第一章:いざなわれし少女・蓮華

 月華帝国の遥か最奥部、星読みの里と呼ばれる神秘的な村がある。そこは、星々の声を聞き、その意志を読み取る能力を持つ者たちが集う聖地だった。


 村の中心にある高台に、一人の少女が立っていた。名を蓮華れんげという。銀色の髪を風に揺らし、深い碧眼で夜空を見上げている。その姿は、まるで天空に溶け込んでいくかのようだった。


「今宵も、星々は囁きかけてくる……」


 蓮華の周りに、星々の光が宝石のように輝き始める。それは彼女の特殊な能力によるものだった。星々の光が織りなす幻想的な風景の中で、蓮華は目を閉じ、その声に耳を傾ける。


 突如、蓮華の表情が曇る。星々が彼女に告げた真実は、あまりにも衝撃的なものだった。


「月華帝国の女帝……魂を喰らう者……」


 星々は、遠く離れた銀月城で起きている恐ろしい出来事を蓮華に伝えたのだ。毎夜、無辜の女性たちが犠牲になっている事実。そして、その行為の背後に潜む女帝の深い悲しみと孤独。


 蓮華は決意を固める。この悲劇を終わらせるため、自ら銀月城へ向かおうと。


 翌日、蓮華は師匠や仲間たちとの別れを告げた。


「蓮華、お前の決意はわかった。だが、危険すぎる」


 師匠の老賢者が心配そうに語りかける。


「はい。でも、行かなければなりません。星々がそう告げているのです」


 蓮華の瞳には、揺るぎない決意の光が宿っていた。


 村を出発した蓮華は、長い旅路を歩み始める。広大な平原、深い森、険しい山々。様々な風景が彼女の前に広がっていった。


 旅の道中、蓮華の心には不安と決意が交錯していた。


「本当に私に、女帝の心を癒すことができるのだろうか……」


 そんな思いを抱きながらも、蓮華は前を向いて歩み続けた。星々の導きを信じて。


 そして、幾日もの旅を経て、蓮華はついに銀月城に到着した。


「これが……銀月城」


 月光に照らされた巨大な城壁が、蓮華の前に聳え立つ。その威容に圧倒されながらも、彼女は一歩を踏み出した。


 城内に入ると、そこには信じられないほどの華やかさが広がっていた。煌びやかな宮殿、美しい庭園、優雅に舞う貴族たち。しかし、蓮華の繊細な感覚は、その華やかさの底に潜む暗い影を感じ取っていた。


「この城の奥底に、女帝の悲しみが眠っている……」


 蓮華は、自らの意志で後宮入りを願い出た。そして、ついに嫦娥との対面の時が訪れる。


 後宮の広間。月光が差し込む中、嫦娥が玉座に座っていた。その美しさに、蓮華は一瞬言葉を失う。しかし、すぐに我に返り、静かに口を開いた。


「陛下、私は星読みの里から参りました蓮華と申します。今宵、あなた様に物語をお聞かせしたいと存じます」


 嫦娥は冷たい眼差しで蓮華を見つめた。

 しかし、その瞳の奥に、かすかな好奇心の光を蓮華は見逃さなかった。


「よかろう。その物語とやら、聞かせてもらおうか」


 蓮華は深呼吸し、星々の光を呼び寄せる。広間は幻想的な光に包まれ、物語が始まった。


「はるか北の地に、永遠の雪に覆われた氷雪王国がありました……」


 蓮華の紡ぐ物語に、嫦娥の心が少しずつ揺れ動き始める。そして、これが千夜に及ぶ物語の幕開けとなるのだった。

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