第2話 忘れられた伝説の力
荒廃した領地と村々を歩きながら、セラフィムはかつてのギルド帝国の栄華と、それが失われた現状に思いを巡らせていた。だが嘆いている時間はない。300年の歳月がもたらした変化に対応し、新たな世界で生き抜くための手がかりを掴まなければならない。
「まずは、この村で情報を集めることだな……」
セラフィムは宿屋の主人に礼を言い、村の中心に向かった。そこには朽ち果てた大きな碑が建っていた。碑文にはかつての帝国の歴史が刻まれているが、風化が進み、その多くは読み取ることができなかった。ただ、一部だけ辛うじて読める箇所があった。
「銀狼の牙は消え、帝国は瓦解した。しかし、その力は未だ眠る――真の後継者が目覚める日を待ち続けている。」
「力が眠る……か。」
セラフィムはその言葉を繰り返し呟きながら、目を閉じた。かつての仲間たちとの冒険の記憶が脳裏をよぎる。伝説の武具やギルド専用の秘密の施設――それらは、300年という歳月を超えてこの世界に残されている可能性が高い。
「俺の力だけじゃない。ギルドが築き上げたすべてが、この世界のどこかに隠されているはずだ。」
まず探るべきは、ギルドがかつて拠点としていたダンジョンだ。そこには、セラフィムが設計し、強力な結界で守られた地下施設があったはずだ。それが未だに機能しているなら、この新たな世界を攻略するための大きな手がかりになる。
村の近くの森を抜け、セラフィムはかつてギルドホールの裏手に位置していた「霧の深淵」へと向かった。このダンジョンは、ギルドが最初に制圧した拠点であり、内部には数多くの宝物が隠されている。しかし、ゲーム時代ですら強力なモンスターが潜む危険な場所だった。
「懐かしいな……。当時は仲間と笑いながら攻略したものだが、今は俺一人か。」
足元に生い茂る草を踏み分けながら進むと、次第に空気がひんやりと冷たくなり、視界を遮るように濃い霧が立ち込めてきた。その霧の中、セラフィムはかすかに聞き覚えのある魔物の咆哮を耳にした。
「……出迎えは上等だ。どれだけ俺の腕が鈍っているか、試させてもらおう。」
セラフィムは剣を抜き、静かに構えた。霧の中から姿を現したのは、かつてのゲーム時代にも頻繁に出現した中型モンスター「フォグウルフ」だった。だが、ゲームの中とは違い、目の前のフォグウルフは不気味なまでにリアルで、鋭い牙や血走った目には確かな殺意が宿っていた。
「本物の狼と違って、こいつは数で来る……!」
セラフィムの言葉通り、霧の中からさらに数体のフォグウルフが姿を現した。一体一体の力はゲーム時代と同程度だが、この数の連携は厄介だ。セラフィムは鋭い目つきで敵の動きを見極め、次の瞬間、地面を蹴って飛び出した。
「《旋撃剣舞》!」
剣が光を放ち、疾風のような動きでフォグウルフたちを切り裂いていく。次々と襲いかかる狼をかわし、絶妙なタイミングで反撃を繰り出すセラフィムの姿はまさに無双そのものだった。
「……どうやら腕は鈍ってないな。」
霧が晴れると同時に、フォグウルフたちの姿は跡形もなく消えていた。セラフィムは剣を納め、さらに奥へと進む。やがて目の前に現れたのは、巨大な石扉。ギルド専用ダンジョンの入り口だ。
扉にはかつて自分が仕掛けた複雑なロックがそのまま残っていた。セラフィムは懐かしさを感じながら、手を伸ばして扉に触れる。
「鍵を開けるのも久しぶりだな……」
彼が手をかざすと、石扉が鈍い音を立てながらゆっくりと開いていく。中から冷たい風が吹き抜け、古の秘密が呼び起こされるような感覚が全身を駆け巡った。
「さて、中に何が残っているか、確かめるとしよう。」
セラフィムは静かに笑みを浮かべながら、暗闇へと足を踏み入れた。ギルドマスターとしての第二の冒険が、今、再び幕を開ける――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます