第三章:続く夜々の物語 - 竜に選ばれし少女騎士と魔法使い

 月華帝国の夜は、蓮華の紡ぐ物語とともに深まっていった。嫦娥は毎夜、後宮に蓮華を呼び寄せ、新たな物語に耳を傾けるようになっていた。


 第二夜、蓮華は星々の光を操り、新たな物語の幕を開けた。


「今宵は、竜に選ばれし少女騎士と魔法使いの冒険譚をお聞かせいたします」


 星々の光が渦巻き、一人の少女の姿を描き出す。鎧に身を包み、凛々しい表情を浮かべる少女騎士・アリア。


「アリアは、幼い頃から騎士を夢見る少女でした。しかし、王国では女性が騎士になることを禁じていたのです」


 星の光は、厳しい訓練に励むアリアの姿を映し出す。剣を振り、馬を駆る。そして、夜にはこっそりと魔法の本を読み漁る。


「ある日、アリアは古城の廃墟で、一頭の幼い竜と出会います。その竜は、アリアの中に眠る特別な力を感じ取り、彼女を選んだのです」


 星々が描き出す光景が変わる。廃墟の中、銀色の鱗を持つ幼竜とアリアが出会う瞬間。二人の目が合い、不思議な絆が生まれる様子が映し出される。


「竜に選ばれたアリアは、王国の掟を破り、密かに騎士となる決意を固めます。そして、その過程で一人の魔法使いと出会うのです」


 場面が変わり、森の中で魔法の練習に励む少女の姿が浮かび上がる。ルナと呼ばれるその魔法使いは、アリアと同じく、既存の枠に収まらない存在だった。


「ルナは、王国公認の魔法使いになることを拒み、自由に魔法を探求する道を選んだのです。二人は、互いの境遇に共感し、深い絆で結ばれていきます」


 星々の光が、二人が力を合わせて修行する様子を描き出す。アリアの剣技とルナの魔法が、見事に調和していく。


「しかし、平和な日々は長くは続きませんでした。古の眠りから覚めた邪竜が、王国を脅かし始めたのです」


 広間に、邪竜の咆哮が響き渡るかのような錯覚を覚える。嫦娥は思わず身を乗り出していた。


「王国の正規騎士団や魔法使いたちは、邪竜の前になすすべもありませんでした。そんな中、アリアとルナは、二人で邪竜に立ち向かう決意を固めます」


 星々が描き出す光景が、壮大な戦いの場面へと移り変わる。アリアが銀の竜に跨り、空を舞う姿。ルナが地上から強力な魔法を放つ姿。


「激しい戦いの末、アリアとルナは邪竜の弱点を突き止めます。それは……愛でした」


 嫦娥の瞳が大きく開かれる。


「邪竜は、かつて人間に裏切られた傷心の竜だったのです。アリアとルナは、力ではなく、理解と共感の心で邪竜に語りかけました」


 星々の光が、アリアとルナが邪竜に優しく手を差し伸べる様子を映し出す。邪竜の目から、大粒の涙が零れ落ちる。


「邪竜の心が開かれた瞬間、奇跡が起こりました。邪竜の姿が光に包まれ、美しい人の姿へと変化したのです」


 広間が眩い光に包まれ、そこに一人の美しい青年の姿が浮かび上がる。


「かくして、王国に平和が戻りました。そして、この冒険を経て、アリアは正式に王国初の女性騎士として認められ、ルナは自由な立場で王国の魔法顧問となったのです」


 物語が終わりを告げ、星々の光が静かに消えていく。


 嫦娥の表情に、かすかな感動の色が浮かんでいた。


「興味深い物語だった。裏切りや憎しみが、理解と愛によって癒されるというのは……」


 嫦娥の言葉が途切れる。その瞳に、何かを思い出したような色が宿る。


 蓮華は静かに頷き、次の言葉を待った。


「明日も、また新しい物語を聞かせてもらおう」


 嫦娥がそう言って立ち去った後、蓮華は星々に語りかける。


(少しずつですが、陛下の心が動き始めています。これからも、導きをお願いします)


 星々が優しく瞬き、蓮華の言葉に応えるかのようだった。


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