街が燃やされている。傷ついた
水路に浮かぶ死体を横目に、わたしは秘密の場所へと駆けていく。
家々を通り過ぎ、幾つもの角を曲がり。ふっと視界が開けたとき。いちめんに星を散りばめた濃紫の景色が現れる。湖に映った夜空は、まるで真昼のように眩しかった。
「来てくれたんだね」
影が嬉しそうに声を上げる。駆け寄ると、水面には同じ姿の少女がいて。
「ねえ、わたし、この前教えてもらった曲、ちゃんと練習してきたよ」
抱き付いて、はにかみながら伝えると、彼女は眉を下げて愛おしそうに笑った。
「そんなに焦らなくても大丈夫なのに。忘れちゃってても、また一から教えてあげるから」
「ううん、少しでもあなたと踊れる時間を増やしたくて。それだけだよ」
互いの背中に回していた手を離す。肩から腕を撫でて伝うようにして距離を取ると、触れ合っているのは指だけになった。
「てのひらに。とまる小鳥は
おもむろに踊り始める。次第にくるくると回るように。剥がれかけた舗装のうえで素足は赤く傷ついていった。
回って、跳ねて、体を弓なりに反らして。ステップを刻む。耐えきれなくなってまた
星のきらめきが乱反射する湖のほとり。わたしたちの影がくっきりと浮かび上がると、
時間が切り離されて、まるで形だけが取り残されたみたいだった。わたしたちは踊りつづける。曲が始まって終わるまでの数分間、それがわたしたちに残された最後の
「ねえ」
「これが影の行き着く果てなんだよ」
……
幾万もの神々が少女を見上げている。
四百の雲の蛇が、ターコイズの主が、煙る鏡が、黒曜石の蝶が、七つの穂が、翼ある蛇が、犬神が、五つの花が、玉蜀黍の若き穂が、無数の兎が、黎明の館の主が、あらゆる神のかたちが
かげかたち 藤田桜 @24ta-sakura
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