めったに書かない後書
以下の文章は、小説を同人誌にしたときに、後書としてつけたものです。
☆ ☆ ☆
書き終わった小説について「あとがき」を書くのは、あまり好きではありません。何を書いても、うまく書けなかったことへの言い訳になりそうな気がするからです(他の方が書かれたものを読むのは大好きです)。
そういうわけでいつもはつけていませんが、今回に限ってはいささか語っておきたいことがありましたので、珍しく筆をとりました。
『虹の彼方に』は、オーバー・ザ・レインボウシリーズ一作目として書いたものを改稿したものです。マンガで十六ページの長さで描かれたものを、ベースにしています。
これだけの短いページ数ですから、もちろん小説で盛り込んだほどのエピソードもなく、描きたいことを表現し切れるはずもありません。それゆえ、不完全な物しか描けなかったという気持ちだけが残りました。
そんなある日のことです。
創作仲間で小説を書いていた友だちに、小説に転向してはどうかと勧められました。彼女は軽い気持ちで誘ってくれたのかもしれません。ただこのときは、マンガでは描きたいことが表現しきれないという思いが強くなっていた時期でもありました。
目が覚める思いでした。
当時はPCの値段も今ほど安くはなく、気軽に購入できるものではありません。そのかわり手頃な値段のワープロ専用機がたくさん売られていました。手書きで数百枚の原稿は書けなくとも、ワープロなら書けそうです。職業柄、キーボードには抵抗がなかったため、勢いでワープロ専用機を買い、小説に初挑戦しました。
しかし読書好きではあっても、書くとなると一から勉強することばかり。ワープロの前に座っても、手が止まります。
それでも書きたい気持ちは止められなかったので、描きあげたばかりのマンガを小説で書き直すことにしました。
あとは文字としての表現方法を勉強しつつ、頭を悩ませながら、手探りの状態で完成させました。
当時のあとがきに(簡単なコピー誌を作って友だちに配布していました。まえがきやあとがきで作者の素顔を出すのが当たり前みたいなところがあり、結構無理して書いていました)次のようなことが書かれています。
『実際に小説にしてみると、マンガでは描けなかった部分も書けたので、とてもうれしかったんだ。そのときに「これからは、ショーセツに燃えるぞ!」と決心したのでした』
読み返すのも恥ずかしいくらい、軽い文章です。必死でテンションを挙げて書いた文章は、われながら失笑してしまいます。毎回このノリで書くのは大変でしたが、今思えば、いい修行にもなりました。
こうして始めた執筆活動ですが、短期間のうちに数作を書いたのち、育児の多忙さに負けて中断することになりました。
その後育児から解放され、ふたたび書き始めたとき、オーバー・ザ・レインボウの話を最初から最後まで書いていきたいと思うようになりました。
新作を書きつつ、旧原稿を改稿していく中で、この小説の改稿にも手をつけることとにしました。
実はこの作品、数年前にも一度改稿しています。公募に出して一次も通らずに終わったため、その状態のものをお披露目する勇気もなく、さりとてすぐに改稿する時間も取れず、結果的に宙に浮いたままとなっていました。
偶然にも公募のスケジュールの関係で時間がとれたとき、やっと改稿にとりかることができました(当初は公募を考えたものではなかったのですが、締め切りと枚数の関係で、某新人賞に出しました)。
今回の改稿で感じたのは、この作品は肩に力が入りすぎて、堅苦しいものになっているということです。
ストーリー作りとはこうあるべきだ。
お話の前と後でキャラの心理状態が変わらなくてはならない。
何かメッセージを入れなくてはならない。
教科書に書いてあることに忠実であろうとして、角ばったものになったような気がします。改稿することで少しでも丸くしようとしましたが、まだまだ荒削りの部分がたくさんあるように思っています。
その状態にもかかわらず発表することを決めたのは、「ひとつのものを完璧にしようとして完成しないまま終わるより、不完全な部分は残っていても、たくさん書いたほうが上達につながる」という内容のアドバイスを目にしたからです。それまでは自分の理想に近づけるべく、何度も書き直しを重ね、結果的にあまり作品を書き上げられないでいました。
とはいえ、読者の方に楽しんでいただけるよう、そのときどきの持てる力は出し切っているつもりです。納得のいかない中途半端な物を出さないという意味において、決して駄作だとは思っていません。
度が過ぎる謙虚は、傲慢の裏返しです。ここは、楽しんでいただけるように書きました、と素直に言いましょう。
☆ ☆ ☆
せっかくあとがきを書いたので、この辺で少しだけ裏話を。ここまで読んでくださった方へのお礼の気持ちです。
当初の設定では、沙樹は哲哉を好きになるはずでした。対する哲哉にはほかに好きな女性がいて、音楽と恋愛で悩む予定でした。
ところがこの小説を書いている途中のことです。沙樹がいきなり「あたし、ワタルさんが好きになりました」と訴えてきたのです。そしてワタルもまんざらでもないらしく、沙樹にやたらと親切な態度をとるんですよね、これが。
そうか、そういうことなら……てことで、二作目で「ミュージシャンとその恋人」という設定の話に、ふたりを当てはめてみました。すると「作者の知らないところでつきあっていたのか」と思うくらいぴたっとはまって、小説も無事に完成したというわけです(→『あなたの
他にも執筆の裏話はありますが、それに終始していては、それこそ自己満足です。
なので今回は、このあたりで筆をおきます。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
虹の彼方に 須賀マサキ @ryokuma00
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