第11話 変態さんが通る

ハンゲルがビュフェスに遭遇する少し前。

二人は敵の充満する平野を突っ走り、ビュフェスの本陣を目指していた。


本陣に近づくほど敵兵も増えていくが、普通の攻撃が範囲攻撃になっているこの男には関係ない。


「セイヤッ!」


ドーン!


「ソイヤッ!」


チュドーン!


明らかに剣戟とは違う音が出ている。

一撃で敵集団が瓦解する技を連発し続けているカミズミに対して、ハンゲルも懸命に敵の勢いを削ぎ落としていた。


三つの矢を矢筒から取り出すと、間髪入れずに三連射。


三本の矢はそれぞれ別の馬賊どもの心臓を射貫く。


ハンゲルの弓術はフットウントのお家芸とも言え、転生後に幼少期から仕込まれていたもの。

今までに幾度も魔獣を射殺してきた経験もあり、弓で生計を立てているフットウントの狩人たちにも一目置かれるほどの腕前である。


バスッ、バスッ、バスッ、とまた敵の胸当てが貫通した。


その正確さもさることながら、その道のプロである狩人たちが絶賛するのはハンゲルの弓の連射能力である。


そもそも、カミズミが使うような長大な和弓とは違い、ハンゲルの用いるロングボウは矢を放つ際に弓を返さないので、より早く矢をつがえる事ができる。

ハンゲルはその特性に目をつけ、密かに速射・連射の技を工夫していた。

その成果として得られたのが「狙わない射」である。


要は腰だめ撃ちだ。


無論欠点もあるが、ハンゲルの創意工夫と努力が上回った。

弓を引ききれずに初速が遅くなってしまうのを加速魔術で補い、命中率は鍛錬で高めた。


三連射のうちの一本は300m先の敵に必ず当たるまで、血の滲むような修練を積んだ。


さらにその上でフットウント王家伝来の必中魔法を重ねている。


ハンゲルはその弓の技術だけでも超人変態としての才能がある。


さりとても、矢数には限りがあり、馬賊はアリのように群がっている。


そのため、ハンゲルは敵の指揮官を優先的に射落としていた。


ビンッ、ビンッ、ビンッ


弓弦の音が鳴るたびに、敵将は馬から落ちていく。


が、カミズミは命に貴賎は無いと言わんばかりに玉石まとめて粉砕している。


粉々になった馬賊の群れをモーセの如く割り入り、ビュフェスの本陣へと進むがそこに立ち塞がったのがそのビュフェスであった。




その一瞬、互いに止まった。



ビュフェスは困惑している。


ハンゲルはビュフェスに見とれている。


両者とも異なる理由ながら足を止めた。


その場の空気が凍りついたかのように動かなくなる。

あまりに衝撃的な出会いであり、どちらも誰何をしようとしない。


その瞬時の印象。


それは後にハンゲルとビュフェスのいずれもが忘れられぬ記念となった。



が、それは後のこと。

取り敢えず、まず言葉を発したのがカミズミ。


「、、、ハンゲル様。」


ハンゲルは、ハッ、と気付くと目の焦点が定まる。


そして改めて、


(綺麗な、いや、"奇"麗なひとだなぁ)


とハンゲルは思う。


白馬に乗るビュフェスの姿は神々しいほどに、、、


艷っぽい。


血みどろになって真赤に染まった龍鱗の鎧と白い髪を見るにつけ、ハンゲルは妄想する。


(純白の神聖さを汚された花嫁、あるいは俗世に塗れた妖精。そんな雰囲気だな。)


それもまたいいな、と幻想の世界にいるハンゲルの顔を見て、ビュフェスは訝しげに尋ねた。


「ハンゲル、、、殿ですね?」


突然の問いに慌てふためく主人の代わりに答えたのはこれまたカミズミである。


「その通り。この方はハンゲル・ディ・エムファント。フットウント王国の皇太子にして、王国軍第四師団の若き師団長でございます。この度はご足労をおかけしているビュフェス様のため、道案内人として参った次第。」


ふむ、とビュフェスは不思議そうな顔をする。


「道案内人として、か。」


流石にこれ以上カミズミに説明して貰うのは不味いと思い、ハンゲルが発言する。


「はい。使節の迎え入れの任はレン・シュタントという者が遂行します。」


ハンゲルは顔一面に貼り付けた笑顔を見せる。


「わたしは案内役ですから、気軽にご相談ください。」


「ふむ、、、では道案内人殿。」


と前置きして言う。


「この馬賊共をどうにかしてくれ。」


「承知しました。」


そういえば戦さ中であった。

元はと言えば、グルール辺境伯の管理不足に端を発している。

フットウント王国としても鎮圧しなければならなかった。


「ここに来る途中、グルール辺境伯軍も見かけましたからそろそろ来るはずです。」


ついで、


「ウルスラさんは"昼"の戦さにはとても強い人ですから、」


コテンパンですよ、とハンゲルが胸を張ろうとしたところで。


「おお、ハンゲル君じゃあないか。」


「なんで居るんですか!!?」


文官や残りの部隊をダン将軍に任せて先行して来たウルスラがビュフェスの横に並んだ。

ウルスラは身長が高いので、小さめサイズなビュフェスと並ぶとなかなかの威厳がある。


「うん、ビュフェス殿にな。お願い事をしていたのだよ。それはさておき、この窮地を突破せねばならん。私の愚息は来てるんだろうな?」


「ええ、それが辺境伯軍のことならマジャルのやつはもうそろそろ。」


「うん、後あれも来てるんだろ?忌々しい酔いどれ娘もな。」


「もちろん。"俺の"第四師団の陰の実力者、"宵の副団長"ですから。」


「ハンゲル君の直の部下とは羨ま、、、けしからんが。」


「嫉妬しなくて大丈夫ですよ〜」


ハンゲルがからかうが、ビュフェスの視線が先程から何故か痛い。


「、、、で、道案内人殿。この後はどのように我々を案内していただけるのでしょうか?」


ことさら丁寧な言葉遣いで質問するビュフェス。


「実は来る途中に指揮官を重点的に狙撃しておいたので、帰りは楽になるはずです。」


「流石だな、ハンゲル君。よし、行こうか。」


ビュフェスの近衛兵団は続々と集まり、そして、突破は難なく成功する。


その頃、終わりを悟った馬賊の長老が有終の美を飾ろうと行動を開始した。


「かの憎きウルスラとの決闘に挑み、この老人最後の手土産を冥土におる一族の者に届けるべし。叶わなければ全軍をもって、首を取る。」


こんな事もあろうかと、この長老の伏兵はレンの進む街道沿いと辺境伯軍の進路上で遅滞戦闘を繰り広げ、合流を遅らせていた。


(後は、老いた儂がどれほど渡り合えるかということじゃがな。)

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魔法飛び交う異世界でもやっぱり竜騎兵は強い説【検証してみた】【この作品に含まれている特定アレルゲン:ありとあらゆる種類の変態】 ななお @naxnao

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