第二章:第一夜の物語 - 氷雪の国の二人の姫

 蓮華の声が静かに響き渡る。星々の光が織りなす幻想的な光景の中で、氷雪王国の物語が始まった。


「遥か北方、永遠の雪に覆われた氷雪王国に、二人の姫がおりました。氷の力を操るクリスタル姫と、雪を司るスノウ姫。二人は幼なじみで、互いを慕う仲でした」


 蓮華の言葉に合わせ、星の光が姿を変え、二人の姫の姿を映し出す。銀色の髪をなびかせるクリスタルと、純白の髪を持つスノウ。二人が手を取り合い、雪原を駆け回る姿が浮かび上がる。


 嫦娥は無意識のうちに身を乗り出していた。その瞳に、懐かしさの色が浮かぶ。


「しかし、幸せな日々は長くは続きませんでした。氷と雪の力を巡る王家の争いが勃発したのです」


 場面が変わり、激しい口論を交わす大人たちの姿が浮かび上がる。その狭間で途方に暮れる二人の姫の姿。


「クリスタル姫とスノウ姫は、それぞれの家に引き離されてしまいました。別れ際、二人は再会を誓い合ったのです」


 別れを惜しむ二人の姿に、嫦娥の胸が痛んだ。かつての自分と玉兎の姿と重なって見えたのだ。


「年月が流れ、二人はそれぞれ成長しました。しかし、互いへの想いは消えることはありませんでした」


 星々が描き出す光景が変わる。氷の宮殿で統治の勉強に励むクリスタル。雪の森で自然と対話するスノウ。離れていても、互いを思う二人の姿が映し出される。


「そしてある日、王国全土を襲う大いなる危機が訪れたのです。永久凍土の呪いと呼ばれる魔法が発動し、王国中が凍りつき始めたのです」


 蓮華の声が張り詰める。星々の光が渦を巻き、王国全体が凍りついていく様子を描き出す。人々の悲鳴、動物たちの逃げ惑う姿。そして、その中心で佇む二人の姫の姿。


「クリスタル姫とスノウ姫は、この危機を前に再会を果たします。互いの成長に驚きつつも、二人は力を合わせ、呪いを解くための旅に出るのでした」


 再会を果たす二人の姫。喜びと決意に満ちた表情が、星々の光で鮮やかに描き出される。


「旅の道中、二人は互いの力が補完し合うことに気づきます。クリスタル姫の氷の力とスノウ姫の雪の力が融合すると、想像を超える奇跡が起こったのです」


 二人が手を取り合う姿。その周りで、氷と雪が美しい模様を描き始める。凍りついた大地が、少しずつ息を吹き返していく。


「そして、ついに永久凍土の呪いの源に辿り着いた二人は、最後の決断を迫られます。呪いを解くためには、二人の力を完全に一つに溶け合わせなければならなかったのです」


 クライマックスを迎え、蓮華の声が高まる。星々の光が激しく渦巻き、二人の姫の姿を包み込んでいく。


「二人は躊躇することなく、互いの手を強く握りしめました。そして……」


 一瞬、広間が眩いばかりの光に包まれる。


「二人の力が完全に融合した瞬間、王国を覆っていた呪いが解けたのです。凍りついていた大地に花が咲き、鳥たちが空を舞い、人々の笑顔が戻ってきました」


 星々の光が優しく広間を包み、王国の再生の様子を映し出す。


「クリスタル姫とスノウ姫は、互いへの愛を誓い、新たな王国の共同統治者となりました。そして、氷と雪の力の調和により、かつてない繁栄の時代を築いていったのです」


 物語が終わりを迎え、星々の光が静かに消えていく。広間に沈黙が訪れた。


 嫦娥は、物語に深く心を揺さぶられていた。自身の過去と重ね合わせ、複雑な感情が胸の内に渦巻いている。


「貴様の物語は……興味深いものだった」


 嫦娥の声には、いつもの冷たさが薄れていた。


「明日の夜も、また物語を聞かせてもらおう」


 蓮華は静かに頷いた。そして、嫦娥が立ち去る背中を見送りながら、心の中でつぶやいた。


(これが、千夜の始まり……)


 月華帝国の夜は、新たな物語の幕開けを告げるかのように、静かに明けていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る