伝説のギルドマスター、300年後の異世界で無双する

なちゅん

第1話 ゲーム世界からの転移

かつて、世界中のプレイヤーたちを熱狂させたオンラインゲーム「エターナル・クエスト」。その中でも、「銀狼の牙」と呼ばれるギルドは、最強の名を欲しいままにしていた。無数のダンジョンを制覇し、伝説の武具を手に入れた彼らの名声は、ゲーム内外を問わず語り継がれていた。その頂点に立つのが、ギルドマスターのセラフィム。巧みな戦略と圧倒的な実力でギルドを率い、NPCとプレイヤーが混ざり合う形で「世界統一帝国」を築いた男だ。


しかし、時代の流れには逆らえない。ゲームの人気は次第に衰え、運営はサービス終了を宣言した。最終ログインの日、セラフィムはギルドホールに一人佇み、長年の冒険に別れを告げた。


「これで終わりか……楽しかったよ、みんな。」


ログアウトボタンを押した、その瞬間。彼の意識は一瞬の空白を挟んで――見知らぬ場所で覚醒した。


目を開けると、そこは見慣れたようでどこか違う場所だった。空は澄み渡り、鳥のさえずりが響く。だが、目の前には荒れ果てたギルド拠点「銀狼の牙」の建物が、廃墟となって佇んでいた。


「……ここは、どこだ?」


セラフィムは戸惑った。手を見下ろすと、彼はゲームの中のキャラクターそのままの姿をしていた。輝く鎧、魔力を帯びた剣、ステータスを示す画面――すべてが、ログアウト前と変わらない。だが、周囲には誰の姿もない。


「俺だけが……ここにいるのか?」


荒れたギルドホールを歩き回るうちに、セラフィムは一冊の古びた本を見つけた。それは、かつての「銀狼の牙」の歴史を記した書物だった。ページをめくると、彼がいなくなった後の世界の出来事が記されていた。


「……300年?」


彼の不在後、NPCたちはギルドの名誉を守るため動き続けたが、次第にプレイヤーたちは消え、ギルド帝国は分裂。各地に散らばった領地は、新たな国家や文化を生み出していた。もはや、この世界は彼が知る「エターナル・クエスト」とは大きく変わっていた。


「ここがゲームの中なのか、それとも現実なのか……」


混乱する頭を整理するため、セラフィムはまず現状の把握に動くことを決意した。


廃墟を後にし、セラフィムはかつてギルドの領地だった場所を歩き始めた。広大だった農地は荒れ果て、小さな村々が点在するだけの寂しい光景が広がっていた。しばらく歩いた末、一つの村に辿り着いた。簡素な家々が立ち並び、村人たちが行き交う様子はどこかぎこちない。セラフィムの姿を見た村人たちは驚いたような表情を浮かべ、そっと道を開けた。


「この村で、何か手がかりが得られるかもしれないな……」


彼は宿屋に足を踏み入れると、店主に軽く挨拶をし、噂話に耳を傾けた。少し話好きそうな宿屋の主人は、酒を注ぎながら興味深い話を教えてくれた。


「この国? あんた、どこから来たんだ? ここはな、かつての『銀狼の牙』の領地だった場所さ。でも、今じゃただの小さな国に過ぎねぇ。王家がかろうじて名を保ってるが、権威はもう地に落ちたもんだ。」


「王家……?」


「ああ、銀狼の牙が築いた帝国の血筋だよ。伝説として語られるが、あんたみたいな格好の人間を見たのは初めてだ。」


セラフィムは、状況を理解するにつれて新たな決意を固めた。かつて彼が築き上げたものが、今や荒れ果て、衰退している。それならば――もう一度、この世界をまとめ直すしかない。


「……まずは、この世界の全貌を知ることだ。」


立ち上がるセラフィムの瞳には、かつてのギルドマスターとしての冷静な判断力と、決して折れない意志が宿っていた。


こうして、伝説のギルドマスターは、再び動き出した。300年の時を越え、彼の無双の冒険はここから始まる。

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