倒すらみれないのに他人を愛するとかできるの?!
そう言っていた。
翔太は周りの同級生とは違って、冷静で、恋とか愛には興味はあるけど、それに囚われることなく、淡々と中学校生活を送っていた。
私は彼のマイペースで飄々とした生き方にも憧れを抱いている。
ある時、私は雅史に放課後、呼び出されそこで告白をされた。
私は雅史とは付き合う気はなかったので、
「ごめん。雅史はどう頑張っても、幼馴染としか思えない。だから恋人にはなれないよ。」
と、告白を断った。
すると、雅史が、
「夏海が好きなのは翔太なのか?」
と聞かれた。
私は雅史のその真っ直ぐな問いかけに少し躊躇してしまった。
私は中学生の自分には恋愛は早いと思っているのだ。
だから、私のこの翔太に惹かれる思いは、単なる憧れなのか、恋なのかまだ私自身にすら分からないのだ。
でも、私にはその問いかけをしていた時の雅史の目が嫉妬に狂っているように見えた。
私が雅史の言葉を肯定すると嫉妬に狂った雅史が、翔太に何をするか分からない。
もしかしたら、虐めとかに走るかもしれないと思い、
「確かに、翔太には心惹かれているけど違うの。まだ恋とか彼氏とか中学生には早いと思う。だから、今まで通り、友達でいようよ。」
とやんわりと雅史の告白を受け入れることなく、自分の考えを少しだけ話して、今までの関係を続けようとした。すると雅史は
「じゃあ、恋人じゃなくてもいいから、友達よりもう少し、親しい関係になってくれないか?二人きりでどこかに出かけたりしないか?」
と言ってきた。
私は雅史にしつこい要望に、
「何でそんなことをしなくてはならないの?私はあなたと幼馴染以上になるつもりはないよ?」
少し、突き放した感じで言ってみた。
すると雅史は、
「確かにそうだけど、俺にも希望を持たせてくれないか?将来、高校生や大人になってから、夏海の気が変わって俺と付き合ってくれるかもしれないだろ?」
雅史は縋るように私を見てきた。
その目に私は少しだけ・・・、ほんの少しだけ・・・、優越感にも似た何かを感じる。
いや、多分、それは優越感に違いない。
自分が人を選ぶという行為に、中学生の幼い私は優越感を抱いたのだった。
私は優越感を得たことで気が大きくなったのか、雅史の希望を面白く感じるようになったので、
「わかった。だけど、今は付き合っているわけではないから、手を繋いだりとか恋人的なことはしないからね。」
私の言葉に雅史は頷くが、彼の目は欲望に満ちているように見えた。
その目を見ると、私は与える者、選ぶ者としての優越感を抱く。
雅史の悦びを私が彼を選ぶことで操作できるのだ。
そして、私と雅史は休みの日に密かに2人で出かけることが多くなった。
翔太は気付いているのだろうか?
クラスが違うのだ。
彼は気付いてはいないかもしれない。
しかし、彼はおっとりしているように見えるが小さな頃から観察眼が鋭い。
彼は小学生の頃から、人の言葉や態度から、嘘や隠し事を見抜くことが多かった。
もっとも彼は大人しくて、おっとりしていたから、人の嘘や隠し事を見破っても公言したり、追求することはなかった。
翔太は、今回も私達の行動の変化に気付いて、私達二人が付き合っていると思っているだろう。
そして、いつもどおり、誰にも言っていないはずだ。
私は家で翔太と一緒撮った写真を見ながら、写真の中の翔太に話しかける。
大丈夫だよ。
翔太・・・、私が心、惹かれているのはあなただけだから、心配しなくてもいいからね。
今はまだ、身体は大きいけど、心は幼い雅史の嫉妬の牙が貴方に向かないように抑えているだけだからね。
だけど、雅史のあの目、
そう・・・、私は翔太を守るためとはいえ、あの雅史の目に浮かぶ嫉妬や欲望を見ると、選ぶ者、与える者としての優越感に浸り、一人静かに昏く悦ぶのだった。
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