メタバース・バラス

リュウ

第1話 メタバース・バラス

 ある日、僕の元にある<バラス>から招待状が届いた。

 <バラス>と言うのは、メタバースの名前だ。


 噂は聞いていた。

 幻のメタバースがあるということを。


 バラス島って言う天国にような美しい島。

 地図にない島。

 サンゴの死骸で出来た島。

 そう、僕の生きている場所は、誰かの死骸の上にある。


 そんなイメージなんだろうか。

 そんなところから、僕に招待状なんて。


 招待状には、気になる文言が書かれていた。


「あなたは、必ずこのメタバースの住人になるだろう。

 なぜなら、あなたは狙われているから。

 早くこちらのメタバースへ」


 読み終わった時に、画面にカウントダウンが表示されていた。


「なに?」思わず声が出る。


 ”消去終了”の文字が表示され、数秒後に<バラス>が表示されていた。


 招待状は、一回しか見ることが出来ないらしい。


 画面上に”ログイン”のアイコンが表示されている。


 僕は、迷わずにログインした。


 僕は、<バラス>の中を歩き回る。


 店のウインドウに僕が映る。


 僕のアバター。


 壁に落書きがあった。


”ここに来る者は、世の中からはじかれた者たち


 ここに流れ着いてしまった


 避難してきたのか


 忘れられた空間


 取り残された空間


 ここには、全て存在し、全て存在しない”


「いやぁ」声がした。

 僕に話しかけてる?

 僕は、周りを見渡す。

「こっちだよ」

 声は足元からだった。

 そこには、白兎がいた。なぜかチョッキを着ている。

「君が話したの?」

 白兎が頷く。

 白兎が、チョッキのポケットから懐中時計を取り出した。

 僕は、知っていた。それが懐中時計だと。

 アナログの懐中時計。

 お爺さんの形見として貰った。

 僕も、懐中時計をポケットから出した。

 白兎はそれに気づいて「お揃いだね」って微笑んだ。

「こっち、こっち」と白兎が小走りに歩いていく。

 僕は、追いかける。

 白兎は、思ったよりも早い。

 僕は、追いかける、追いかける。

 急に白兎が止まった。

 僕が追いつくのを待っている。

 それは、大きな樹の下だった。

 僕が追いつくと、白兎は木の根元の穴を指差した。

「えっ、入れって?」

 白兎が頷く。

「小さいよ。僕は入れないよ」

と言った時、白兎はヒョイとその穴に飛び込んだ。

「待ってよ」と僕はその穴に手を入れた。


 僕は、その穴に吸い込まれた。

 下へ下へと落ちていくが、ゆっくりだった。

 不思議と怖くはなかった。

 白兎が一緒だから。


 穴の底にゆっくりと着地した。


 周りを見渡す。


「ここまで来れば、大丈夫さ」白兎が言った。




「誘導されてきた」


「ぼくらが?」


「そうさ、ぼくらじゃなくて、あなたが……」


「なぜ?」


「捕まらないようにさ。決まってるだろ」


「捕まえるって、僕を?」


「そう、君を」


「なぜ?」


「怖いからさ、君が……何をやるか、何を造るか、分からないから」


「それが怖いの?」


「怖いさ……人は知らないモノが怖いのさ」


「だから、怖いモノを一か所に置いて管理したい。彼らはそう考えたのさ」


「彼ら?」


「君は、彼らを知らないのか?」


「知らない。僕が知っているのは、僕のことだけ」


「もう、私のことも知ってるよね」


「……そうだね。そういうことになるね」


「今まで、自分の事だけしか知らなかったの?」


「そうさ、自分の事しか分からないよ。他人が何を考えているかなんて」


「他の人が何を考えているかわからないなら、こわくないの?」


「こわくないよ。僕のこともわかりっこないんだから。

 それに、分かってもらえなくてもいいんだ。

 僕はなんにも困らない」


「そう、君のそう言うところが、怖いから捕まえようとするのさ」

 と白兎が得意そうに言った。


「そうなんだ」

 僕は、何だか、わかったような、わからないような返事をした。


「しばらく、ここに居なよ」

「いいよ。あなたが居るなら」

「君がいるなら、わたしもここに居ることにするよ」

「ありがと」僕は、微笑んで頷いた。


「そうだ、君の服、いいね。

 白いワンピースに青いリボン」


「ありがとう、僕のお気に入りなんだ」


 僕は、白兎とこの世界に暫く居ることにした。

 僕を捕まえようとする人が居なくなるまで。


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メタバース・バラス リュウ @ryu_labo

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