ラストオーダー 「せんぱい、大好き」
「やっぱり異世界は無理、ですか…… そうですよね、いきなり知らない世界で暮らせと言われても、困りますよね……」
(するとズゥゥンと外で轟音、のち地響き)
「あぁ、時間切れ…… パパが迎えに来ちゃいました…… 私、帰らないと」
「ごめんなさい、先輩。折角、両想いになれたけど、故郷で一緒に暮らしてくれる人じゃないと」
「パパが許してくれないんです……!」
「短い間でしたけど、想いが通じ合ってるってわかって嬉しかったです。素敵なひとときをありがとうございました」
「それじゃあ、パパが待ってるので行きますね」
「さようなら、せんぱ…… きゃっ!?」
(後ろからギュッと抱きしめられる)
「どこにも行かせない、ですか。ふふ、そう言って貰えて嬉しいです。でも」
(グルルル……と窓の外から獣の唸り声)
「パパは最強の火竜。逆らったら、先輩みたいな小枝メガネは一瞬で消し炭です」
「私、先輩を死なせたくありません。だから……」
(先輩、ダダダと走る音。ウィーンと自動ドアが開く音)
「せ、先輩!? どこ行くんですか!? 待ってください!」
(タタタと後を追いかける、その先で肉切り包丁を持った先輩とパパドラゴンが対峙している)
「先輩、早まらないで! パパにはそんな装備じゃ勝てないです! せめてランク4以上の太刀と防火耐性の鎧を作れるようになってから、って、ええ?」
(先輩、どこからともなく牛を連れてくる。モーと鳴く牛)
「こ、この牛さんは松坂牛!? 先輩、一体どうして…… あー!! 牛さんを刺したぁ!!」
(モー!? と鳴く牛)
「先輩の華麗な包丁さばきで、牛さんがみるみるうちに解体されて……! ああ、あっという間に」
「A5ランク霜降り和牛骨付き肉500kgに姿を変えたぁぁ!!」
「そしてそれを大胆にも、焚き火の直火で炙って……」
(じゅわわわと肉が焼けるワイルドな音)
「世界一ゴージャスな骨付き肉が完成ッ!! まさか、これは……」
「古来よりうちの一族に伝わるプロポーズの儀式……!? 彼女の父の前で、捧げられた贄を仕留めて捌き、振る舞うことで男らしさと生活力を示すという……!」
「これでパパが先輩のお肉を食べたら、私たちの婚姻を認めてくれたということ……! さぁ、パパの反応は……!?」
「先輩ごと食べたぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「パパに上半身噛みつかれて、はぐはぐされてる先輩、最高に興奮するぅぅ!!」
「って言ってる場合じゃない!! やめて、パパ!! その人は私が世界一大好きな人なの!!」
「パパとママを見て、私もずっと心から思い合える運命の人と出会いたいと思ってた。でも私は半端者のハーフだから、誰にも心を開くことができなくて……」
「だけど先輩と出会って、始めて誰かを好きになれたの。この人の隣で生きたいって、私にはこの人しかいないって」
(ぎゅっと先輩の下半身にしがみつく音)
「昔、パパがママに感じたように、私にも運命の人ができたの。だから、だから……」
(恐怖で体が震える、勇気を振り絞る)
「わたし、この世界で、先輩と一緒に生きたいっ……!! 先輩と共に生きる未来を許してください!!」
(しばし沈黙。後にパパ、ペッと先輩を吐き出し)
(グォォォと咆哮をあげ、バサリとどこかに飛び去って行く)
「パパ? 許して…… くれたの? はっ! 先輩、大丈夫ですか!?」
「よかったぁ……! せんぱい、死んじゃったかと思ったよぉぉぉ!! せんぱいぃぃぃ!」
「あれ? ヨダレでべとべとの先輩の額になにかくっついてますよ? あっ、こ、これは!!」
「火竜のウロコ! 実力を認めた男にのみ与えられるレアアイテム! ということは……」
「パパが私たちの婚姻を! 認めてくれた!! やったぁぁ!!」
(先輩に飛びつき、ドタリと地面に倒れる)
「ふふ、パパに立ち向かう先輩、かっこよかったなぁ…… 先輩はいつだって、私に勇気を与えてくれるヒーローです」
「え? 動物が好きだから、エサやりしたかっただけって?」
「ちょっ! そんなことパパに聞かれたら今度こそ丸呑みにされちゃいますよ!」
「もう、先輩ったら、ワイルドなんだから!」
(ちゅっと先輩のおでこにキスする音)
「やだ、先輩。パパのヨダレでベトベトする……」
「……あの、よかったら…… 私の部屋でシャワー、浴びていきませんか?」
「それで、その…… 良かったらそのまま泊まっていって欲しいなって。ダメ、ですか……?」
「えへへ、うれしい♡」
「せんぱい」
(抱きつき、耳元で甘えるようにそっと)
「だいすき」
―完—
バイト先の金髪ハーフ女子大生が至高の焼肉で俺を昇天させて異世界にお持ち帰りしようとしてくる 北原黒愁 @kokushu
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