においたつ上質な官能
- ★★★ Excellent!!!
ラヴェルの『ツィガーヌ』を聴いたことがあるだろうか。難解で、不安定で、先が読めず、しかし心の琴線にからまってほどけない甘美さのある、並外れた技巧をもってしなければ奏でられないあのヴァイオリン曲を。この小説はまさにそんな作品である。登場人物たちの関係を読む私たちに、斜めや背後から「あなたはどうなの、それでいいの?」とひそやかに問いかけているようだ。物語の終幕も、恐ろしさと危うさと、官能がにおいたつ。これぞ「大人のキャラクター小説」。上質なワインをたしなむように愉しみたい。