第五章:続く夜々の物語 - 妖精と恋に落ちた少女

 第四夜、蓮華は新たな物語を紡ぎ始めた。星々の光が広間に満ち、深い森の風景を描き出す。


「今宵は、深い森の奥で出会った妖精と人間の娘の、禁断の恋の物語をお聞かせいたします」


 嫦娥の瞳に、かすかな期待の色が宿る。


「太古の昔から、人間の世界と妖精の世界は厳格に分かたれていました。両世界の掟で、互いの交流は固く禁じられていたのです」


 星々の光が渦巻き、二つの世界の境界線を描き出す。一方は人間たちの住む村、もう一方は幻想的な妖精の森。嫦娥は、その光景に見入っていた。


「人間の世界に住む少女リリアは、幼い頃から不思議な夢を見続けていました。夢の中で、美しい妖精の少女と戯れる夢を」


 光の中にリリアの姿が浮かび上がる。茶色の髪に、大きな緑の瞳。その瞳には、どこか物憂げな色が宿っていた。


「一方、妖精の世界では、エコーという名の妖精が、人間の世界に強い興味を抱いていました」


 エコーの姿が現れる。銀色の髪に、紫の瞳。透き通るような肌に、蝶の羽のような半透明の翼。


 嫦娥は思わず身を乗り出し、その美しさに見入った。


「ある満月の夜、リリアは森の奥深くまで迷い込んでしまいます。そして、そこでエコーと運命的な出会いを果たすのです」


 星々の光が、月光に照らされた森の中で出会う二人を描き出す。リリアとエコーの目が合い、互いに強く惹かれ合う様子が映し出される。


「二人は、互いの世界のことを教え合い、深く心を通わせていきました。しかし、それは両世界の掟を破る、禁断の恋でした」


 光の中で、こっそりと逢瀬を重ねる二人の姿が映し出される。嫦娥の表情に、複雑な感情が浮かぶ。


「しかし、幸せな日々は長くは続きませんでした。二つの世界の均衡を乱そうとする闇の力が目覚め、森を蝕み始めたのです」


 星々の光が暗く渦巻き、森が枯れていく様子を表現する。嫦娥の瞳に、緊張の色が浮かぶ。


「リリアとエコーは、この危機を前に、互いの世界を救うため立ち上がります。しかし、それは二人の存在が露見することを意味していました」


 光の中で、リリアとエコーが手を取り合い、闇の力に立ち向かう姿が描かれる。


「激しい戦いの末、二人は闇の力を打ち破ります。しかし、その代償として、両世界の掟による裁きを受けることになったのです」


 星々の光が激しく明滅し、二人を取り巻く緊迫した空気を表現する。嫦娥は息を呑み、物語の結末を待つ。


「しかし、二人の純粋な愛と勇気は、両世界の心を動かしました。長年の因習を打ち破り、人間と妖精の世界は和解の道を歩み始めたのです」


 光の中で、人間と妖精が手を取り合う様子が映し出される。


「リリアとエコーは、二つの世界を繋ぐ存在として認められ、永遠の愛を誓い合いました。彼女たちの愛は、新たな時代の幕開けとなったのです」


 物語が終わりを告げ、星々の光が静かに消えていく。広間に深い静寂が訪れる。


 嫦娥の表情には、深い感動と、何か悟ったような色が浮かんでいた。


「掟や因習に縛られず、自らの心に正直に生きること……それは、時として大きな勇気を要するものなのか……」


 蓮華は静かに頷き、嫦娥の言葉を待つ。


「……また明日も新しい物語を聞かせてもらおう」


 嫦娥がそう言って立ち去った後、蓮華は星々に語りかける。


「陛下の心が、確実に変化しています。これからも、導きをお願いします」


 星々が柔らかく瞬き、蓮華の言葉に応えるかのようだった。月華帝国の夜は、新たな希望とともに明けていくのだった。


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