食べ放題の美味い肉

圭琴子

食べ放題の美味い肉

 友人と遊んでいて時刻は夕飯時ゆうはんどき、さてなにを食べようかという話になった。

 気さくな友人だが、意外とグルメで食にうるさい。店選びを任せてしまうと、一時間以上歩き回る羽目になることもあった。

「おっ」

 その友人が、好感触を示す。

「新しい焼き肉屋だな。開店セール中だって」

「本当だ」

 いつも通る道並びに、祝い花のスタンドがさんざめいていた。

 正直腹が減っていたし、新しい店に興味もあったし、私は友人をいざなった。

「食べ放題で二千四百八十円なら安いよ! 試しに入ってみよう」

「そうだな」

 しめしめ。今日はすぐ夕食にありつけた。

 店内には客席と、肉や野菜が並ぶ棚がしつらえられている。食べ放題の専門店らしい。

 安いのは、コストを削減しているからか。ぎゅうぶたとり、色んな種類の肉が並ぶがどれがなんの肉とは書いていない。

 友人はグルメだが自炊はしないため、私にいちいち「これは何の肉か」と聞いてくる。逐一ちくいち答えていたのだが、食事も終わりにさしかかる頃、私は首をひねることになった。

「これ何の肉?」

「豚……う~ん? 違うような気もする」

「まあいいや。美味けりゃ」

 友人はそう言って早速、言葉通りに焼き始める。

 焼くと白くなったから、やっぱり豚だったかもしれない。そう思いながら、私たちはぱくついた。

「ん!」

「んん!」

 異口同音に唸りが上がる。その肉は驚くほどに美味かった。

「美味い!」

「うん。こんな美味い肉食べたことない」

「豚とは違うような気がするけど」

 私のその言葉に、友人はなにやら含み笑った。

「なに?」

「いや。関内かんないだろ」

「うん」

 私たちはよく関内で遊んでいた。なにも知らない高校生がデートを楽しむかたわら、頭に『や』のつく自由業のひとが牛耳ぎゅうじる街だ。

「よーく見たら、『茨城産・二十八歳女性』とか書いてあったりしてな」

 そのたちの悪い冗談に大いに笑う。

「ふふっ」

 横を見たら、肉のプレートを持ったお姉さんも笑いをこらえていた。

「やった」

「ん?」

「ウケが取れた」

 そんなこともあって、私たちはいっぺんにその店のファンになった。

 だから次の休日も、その食べ放題の店に行った。

「茨城産……」

 雑踏に紛れて、そんな言葉が聞こえた。

 これは私たちのことを覚えてくれて、笑い話として歓迎してくれているに違いない。

 そう好意的にとらえてふたりで周囲を見回したが、こちらを見ているお姉さんは居なかった。

 代わりに粛々と肉のプレートが運ばれてきて並べられる。それは、豚のようで豚でない、やたら美味いあの・・肉だった。

 え……? 茨城産の……なんの肉なの!?

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食べ放題の美味い肉 圭琴子 @nijiiro365

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