第二十六話 気遣い②
「………」
心之介は右腕の袖の裂けた箇所をチラッと見た。
「これは 何でもありません」
「それは医師である私が判断します」
さくらはそう言うや往診箱を置き、心之介の右袖をまくり上げた。
肘の少し下辺りに浅い切り傷があり、にじみ出た血がすでに固まっていた。
「いつものことですから………」
心之介がまたそんなことを口にしたので、さくらは切り返した。
「では私も、いつものことですから」
「何がですか?」
「どんな小さな傷でも、破傷風になって悪化することもあるのです。だから私は必ず手当てをします」
そう言うや、さくらは往診箱から必要なものを取り出して素早く傷の処置をすませた。
ところがさくらは、そのあとも心之介の腕を持ったままだった。
「高盛さんのこと、気にしないでください、ああいう人なんです………」
「………」
心之介にはさくらの気遣いが分かった。
きっと、それを言いにきたのだろう。
が、そういうことは、逆に辛かった。
だから心之介は、手当の終わった右腕をスッと自分のほうに引き寄せてさくらから離した。
不自然な動きにならないようにしたので、さくらも特に何も感じてはいないようだった。
そして心之介が往診箱を持つと、さくらが言った。
「では、行きましょう。今日は横鍋四軒通りです」
「はい」
うぐいす村診療所 南戸 宇一郎 @Minagawasan
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