第13話

幸が夕食のハンバーグを食べ、ハンバーグを見てから彼女が堪えていた涙が溢れ、肩を振るわせて泣いた....。啜り泣く声が静かに居間に響いた。


隣に掛けていた俺は突然のことに驚きつつ、自らの胸元に幸の顔を抱き寄せて「お、おい!大丈夫か?ゆっくり呼吸しろよ...ゆっくりだぞ?」と背中をさする。胸の内で、幸の頷く動きを感じた。幸はそのまま暫く胸に顔を埋めているとスヤスヤと眠ってしまったようで、静かな寝息をたて始めた。


「悪い、ちと幸寝かせてくるわ...。どこの部屋に寝泊まりしてたか教えてくれね?」と父に聞くと、「お前の部屋だぞ」とちょっと笑った様子で返された。


何かの聞き間違いを信じた俺は母に「えっと...母さん、幸の部屋...何処?」と確認をすると、「この人も言ってたでしょ、貴方の部屋よ?幸ちゃんからの希望でね...。」とはにかんだ。


その言葉を聞き思わず、いやいや待て待て待ちなさい!いいのかそれで...と呆れてしまったが、そこは、二人で話し合いなさい。と圧の強い笑顔を向けられてしまった。


そうか...と一人項垂れながら、眠りについた幸を肩に負い階段を登っていく。すると、後ろから「ふふっ...にぃさん...」という満足気な笑い声がした。そして、幸が覆い被さる腕を抱きつくように力を入れたことで、背中に確かな膨らみを感じた。それが何かを察してしまい、顔が熱くなるのを感じた...。「いや、幸にそんなつもりは」と否定してはいたものの、この状況はよく無い。そう判断し、言われた通りに『俺の布団』に幸を寝かせた。


彼女に掛け布団をして、下に降りようとした時「行かないで...」と言う声が聞こえた。どうやら彼女が目覚めたらしい。


「分かったよ...」頭を掻きながら、寝台に腰掛け、手を握った。すると少し嬉しそうにした彼女は「一緒に寝よ?」と顔を傾げた。「いや」の「い」と聞こえた彼女は、「嫌なの...?」と少し涙を目に溜めた。心なしか今の彼女は唯の背中を追っていた時の彼女に重なり、「....負けた、負け。一緒に寝るけど...今日だけだぞ?」と観念した様子を見せると、幸せそうに微笑んだ。

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彼の日の約束 イオ・ロゼットスキー @Argath

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