トラスカラ人が我が物顔で街をうろついている。
侵入者たち。
閉ざされた戸の向こうからは荒々しく、耳障りな
噂には、くろがねの鎧をまとった奇妙な一団が彼らを連れてきたという。
「わたしたちは今、滅びようとしているんだね」
幼い少女の声が聞こえたような気がした。
そんなわけがない。
だって、だって。
この
剣呑な空気を尻目にして、貢納は毎日のように運ばれてくる。今日はトラルコサウティトランから数十
わたしたちの国はあまりに大きい。いくら蟻が群がろうと崩れるわけがない。トラスカラ人も、ひとしきり満足したら帰っていくだろう。そう考えれば施しをするようなものじゃないか。
色んな言い訳を浮かべながら。物でも憑いたかのようにかぶりを振る。
そんなわけがない。
そうだろう、そうであってくれ。
トチトリの娘が
見れば、ずいぶんと幸せそうな表情をしている。まるで
また数ヶ月を向こうで過ごすらしい。
「友達に会えるから」と言っていた。それはどんな子なんだい? 聞き出す前に、彼女は顔を真っ赤にして黙りこくってしまった。母親から「向こうで羽目を外すんじゃないよ。お前みたいに食い意地が張っているのは恥ずかしいことなんだからね」と釘を刺されたのだ。可愛そうに。わざわざそんな言い方をすることもなかったろう。
わたしたちは子供を常に空腹にさせて、それを躾とする。
暴食は悪徳だ。身を滅ぼし、国を滅ぼすもとである。だから、そのような振る舞いを覚えさせてはならない、とされる。わたしたちは幼少期を飢えと共に過ごすのだ。指を咥え、胃をころころと鳴らしながら。
だが、ここ数日はトチトリの娘も満ち足りたふうに過ごしている。ただ友達に会えるのを支えにしている、というわけでもなさそうだ。
ずっと静かに微笑みを浮かべていた。ときおり小さく歌を口ずさんでは、愛おしそうに繰り返す。夜になると、焦がれるように星空を見つめるのだ。
それを見るたびに彼女が透き通っていくように感じられて。秘薬を飲んだ
ことあるごとにふらついて、食事もしきりに残すようになった。肌もずいぶん白くなって。
このまま夜に溶けて、いなくなってしまうんじゃないか。
そんな気さえした。
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