観える者が歩く。背中を常人の読者が追いかける。

本作は「薬屋りん」シリーズの一作で、評者は本作が初見です。

いきなりですが「見える」とは何なのでしょう。その問いをぶつけられる冒頭に読者は頭をやられます。

題名に「観」の字を含む本作は、主人公二人が、直接的な視界と、心理的な見通しと、双方において、探り合い、かつ、互いの視界を信頼し身を委ねる、稀な展開を見せます。

主人公二人は察している同士で行動を積み重ねるところを、何も知らぬ読者はしずしず追いかけることになります。

ですが、どこかで、読者も二人に身を委ねるのです。

作中世界は、日本といえども人権意識が浸透した現代とは比べものにならぬ、人の心も命も軽んじられる場所。物語でよかった、眺めるだけの身でよかった、そう思います。

しかし眺める物語として、成るべくして成ったと思える結末にたどり着きます。不思議な世界ですが、結末に不思議はありません。

私たちは、日頃に何が見えて、見えない先に何があるのでしょう。

西洋の哲学者は「事象の地平線」という概念を作り、日本で川原泉という少女漫画家が題名に用いて漫画を書いています。

言っていることは近いですが、本作は東洋の日本の物語であり、そして怪異的です。

観えているものは世の中のわずか。その不思議を、短い物語のうちに体感します。

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