第10話

   

 まるで台風みたいな、風の強い日曜日の出来事だった。

 そんな強風ならば家でおとなしくしていれば良いのに、付き合い始めたばかりの女性とデートの約束をしてしまい、待ち合わせ場所まで急いで向かっていたらしい。

 すると交差点の近くで、ちょうど道路の案内標識が外れて落ちたのが、飛ばされてきて……。

 岡田の後頭部に直撃。即死だったという。


 最初「道路の案内標識」と聞かされてもピンと来なかったが、実際に道路を歩いている途中で同じタイプの案内板を目にすれば、具体的に理解できてハッとする。

 信号機と同じくらいの高さに掲げられている、青くて四角い標識だった。青色の一面に白色で、道路を示すラインや目印となる地名が書き込まれている。

 それを見た瞬間、私は思い出してしまったのだ。タクシーの色について岡田が言っていた「全体的には青色で、白いラインや白い文字がワンポイントで」という言葉を……。

「ああ、なるほど。タクシーと同じ赤色になりながら阿部は死んで、岡田はタクシーと同じ青色によって殺されたのか……」


 もう一人の同乗者である山下くんは、他の一年生たちと一緒にサークルを辞めてしまったので、あのあと話す機会は全くなかったし、今では連絡も取れない。

 だからあのタクシーが山下くんには何色に見えたのか、私にはわからなかった。まだ彼が生きているのか、あるいは既に死んでしまったのか、それすら私は知らない。

 それよりも、私が心配なのは私自身の今後だ。


 あの雨上がりの夕方、自分たちが乗ったタクシーを黄色だと思った私は……。

 一体いったいいつ、どのような死に方をするのだろうか?

 あらかじめ予想して、注意しながら暮らしていけば、その死を回避することも可能なのだろうか?




(「雨上がりの白いタクシー」完)

   

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雨上がりの白いタクシー 烏川 ハル @haru_karasugawa

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