首の短いキリン

リュウ

第1話 首の短いキリン

「皆さん、今日は自由なお絵描きの授業です。

 これは、皆さんの想像力を鍛えるための授業です」


「先生、何するの?」


「動物の絵を描いてもらいます。

 上手に描けなくてもいいんだよ。

 お手本を見せましょう。

 先生は、キリンを描きます。

 じゃぁ、描くね」


 僕は、黒板に向かって書き始めた。

 生徒の目が僕のチョークを持つ手に集まるのを感じる。


 僕は、小学校低学年の教師だ。

 楽しい授業を考えて、子どもたちのキラキラした眼を見るのが好きだ。

 だから、退屈しない面白い授業を心掛けている。


 キリンの絵は描けるが、それだけでは面白くない。

 僕は、ワザとキリンに見えないキリンを描くことにした。

 クスクスと子どもたちの笑い声が聞こえる。

「えーっ」

「ちがうぅ」

 後ろから聞こえる子どもたちの声が上がる。


 僕は、キリンの絵を描き終わると、子どもたちの方を振り返った。

「ジャジャジャジャーン、キリンです」


「せんせい、違うよぉ。キリンは、首が長いんだよぉ」

「似ていない、似てない、似てなぁい」

 子供たちは狂喜乱舞し、間違いを訴える。

 いいぞいいぞ、みんな、生き生きしている。

 私は、「静かに」と子どもたちを鎮める。

 子どもが手を挙げる。

 一番激しく手を振ってる子を指す。

「先生の描いたのは、キリンじゃないです。

 首は短いし、足だってもっと長いし、そんな模様じゃないです」

 鼻の孔を大きくして、得意げに僕の絵を指摘する。

 賛成、賛成と、次々と子どもたちの間から声が上がる。

 また、僕は「静かに」と子どもたちの興奮を鎮める。


「今日は、これでいいんだ。

 題は、キリンだけど。

 君たちが思っているキリンの特徴から、

 なるべく離れているように描いてみょう。

 キリンという名の君たちが考え出した新しいキリンを創造して書いてみよう。

 最後にその絵を見て、みんなで笑おう

 さぁ、初めて」


「えぇっ、いいのぉ」と驚きの声が上がり、子どもたちが一斉に描き始めた。

 想像力を鍛える。

 すばらしいキリンが出来上がるだろう。

 空を飛べるかもしれないし、

 角を持っているかもしれない。

 鼻が長いかもしれない。 


 出来上がった絵をみんなで批評する。

 教室は、笑い声でいっぱいだ。 

 絵の上手い下手は関係ない。

 面白い、驚くようなキリンの登場は、想像する楽しさを知るだろう。


「みんな、凄いね。

 先生は、驚いたよ。こんなにいっぱい変なキリンが出来て。 

 描いたキリンの絵は、ホームページにアップするから、家族の人に見てもらってね。

 じゃぁ、これで授業はおしまい。

 さようなら」


 子どもたちが帰って行く、キリンの話をしながら。


 僕は、良かったとキリンの絵をホームページにアップしていった。

 ”キリン”というキャプションをつけて。

 最後の一枚のアップが終了した時、急に教室の扉が空き、人が入ってきた。

 あっという間に、囲まれてしまった。

 その中の一人が、一歩前に出て言った。


「威力業務妨害罪で逮捕します」

「えっ」訳がわからないので声が出ない。

 両腕を抑えられた時にやっと声が出た。

「……業務妨害?……誰の業務を妨害しているっていうんだ」

 僕に手錠をかけ、手錠から目線を僕の顔に向けると、

「……AIからだ」

 混乱し、言葉の出ない僕を見て、説明を続けた。

「間違った画像がネット上に流されると、

 ネットから情報を集めている生成AIの精度が落ちる。

 その情報が偽物かなんてわからないからだ。

 あなたがその情報をネットに流すことで

 全世界にどんな影響が出るかわかっていますよね。

 さぁ、行きましょ」

 僕は、言葉が出ない。


 廊下にまだ、子どもたちが数名残っていた。

「せんせいぇ!どこ行くの」

「行っちゃいやだぁ」

「せんせい」

 警察に付き添われて、教室を後にする僕の背中に子どもたちの声が刺さる。

 しかし、そのまま僕は連行された。


 教室に残された僕のパソコン。 

 画面には、首の短く、縞々な模様で、鼻が長い動物らしきものが表示され、

 キャプションには”キリン”と表示されていた。

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首の短いキリン リュウ @ryu_labo

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