第3話 眠れる遺産

ギルド専用ダンジョン「霧の深淵」の扉を開けたセラフィムは、かつて自分たちが設計した地下施設へと足を踏み入れた。冷たい空気が肌を刺し、足元の石畳からは微かに魔力の残滓を感じ取ることができる。300年という時間が経過しているにもかかわらず、ダンジョンの構造はほとんど崩れていないようだった。


「この結界……まだ機能しているのか。ギルドの魔術師たちの腕には、やっぱり感心させられるな。」


セラフィムが歩みを進めると、壁に取り付けられた魔導ランプが自動的に光り出した。温かみのある光が暗闇を照らし、通路の先へと誘うように広がる。かつての仲間たちとともに作り上げたこのダンジョンは、外部の侵入者を阻むため、複雑な仕掛けと守護者で満たされていた。


「侵入者対策がそのまま残っているなら……少し骨が折れるかもしれないな。」


セラフィムはそう呟きながら剣に手を添えた。この施設はギルドメンバー以外の者を拒むため、数々の罠と守護者が配置されていた。だが今の彼にとって、それらは300年前の記憶を呼び起こす懐かしい挑戦に過ぎない。


最初の部屋に辿り着いたセラフィムは、中央に鎮座する石像を見て目を細めた。それは、かつてギルドを守護していた「鉄騎兵ゴーレム」の姿だった。セラフィムが近づいた瞬間、その目が赤く光り、巨大な石の体が軋む音を立てて動き出した。


「侵入者確認――排除開始。」


重低音の声とともに、ゴーレムが大剣を振り下ろしてきた。その一撃は地面を砕き、強烈な衝撃波が周囲に広がる。セラフィムは寸前で剣を抜き、軽々と横に跳んでそれをかわした。


「おいおい、俺はギルドマスターだぞ。まだ俺を『侵入者』扱いするのか?」


皮肉を言いながらも、セラフィムは戦闘態勢に入った。ゴーレムは圧倒的な力を誇るが、動きは鈍重だ。セラフィムはその弱点を知り尽くしていた。


「懐かしいな……だが、もう一度相手をしてやるさ!」


セラフィムは剣を振り上げると、呪文を詠唱した。


「《裂空閃光》!」


剣先から放たれた光の刃が、ゴーレムの胴体を一直線に切り裂いた。鋼鉄の体が激しい火花を散らしながら崩れ落ち、轟音とともに地面に沈んだ。


「……昔と変わらないな。守護者は相変わらず頑丈だ。」


セラフィムは息を整え、倒れたゴーレムを一瞥してから次の部屋へと進んだ。


ダンジョンの最深部に到達すると、そこには巨大な円形の部屋が広がっていた。部屋の中央には、黄金の光を放つ台座があり、その上には一冊の古びた書物が置かれていた。


「これは……『ギルドの秘録』か。」


秘録とは、ギルドの歴史、技術、そして隠された宝物の在り処を記録した特別な書物だ。セラフィムはそれを手に取ると、表紙をそっと撫でた。記憶の中のそれと寸分違わぬ姿に、胸が熱くなる。


「よし、まずはこれを確認しよう。」


書物を開くと、そこにはギルドの全盛期を象徴する記録が詳細に記されていた。だがページをめくるうちに、セラフィムはある箇所で手を止めた。


「封印された力――銀狼の牙の遺産を解き放つ者、次の世界の統治者となる。」


さらに読み進めると、かつてギルドが築き上げた宝物庫の存在が記されていた。それは、この世界における覇権を握るほどの力を秘めた武具や魔法書が眠る場所だという。


「なるほど……これを手に入れれば、300年経った今でも、この世界で再び頂点に立てるというわけか。」


しかし、宝物庫への道は簡単ではない。その場所はギルドの創設メンバーによって封印されており、開放には「遺産の鍵」と呼ばれる特殊なアイテムが必要だと記されていた。そしてその鍵は、ギルドに関わりの深い土地に隠されているらしい。


「鍵を集める旅か……面白いじゃないか。」


セラフィムは書物を閉じ、ゆっくりと立ち上がった。ギルドマスターとしての記憶を頼りに、これから訪れるべき場所のリストを頭の中に描き出す。


「次は、旧ギルドメンバーの残した痕跡を追う……彼らの遺産を集めて、この世界をもう一度、俺の手で統一する。」


そう決意した彼の瞳には、確かな闘志が宿っていた。廃墟となったダンジョンを後にし、セラフィムの新たな冒険は次なる地へと続いていく――。

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伝説のギルドマスター、300年後の異世界で無双する なちゅん @rikutui3

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