第10話 疾走する変態

前方で合戦が始まっているのに気が付いたハンゲルだが、いくら走らせても歩兵は歩兵なりの速度しかでない。


業を煮やしたハンゲルは決断した。


「レン。俺、行ってくるわ。」


「えぇ~。大将自ら突っ込むなよぉ。」


言葉の割に案外驚いていないレンは長い付き合いなのもあって、ハンゲルがやりたいことが分かっている様子だ。


「大丈夫、大丈夫。俺が強いの知ってるだろ?」


「まあねぇ。」


幼少の頃から幾度となく試合を繰り返してきたレンはハンゲルの怪物じみた強さというのも身に沁みていた。


「生まれてこの方、勝てた試しがないからねぇ。」


「だろ?でもまあ、、、」


一番安心なのはカミズミが居るってことではある、とハンゲルが言うとレンも、違いないね、と言って笑った。


「我孤高の淵に立てり。故に我最強。」


「はいはい、万年ボッチは俺と一緒に殺しに行きましょうね〜。」


「小僧が何を言うてもな。」


クリティカルヒットを食らったカミズミは仕方なく、ハンゲルに従った。


「ハンゲル!」


いつもは酔ってふにゃふにゃなレンが背筋を張って言った。


「お姫様救って来いよ。」


「ああ。」


手を振りながら去るハンゲルを見送る彼女は笑顔の下に複雑な心を隠し込んだ。





「ハンゲル様。」


戦場に近づくにつれて大きくなる馬蹄の音に耳を掻き乱されながら聞くハンゲル。


「今回は全員斬ってよろしいので?」


「構わん。女子どもと逃げる者を除いた全ての勇敢な戦士は斬れ。その方が向こうも納得しよう。」


敵は狩猟遊牧民だ。

狩る事で生き延びてきた彼らは弱肉強食を当たり前に思っている。

カミズミのような生物の頂点を目の前にしては自らが狩られる側だと理解するに違いないとハンゲルは言う。


「では、」


既に顔が見えるほどに近い敵兵へとカミズミが馬をとばす。

そして、例の長刀を投げ抜くと敵の真っ向に刀を振り下ろす。


裂けた。

人間と大地が。


カミズミの斬撃は20mを超えるリーチがある。

4,5人だろうか。

敵兵が一瞬にして馬ごと真っ二つに寸断される。


「転は攻防の極意。大きく回転させれば強力な一撃になり、小さくすれば二撃目を素早く撃ち込める。」


かつて、カミズミはハンゲルにそう教えた。

そして、この斬撃は"小さい"方の回転である。

すなわち、二撃目。


「セイッ!」


またもや敵の騎兵が、敵の部隊が裂ける。


ハンゲルは


「やっぱ、バケモンだな、お前。」


などと呟きながら無人の荒野と化していくカミズミの後ろをただただ追っていった。









その頃ビュフェスは援軍を見て焦った敵を相手に見事な近接防御を見せつけていた。


「三番隊、五番隊が交戦中の敵を側面から突撃。五番隊は後退しながら援護射撃。二番隊は新手を蹴散らせ。」


先程までの遠巻きな攻撃から格闘戦に切り替えた敵は消耗度外視でガンガン突撃を仕掛けてくるのだが、それに対抗したビュフェスの機動戦術によって各個撃破されてしまう。


「ダン将軍を四番隊に入れろ。あいつに本陣の撤収作業をさせる。私は一番隊で援軍が来ているであろう場所を様子見してくる。突破できそうであれば狼煙で知らせるから、その時は文官もろとも駆けさせろ。」


言うやいなや、部隊を率いて強行偵察を出るビュフェスは敵の唐突な短期戦シフトに違和感を抱いていた。


(援軍のあの距離からいって到着には早くとも後半刻程は優にかかると思っていたが、、、ウルスラのところの騎兵がそれほど速いのか?いや、前の戦さではそのようなことは無かった。なんだ?)


このビュフェスの強硬な物見は彼女の違和感を探るためである。


予想がつかないのも無理はない。

自称武の神たるカミズミはこの世界でさえイレギュラーに近い。


とはいえ、この違和感はビュフェスにとって既視感もあるものだ。

それは彼女の父、バートルモ王バーザイト。

この地上界に君臨する古龍を倒す実力は伊達ではない。


人の常識の範疇に無い化け物という意味ではバーザイトも同じであった。

古い昔、古龍討伐の旅に出る前の話であるが、その時にバーザイトが戦場へ出るとそれだけで敵は恐れをなし、突撃をすれば歴戦の勇者さえ恐怖のあまりナニを漏らすと言われていた。



そして、その既視感は現実のものになる。


前方の敵から怒声が聞こえたかと思えば敵部隊を粉砕しながらビュフェスの正面に躍り出た二騎。

そこにはハンゲルとカミズミ、の姿があった。





あとがき


文量は3万字を突破しましたが、第一章で一番盛り上がる「結婚式」は10万字程は書かなければ辿り着かなそうです。

そのため、できる限り物語の骨子のみを書き、肉は後から付け足します。

ご容赦ください。

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