第3話


土曜日の朝、夏海に週末の予定の確認をすると


「土曜と日曜の日中は月曜の会議の準備をするために、職場に行くからこの土・日は夕食を一緒に食べない?」


と連絡が帰ってきた。

僕も昨日は少し、お酒を飲み過ぎたからちょうど良いと思って、


「了解、仕事が終わりそうになったら教えて、何か食べたい物はある?何処かの店を予約しておこうと思って。」


と返信をした。

しばらく待ってもメッセージアプリには既読は付かず、もう職場に入ったのかなと思った。


僕も、まだ朝だし、急ぐことでもないな。

なんて思っていたので、スマホを放置し、痛む頭を治すために、もう一度、眠ろうと思った。


思っていたより、お酒が残っていたのだろう。

僕は昼過ぎに目が覚め、喉の渇きに気付いたので、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出し、コップに入れてゆっくりと飲む。


しばらくして、夏海の返信を見なきゃと思い、放置していたスマホを起動すると、僕の送ったメッセージにはまだ既読が付いていなかった。


「ありゃ、これは夏海の職場は今、修羅場っているのかな?」


夏海の仕事は化粧品の広報ということで、華やかな世界だが、結果にはかなりの厳しさを求められている。


数字がかなりの影響を持っていて、販売数、SNSでのイイねの数、PRを依頼したインフルエンサーのフォロワー数、CMに起用された芸能人の好感度ランキング等々、僕なんかじゃ分からない世界の情報で、売り上げを競い合う話をしているのだから、大変だなと思う。


僕みたいな素人だと人気の女性芸能人がCMに出れはOKだと思いがちだけど、必ずしもそうではないらしいからね。


さてさて、夏海の性格だと忙しい時にしつこく連絡するのは、嫌がるので、ここは夕方頃に再度連絡をして、職場の近くにあるコーヒーショップで待ち合わせをするのが良いなと思ったので、


「夕方頃、夏海の職場の近くのいつもの店で待っているよ。夕食は予約は取らないで、行き当たりばったりで気になる店に入ろう。」


と、メッセージを送った。

この内容であれば、夏海が頭を悩ませる事はないだろう。


さて、これから夕方まで暇になったので、僕は久しぶりに身体でも動かそうかなと思い、ランニングウェアに着替え、夏海との待ち合わせ時間に遅れないように、少し軽めに、お気に入りのランニングコースでも走ることにした。


そういえば、ランニングコースの近くには雅史の実家である酒屋も、近くにあるので、久しぶりに顔を出して見ようかなと思い。

そちらに足を向ける。


恰好からして、お酒を買うような状況でもないので、店を遠目に眺めるだけにするかと思い、雅史の実家である酒屋の前を通ると、開店はしているみたいだった。


店は開けているが、雅史は配達に出ているかもしれないので、僕は店に入ることなく通り過ぎる。


すると、反対方向から、雅史の彼女である下北さんが歩いてくるのが見えた。


僕は少し前からスピードを緩めて、会釈をして、


「こんにちは。雅史の友人の相模原です。昨日はありがとうございました。後、僕は少しお酒を飲み過ぎたみたいで醜態をさらしてすみませんでした。」


と、一言謝る。

すると、下北さんも頭を下げて、


「こちらこそ、お恥ずかしいところをお見せしてすみません。私はあまりお酒が飲めないのですが、酒屋を経営される雅史さんの前で、お酒を飲めないと言うのはどうかなと思って、雅史さんには事前に私がお酒をあまり飲めない事はお伝えしていたのですが、お二人に久しぶりに会えたのが、嬉しかったのか、雅史さんに勧められるままにお酒を頂いてしまったので私も醜態をお見せしてすみませんでした。」


と言って頭を下げてくる。

僕はお互い、あまりお酒が飲めないので、酒宴では苦労しますねなんて言いあっていると、下北さんが、


「今日は夏海さんとはデートされないのですか?」


と聞いてきたので、彼女が忙しいことと夕方から食事でもしようかと話しをしていることを伝えた。


「そうなんですね。私たちも雅史さんが今日の昼過ぎまでは仕事なので、夕方から食事でも、なんて言っていたんです。でも、その前に昨日の事、もう一度、雅史さんに謝っておこうと思って。」


そう言って、下北さんが恥ずかしそうに微笑む。


僕はランニングで汗もかいているし、これ以上は引き止めても失礼だなと思い、


「そうなんですね。楽しんできて下さい。雅史がまた色々企画するみたいなので、その時はよろしくお願いします。」


と言うと、下北さんも、


「はい、その時はよろしくお願いします。」


と言ってきたので、お互いに会釈をして別れる。


僕はそのままランニングコースを走り終え、シャワーを浴びて、汗を流すと、夏海に送ったメッセージは既読が付いていて、


「ありがとう。助かる。」


という言葉とともに、猫が手を合わせて頭を下げるスタンプが送られていた。


僕はシャワーから上がって、部屋着から、外出用の服を着て、少し早めに夏海の職場近くのコーヒーショップに向かう。


僕が待ち合わせ場所のコーヒーショップに着くと、夏海が既に中で僕を待っていた。


「ごめん。もう仕事終わっていたんだ。待たせたかな?」


僕が謝ると、夏海は頭を振っても


「忙しかったのは昼過ぎまでで、そこからは、土曜だし早く帰ろうってことになってね。明日も出てこなくて大丈夫になったから、明日はデートできるよ!」


なんて言って夏海はニシシと笑った。そういえば、僕は夏海のこの笑い方、懐かしいなと思った。


この前、夏海に雅史とのダブルデートか食事会の誘いがあったと伝えた時に久しぶりにこの笑い方を見た。


夏海のこの笑い方は雅史を含めて3人でよく遊んでいた時に僕が、


「雅史と夏海は似たような笑い方をするね。まるで兄妹みたいだな。」


なんて言っていた笑い方だ。

僕は夏海の笑顔を見ながら、今日は何を食べようかなと頭の中で計画を立て始めた。

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