裏側編
悪役令嬢ってなによ?
知らないわよそんなの。私だって自分がそう呼ばれていることなんて、この世界に来て初めて知ったんだから。
朝に目が覚めたら、突然違う世界の、違う人間になっちゃってたなんて言われても、普通の人には意味が分からないわよね。もちろん私にも分からなかったわよ。
神崎 明野というのがこの世界での私の名前だ。そのアケノという名前の人間の記憶もちゃんとあって、この世界の常識もしっかり理解出来る。なのに私は自分では別の世界の別人だとも思っている。
頭がおかしくなったのかと思ったわよ。混乱してグルグルした頭のままほとんど無意識に学校に行き(平民が通うという『学校』に通うのは初めてだったんだけど)教室でアケノの親友であるキヨコと会い、そしてその時キヨコがこう言ったのよ。
「昨日も悪役令嬢のキャロラインに邪魔されちゃってさぁ」
……突然、自分の本来の名前が出てきて私は面食らったわね。それに悪役令嬢? なによそれは。
これが私の日本での生活の始まりだったのだ。
◇◇◇
キヨコの説明を受け、どうやら私の元いた世界は、その「ゲーム」で覗き見ることが出来るようだという事が分かった。乙女ゲームと言うの? そのヒロインの視点で世界を見る感だ。
そのヒロインというのがどうやらあの忌々しい平民上がりの無作法伯爵令嬢、リルエッテ・コードンルゥ嬢らしいという事が分かった時には思わず歯軋りしたわよ。なんであの失礼女がヒロインで私が悪役令嬢なのよ! 逆じゃないの!
怒り狂う私に引きながら、キヨコは詳しく説明をしてくれた。それによるとヒロインとキャロラインの関係はこんな感じのようだった。
「平民育ちのリルエッテは母の死を期に自分が実は伯爵令嬢だった事を知る。父親に引き取られた彼女はその天真爛漫さで貴族社会で愛され、多くの男性から想いを寄せられるようになる。それを妬んだのが王太子の婚約者である悪役令嬢のキャロライン。キャロラインからの様々な妨害にもめげずに、リルエッテは王太子やその他の華麗な貴公子との愛を育んで行く」
……ほとんど出鱈目じゃないの! なんなのよこれは!
なにが天真爛漫よ! あれは非常識と言うんでしょ! 貴族にも愛された? あまりの無作法さに皆様ドン引きしていたじゃないの! 多くの殿方から想いを寄せられた? 自分から擦り寄って媚を売っただけでしょうに! 悪役令嬢からの妨害? 自分の婚約者を誘惑されたら怒るのがあたりまえじゃないの! 馬鹿じゃないの!
あまりにも納得がいかなかった私はキヨコに聞いて、その日の内にそのゲームをすぐさまスマホにダウンロードした。キヨコは「やっとアケノへの布教が実った!」って喜んでたわね。宗教なの?
で、教わった攻略サイトに従ってゲームを進めていったのだけど……。
立ち所に理解したわね。このゲームはヒロイン視点で進むので、ヒロインに都合良く色んな事が解釈されているみたいなのだ。そして都合の悪い事は隠されている。そんな感じを受けたわね。
例えばリルエッテがボイヤーズという貴公子と出会って関係を深めて行く、というシナリオがある。二人は順調に関係を深めていって、ボイヤーズのみのルートだと二人は最終的に朝日が見える塔の上で将来を誓い合う、というシーンで終わるのよね。
大事なのは、リルエッテとボイヤーズは最後まで婚約も結婚もしていないという事だ。
そりゃそうでしょうね。ボイヤーズ様はリルエッテと出会った時点でもう結婚してたからね。
ボイヤーズ様の事はよく知っているわよ。タンブル伯爵家の嫡子。社交界では有名な美男子で洒落者の人気者だったわね。年齢は十八歳。
貴族の嫡男は結婚が早いのが普通なのよ。家としては早く後継が欲しいからね。だからボイヤーズ様も様十六歳の時に同い年の伯爵令嬢と結婚して、確かもう子供がいたんじゃなかったかしら。
でも、ボイヤーズは相変わらず社交界でプレイボーイとして名を馳せていた。つまり、社交界で浮気相手を見繕っていた訳なのよ。
貴族にとって、浮気や不倫は常識なのだ。これは貴族の結婚が、どうしても家同士の関係や利害関係を優先して縁組され、愛情が置き去りにされるのが原因だ。
その愛情を補うために浮気や不倫をするわけだ。この場合はほとんどの場合、妻や夫の黙認の元で行われる。離婚ともなれば家同士の大問題に発展するから簡単には出来ないからね。後継さえ夫婦でちゃんと作るのであれば、それ以外の男女関係は黙認するというのが貴族の夫婦関係の常識なのよ。
だからどうも、ボイヤーズ様とリルエッテの関係はボイヤーズ様の浮気ということになるのよね。つまりリルエッテはボイヤーズの愛人になった、というのがこのエンディングの解釈になろうかと思うのよ
まぁ、愛人が正妻よりも熱烈に愛される事も珍しくはないからね。お互いが納得しているなら愛人関係も良いんじゃないかと思うんだけど。でも、リルエッテはコードンルゥ伯爵家の総領姫だった筈よね。リルエッテが婿を迎えないと伯爵家が断絶してしまうと思うのだけど、良いのかしらね? コードンルゥ伯爵が許さないと思うんだけど。
そんな感じで、ゲームでは計七人の男性とリルエッテは愛を育む訳だけど、これがなんとも、全員が結婚済みか婚約済みの殿方が相手なんですよ。どういうゲームなのよこれは?
しかしゲームではそんな事は一言も言わないのだ。だからゲームのプレーヤーの皆様は相手の男子が多分、未婚でお相手もまだいない方々だと思って攻略に励んでいるんじゃないかしら。
で、唯一婚約者がいると明示され、その名前が出てくるのがヴェスバール王子という訳だ。そしてその婚約者が私、キャロラインというわけ。
なんで私だけ婚約者として登場したのかというと、これは多分ヴェスバール王子ルートだけは私と王子との婚約が破棄されて、リルエッテとヴェスバール王子が婚約するエンディングになっているからでしょうね。つまり完全に略奪に成功したからこそ、元婚約者の名前が出せた訳よ。
つまり他のお相手は誰も妻や婚約者とは別れなかったということよね。まぁ、婚約解消や離婚の困難さを考えれば当然なんだけど。でも、ヒロインが愛人になりました、では乙女ゲームとしてはあんまり良くないエンディングだから「二人は結ばれました○」で終わらせているんだと思うのよね。
では、どうしてヴェスバール王子のみを婚約破棄まで持って行けたのか。それが問題よね。確かにリルエッテの登場以降、私とヴェスバール王子の関係は相当冷え込んでいて、同じ夜会に出ても話もしないような関係だったけど、それは多分、他の攻略対象の夫婦なり婚約者でも一緒だと思うのよ。でも、どんなに仲が悪くても婚約や結婚は解消出来ないのが貴族というものなのだ。なにしろ家同士の契約だからね。婚約や結婚は。
私はヴェスバール王子ルートを慎重に見直した。あの無作法さを発揮したリルエッテが偶然を装いヴェスバール王子に接近するシーンは何度見てもうんざりする酷さだったけど、それに簡単に転ぶヴェスバール王子もどうかと思うのよ。あの人は昔から少し思慮が浅くて怠け者で、国王陛下も王妃様も王太子にするかどうかかなり迷ったと仰っていたわね。
で、気になるシーンがあった。キャロラインに(私の記憶にはないのだけど)イジメめられて泣いているリルエッテに、彼女の父であるコードンルゥ伯爵が励ましの言葉を掛ける場面があったよ。「ヴェスバール王子の事が好きなら、我が家としても最大限応援するから頑張って王子の心を繋ぎ止めるのだよ」と。
……これは他の男性へのアプローチではなかったシーンよね。恐らくコードンルゥ伯爵は、他の男性の攻略に対しては賛成ではなく、何の支援もしなかったのではないかと思うよ。まぁ、全員婚約者ありか既婚者では、父親としてお付き合いに賛成しかねたとしても無理はないと思う。もしもお付き合い(愛人関係)が成立しても、リルエッテはそれとは関係無くコードンルゥ伯爵の選んだ相手と結婚させられたと思うわね(愛人関係はそのままで)。
でも、王太子であるヴェスバール王子との関係は、もしも成立すればコードンルゥ伯爵家にとっても大きな利益になる。新興の伯爵家であるコードンルゥ家がいきなり王家と縁繋がりになれれば、王国での地位は私の実家のウェーバルグ侯爵家に匹敵するぐらい高まるだろう。
なのでリルエッテとヴェスバール王子の関係を、コードンルゥ伯爵は全面支援する事にしたんじゃないかしら。
コードンルゥ伯爵家は近年、大きな紡績工場を建てて製品を外国に輸出して多大な利益を上げている。その潤沢な資金で王家を支援すれば、万年金欠に悩んでいた王家は非常に助かるだろう。元々私の嫁入りにもウェーバルグ侯爵家から王家への資金援助という条件が入っていたくらいだったからね。
お金だけではなく貿易で儲けているコードンルゥ伯爵家は外国との繋がりが強い。外国で開発された最新兵器や機器も輸入出来る事だろう。これを王家に献上してアピールすれば、それは王家としてもコードンルゥ伯爵家の有用性に気が付かないわけにはいかないわよね。
将来の国王の妃として、伝統はあるけど土地を基盤とした古い貴族であるウェーバルグ侯爵家よりも、工業と商業に基盤を置く新しく勢いのあるコードンルゥ伯爵家の令嬢の方が相応しいと考えないとは限らない。
これだけでは婚約解消には足りないと思うけど、そこにヴェスバール王子が私の悪口を国王陛下と王妃様に吹き込み続けたらどうか。次代の国王と王妃の関係が悪い事は王国の将来の不安材料になる。貴族関係と私と王太子殿下の関係を総合的に判断した結果、国王陛下と王妃様が私とヴェスバール王子の婚約解消を考てもおかしくはない。
この場合、円満な婚約解消はあり得ないのだから、方法はたった一つ。私に罪を被せて婚約を「解消」するのではなく「破棄」するしかない。私を婚約破棄した上で国外追放にするくらいの事をしないと、婚約契約を無効にすることなど出来ないのだ。
もちろんこれは同時に、王家からウェーバルグ侯爵家への宣戦布告という事になるだろうね。娘を婚約破棄の上で追放なんてされたら、お父様もお兄様も怒り狂って軍を挙げて王都に進軍するでしょう。この場合、我が家に近い大貴族の皆様も味方してくれると思う。
でも王家も婚約破棄なんて無茶をやるならそんな事は承知の上だと思うのよ。コードンルゥ伯爵家を中心とした新興貴族集団が軍を変成し、もしかしたら外国からの傭兵も金に飽かせて集めて対抗して来るかもしれない。大きな内戦になるわね。国王陛下としてはそこまで覚悟して新興貴族に王家の支持基盤を乗り換えようと考えた訳だから、多分新興貴族は侮れない実力を持っているんでしょうね。
王家としては古くからの有力諸侯であるウェーバルグ侯爵家よりも、新興のコードンルゥ伯爵家の方が外戚とした時に扱い易いという計算もあるんだろうね。そういう風に考えて行くと、このゲームの悪役令嬢追放イベントがあり得ない事ではないと思えてくる。勿論、内戦勃発は完全に私の想像だ。ゲームはキャロラインに婚約破棄の宣告をして、国外追放を告げ、リルエッテとヴェスバール王子の婚約で終わっているから。
私は考え込む。でも、まだこれでは足りない気がする。
私は国王陛下と王妃様とは、個人的な関係は良かった。ヴェスバール王子本人とよりも良かったくらいだ。お二人とも私を王太子に相応しいと認めてくれていて、私を優しく厳しく教育して下さった。そのお二人が私を追放に踏み切るには、私がお二人に嫌われる何かがあったと思うしかない。
ゲームをよく見ていくと、やはり気になるのはリルエッテに対するイジメだ。ヒロイン、つまりリルエッテ視点だから大げさに解釈されている所はあると思うけど、彼女は結構酷い目にあっているのよね。ドレスを汚されたり、脚を引っ掛けられたり、うっかりを装ってワインを頭から掛けられたり、時には階段から突き落とされた事さえあった。
問題はこれら全てが「キャロラインのせいだ!」という事になっている事なのよね。勿論、私はそんな事はしないわよ。でも、考えて見ればそういうイジメのほとんどは、私へのリルエッタと王太子殿下の態度に憤慨した、私の友人が行っていたのだ。私もその事は知っていたんだけど、流石に私の見ていないところで為された事まで関知する事では無いと放置していたのだ。目の前でやったなら叱ったわよ。
でもそういうイジメを、リルエッタが「キャロラインにやられました!」と王太子殿下に報告し、それをヴェスバール王子が国王陛下と王妃様に「キャロラインは非道な女なのです!」と逐一報告している内に、お二人の私への心証が悪化したとは考えられないだろうか。有り得るわよね。いくら親しく接していても私は他人だもの。息子の言葉と私の言葉のどちらを信じるかと言われたら、最終的には息子の言葉が強いんじゃないかしら。
それに、私の友人がやった事は結局私の派閥がやったと見做される。ゲームを見ていると、イジメ行為は段々エスカレートしていって、最終的にはリルエッタの命が危うい場面が何度かあるほどだったのよ。つまり私の派閥がリルエッタをひいてはコードンルゥ伯爵家を潰そうとしていると見做されてもおかしくない。これにコードンルゥ伯爵家が反発して、王家への働きかけを強めた可能性も考えられるわね。
……元の世界にいた時にはまったく見えなかったその辺りの事が、ゲームで客観的に見る事によってよく見えてきた。私は冷や汗をかいたわよ。自分が渦中にいる時には単に、リルエッタの無作法とヴェスバール王子の不実に怒っていただけなんだけど、その時には既に私はもの凄く危ない局面に突入していたのだった。
◇◇◇
まぁ、それはともかく、元の世界のことはもうゲームでか見られないのよね。しかも忌々しいリルエッタ視点でしか。ヴェスバール王子ルートのエンディングではキャロラインは追放されてしまってその後も描かれない。その先が全然分からないのよ。
私は悶々と悩んだけど、不思議と元の世界に戻りたいとか、戻る方法を探そうという発想にはならなかった。元の記憶とアケノの記憶の両方があったからかしらね。とりあえず帰れない元の世界より、今の自分をなんとかしようと思ったのだ。
というのは、私がアケノになってからすぐに学校でテストがあったんだけど、これが全然出来なかったのだ。なぜって? アケノに全然知識がなかったからよ!
これまで私は家庭教師からテストを受けさせられても、満点以外なんて取った事はなかった。それなのに百点中七十点ですって? 私は屈辱に震え、怒り狂ったわよ! こんな点数許せない!
アケノの記憶によればこれでいつも通りというのだから更に許せない。なに満足してるのよ! 不足があるなら努力しなさいよ!
私はその日から猛勉強を開始した。幸い、この世界には社交はなく、学校が終わったら基本的にやることはない。いくらでも勉強は出来る。アケノは部活にも入っていなかったしね。
ただ、私がいた世界よりも勉強することは多く、高度で大変は大変だった。でも分かり易い教科書や参考書があって、先生は質問にはちゃんと答えてくれる。こなせない事はないわよね。
いきなり猛勉強を始めた私にお母さんは驚いたしキヨコも目を丸くしていたけど、勉強自体は楽しかったわよ。アケノも記憶力は良いし頭の回転も悪くないのだもの。なんでもっと小さい頃から勉強しなかったのかしらね?
勉強の甲斐あって小テストの度に点数は良くなって、私は先生にかなり賞賛されたわ。クラスのみんなも私に注目するようになってきた。まぁ、それは勉強だけが理由じゃなかったと思うけどね。
というのは、私はアケノの容姿も整えたからだ。私がアケノになるまで、彼女は黒くて長い髪を後ろに無造作に縛り、黒縁の大きなメガネをして、化粧も何もせずにいたのだ。正直、私は初めて鏡を見た時に驚くより呆れたわね。これで良くも平気で外を歩けたものだ。
女の化粧は武装なのよ! 人間の印象は外観で八割決まるの! こんなやる気のない容姿では、初対面でいきなり相手に舐められるじゃないの! その証拠に、アケノは学校ではあからさまに舐められていた。というより、無視されていた。アケノはどうもそれで良しとしていた様なのだけど。
許せないわ! わたしは即座に化粧用具を買い集め、両親に頼んですぐにコンタクトレンズを作ってもらった。両親は驚いたけど、お母さんは「やっと容姿に気を使うようになったのね!」と喜んでいたわね。
癖の無い長い黒髪は、活かせば武器になる。丁重に梳かしてふんわりと広げる。お化粧も軽くして(濃くすると校則に引っ掛かるからね)、制服の着こなしにも気を使った。イミテーションだけど宝飾品も効果的に使う。
するとアケノ容姿は見違えるようになっった。清楚系の美人と言っても間違いない姿になったのだ。元の私の派手な容姿とは違うけど、妖艶な雰囲気もあるアケノの姿も悪くないと思ったわね。
こうしてアケノは男子生徒が気になってチラチラ見るような存在となった。女子も突然美人になったアケノに驚いていたわね。元々アケノは目立たない、少しオタク系の暗い女子にクラスの中では認定されて
いたんだけど、そこからいきなり飛び出したように見られたのだ。
それで何人かの女子が自分達の仲間に取り込もうと話し掛けて来るようになったおのよね。帰りに喫茶店に一緒に行かないかとか、カラオケに行かないかとかね。これはいわゆるスクールカースト上位に勧誘されてると言える。まぁ、貴族令嬢の世界にもよくあったわよ。序列争いは。
私はなるべく相性良く笑って、これを断った。「ごめんね。勉強とかで色々忙しくて」実際、私は猛勉強中だったし、そのおかげで成績順位も鰻登りに上がってたところだった。成績優秀者はスクールカーストとはまた違ったカテゴリで評価されるのよ。だから断っても私が反感を買う事はなかった。
美人で成績優秀な私は、クラスの中でも特別な立ち位置を占めるようになってきていた。はっきり言うと、優秀な人間は尊敬されるのよ。人間社会ではどこでもね。他人に尊重されたければ優秀な人間になるのが一番手っ取り早い。
私は他人に侮られるのは我慢ならない性格なのよ。侮られたくなければ優秀な人間になるしかない。そのための努力ならいくらでもするわよ。幸い、アケノの能力は低くなかったし、体力も十分だったしね。
そもそもこの世界は非常に恵まれているじゃない。冷暖房のおかげで、夏は涼しく冬は暖かい。衣服は機能的で動き易く、自動車や電車でとんでもない距離を一気に移動出来るから時間を非常に有効に利用する事が出来る。
溢れんばかりの本(アケノは読書が趣味)やパソコン、スマホでなんだって調べられる。分からない事を一瞬で調べられるというのがどれほど凄い事か、インターネットが無い世界に行かないと分からないでしょうね。
おまけに食べものが豊富で美味しいこと! 特に凄いのが「食べたい時にいつでも食べられる」という事よね。これは凄い。私が元の世界で小腹が空いたからといって、お菓子をすぐに持って来させるなんてとても無理だったもの。侯爵令嬢たる私でも無理だったのだ。
こんな恵まれた世界に生きているんだもの。それは努力しないほうが損じゃないかと思うのよね。努力というか、精一杯自分の能力を高めて楽しむというか。勿体無いわよ。いくらでも出来る事があるのにやらなかったら。少なくともアケノのように「暇ねー」と言いながら目的もなく動画サイト見てるなんて。私には耐えられない。
それと、アケノ苦手意識があって嫌っていたけど、私は運動競技にも興味があったのだった。元の世界の貴族社会には女性が運動するという概念がなかった。女性はなるべく動かぬもの、という固定観念があったからね。
それがこの世界では女性が半裸で運動しても咎められないというのだから、それはやってみたいじゃない。
体育の授業ではとても満足出来ず、私はいくつかの部活に体験入部をしてみた。バスケとかバレーボールとかテニスとかね。最初は上手く行かなかったけど、アケノは運動神経は悪く無いようで、段々動けるようになっていった。
こうなる私の負けん気が発動して、私は家でランニングや筋トレに励み、本を読んでその競技の事を勉強した。すると、見る見る私は部活の部員の動きに付いていけるようになり、遂には「是非正式に入部して!」と勧誘されるまでになったわよ。アケノ背が高めだったから、特にバレーボールとバスケはかなり得意になったわね。
勉強も出来て運動神経も良く、美人。うん。私は学校では生徒からも先生からも一目置かれる存在になっていったわね。ふふん。こうでなくてはね。
そんなある日、私は嫌な物を目にした。廊下を歩いて隣のクラスの前を通り過ぎようとした時の事だ。
教室の中から下卑た笑いが響いて、つい目をやってしまった。そこでは数人の男女が、一人の女子生徒の机を囲んで何かをやっているところだった。どうも、女子生徒の頭の上からペットボトルに入った何かを引っ掛けているような感じだ。
……見覚えのあり過ぎる光景だ。要するにイジメだろう。貴族社会でもイジメは日常茶飯事だったわ。むしろ身分社会だから身分を盾にした質の悪いイジメが横行していたものだ。
身分制度もないのにスクールカーストはある。妙な世の中よね。人を蔑んで自分を相対的に高く見せようとするくらいなら、自分を高めて自分が絶対的な上になれば良いのにね。
しかし、事は隣のクラスだし、そこにいる者たちは私もアケノも知らない連中だ。そんなのに首を突っ込んでも面倒ごとが増えるだけだろう。流石の私でもそんな所まで面倒みてはいられないわよ。
私はそう思って立ち去ろうとしたんだけど。……何かが引っ掛かった。
……そう。ゲームのキャロラインが追放された理由についてだ。キャロラインは「リルエッテをイジメている」という評判を立てられ、それが故に王太子殿下や国王陛下からの評価を下げ、それが婚約破棄、追放に繋がった面があったのではなかったか。
実際にはイジメていたのは私ではなく、私の親しい友人だった、もしかたらそれに便乗した知らないご令嬢だった可能性もあるかな。リルエッタはとにかく女性貴族から嫌われていたからね。
しかし、全部がキャロラインのせいにされた。なぜか。それは結局、私もリルエッタが嫌いで、それが故にイジメを真剣に止めなかったからだ。私の見ないところで虐待されていることを知りながら、いい気味だくらいに思って見て見ぬふりをしていたからなのよ。
結局、それが命取りになったわけよね。知っていて止めなかったのだから、それはやっぱり私もリルエッテをイジメたいと内心思っていると見做されたのだろう。知っていて止めなかったのなら、同罪と見做されても仕方がないのだ。
私が友人やそれ以外のご令嬢に、厳重にイジメを禁じていれば、リルエッタも私に濡れ衣を着せようがなく、私の評価を下げようにも下げられなくなり、もしかしたら追放を回避出来たかもしれない。
結局、私のそういう不徹底さ、浅ましさがあの結果を生んだのではないかしら。そういう所は改めなければいけない。
そう。たった今から。私は決意してその教室に踏み込んだ。
しかし、無策でというのも考えものよね。私はもう侯爵令嬢ではないから、身分差で強制的に命ずるわけにはいかないもの。ここはちょっとこの世界の流行を利用しようかしら。
私は適当な女生徒に自分のスマホをカメラ状態にして渡した。
「撮っておいてね」
女生徒は目を白黒させながらも、一応は頷いてくれた。私はそれを見届けると、スカートを靡かせて大股でイジメの現場に踏み込んだ。
「こらー! やめなさい! みっともない!」
突然やってきて大声で怒鳴りつけてきた私に、イジメをしている側も被害者も同時に驚きに目を見張った。私はズカズカと歩み寄り、被害者にジュースを掛けたペットボトルを奪い取るとそれを明後日の方に投げ捨てた。
そして被害者の女子生徒の頭に私のハンカチを乗せる。
「使いなさい。汚してもいいから」
「は、はい……」
少し太った小柄な女子生徒はコクコクと頷いた。
もちろん、怒鳴られた方は黙ってはいない。女子二名男子二名のその連中は目を吊り上げて怒った。
「なんだお前! いきなり! どこの誰だよ!」
「こいつ、隣のクラスの最近調子に乗ってるやつじゃねぇ?」
「ああ、そうだ。なんだよ今度は正義の味方ヅラかよ!」
口々に何やら言ってきたけど、私は聞いてなかったわね。女性生徒の頭と顔を拭いてやり「顔を洗ってきなさい」と言って教室から送り出し、そして連中を睨むと腕組みして言い放った。
「正義の味方ヅラではなく、私が正義なのです。私は正しく生きると決めたのですよ」
あまりにも私が堂々と言い切ったので、不良連中は毒気を抜かれたみたいだったわね。
でもその中の金髪に染めた女生徒が気を取りなおすと、私を睨んで叫んだ。
「てめぇ! 私に逆らって無事ですむと思ってんのか! どうなるか分かってんだろうな!」
ふむ。私は私より少し背の低い彼女を見下ろしながら首を傾げた。
「どうなるというのかしら?」
「私の親父は市会議員で、兄ちゃんはヤクザなんだからな! 謝るなら今のうちだぞ! 土下座しろ!」
……何を言うのかと思えば親自慢なの? 不良のくせに情けない。しかも市会議員なんて男爵程度の身分じゃないの。私は呆れ果てたけど、これで上手くいきそうね。
私は彼女を無視して身を翻すと、さっき私のスマホを貸した女子生徒を見付けて「ありがとう」と礼を言ってからスマホを返してもらった。うん。ちゃんと録画してあるわね。
「今の貴女のセリフ、ちゃんと録画されてますよ。親が市会議員で、兄はヤクザでしたか? イジメのシーンと合わせて出す所に出せば面白い事になると思いませんか?」
例えば動画サイトとか。不良の少女が口をアングリ開けてしまう。
「て、てめぇ! 汚ねぇぞ!」
「そんな甘い事では社交界は渡っていけませんよ。ちなみに、私の母は弁護士で父親は警察官ですからね」
アケノを溺愛する両親だから、もしも不良の両親が反社の人間でもしっかり守ってくれるでしょう。
本当は不良が私に暴力を振るいでもしたら、両親に協力してもらって動画を証拠に傷害で訴える事も考えていたんだけど、もっと面白いモノが撮れたわね。私は不良達を見下ろして不敵に微笑んだ。
「さて、謝るのはどちらですか? 私は別に土下座しろとは言いませんよ?」
◇◇◇
不良達を一蹴して、二度とイジメはしないと誓わせた事で、私の校内での立場は不動のものになったわね。成績は既に学年一位だし、その事で学校からは大学の推薦の話も来ていた。
ここからもっともっと自分を磨いていけば、きっと明るい未来を、アケノは手に入れる事が出来るわよ。
私は勉強や運動を楽しみながら、ゲームの解析も進めていた。既に個別ルートは全てやり尽くし、もっとも難易度が高いという「全員を攻略してのハーレムルート」だけが残っていた。
これは攻略対象の男性全員の好感度をカンストさせ、しかもそれをかなり短期間で行わなければならないという鬼畜難易度だったのよ。私は何度も何度も失敗しながら、クリアを目指した。
色々試行錯誤しながら全員の好感度を一斉に上げて行くと、不思議な事に気が付いた。
悪役令嬢。つまりキャロラインからの嫌がらせがある時から全くなくなったのだ。あれ? っと私は思ったわよね。他のルート、特にヴェスバール王子単独ルートではキャロラインのイジメ行為は次第に熾烈になり、リルエッテは命さえ脅かされたというのに。
キャロラインの妨害がなくなった事で、リルエッテとヴェスバール王子の関係は単独ルートよりも早く纏まった。そしてヴェスバール王子は驚くべきことをリルエッテに言ったのだ。
『私はキャロラインと婚約を解消する事になった』
え? 私は驚愕したわよ。婚約解消? どうやって? 意味が分かりません。婚約解消が難しいからこそ、単独ルートでは貴族社会ごと動かして、婚約破棄に持っていった筈なのに。
そしてもう一つ。既に婚約者気取りのリルエッテが王城に上がると、頻繁にフレンデル王子と出会うようになったのよ。私は思わず悲鳴を上げたわよ。抽象化された絵だとはいえ、私の初恋の人なんだもの。
残念ながらフレンデル王子は攻略対象ではなく(まぁ、リルエッテに攻略なんてされたくなかったから良いけど)フレンデル王子はよそよそしい態度に終始していたわね。それにしても、国王陛下によって国境の街に派遣されていたフレンデル王子がどうして王都に戻っているのかしら?
そうしてゲームを進め、攻略対象の好感度は全てカンスト。すると、単独ルートよりもかなり早い段階でエンディングの夜会が始り、そこでヴェスバール王子が、キャロラインとの「婚約解消」を宣言したのよ。
リルエッテへの愛が暴走した六人の攻略対象が、婚約を発表したヴェスバール王子とリルエッテの所に走り寄り彼女に愛を口々に訴え、全員でリルエッテを愛そう! と宣言ヴェスバール王子が宣言し、リルエッテが感涙を流しながら全員と抱き合う。という地獄のようなエンディングを見ながら、私は衝撃を受けていた。
なんで、なんで婚約が解消出来るの? いったい何がどうしたらそんな事が可能なの? 私はそう思いながらエンディングから、再度スタート画面に戻ってきた。
すると、スタート画面に『全クリアボーナスシナリオ。悪役令嬢の逆襲』という選択画面があったのだ。
それを選択すると、それは選択肢のない絵付きの小説みたいなものだった、それはなんとキャロライン視点で物語が進展するものだったのよ。私は驚きと緊張で身を固くしながらページをスクロールさせていった。
それによればキャロラインは「こんな王子に拘っていたら自分も王国も破滅する」とあっさりヴェスバール王子を諦め、婚約解消のために動き出したらしい。
まず、リルエッテとヴェスバール王子を刺激しないために、友人の令嬢にリルエッテをイジメないように申し渡した。私は頷いたわね。確かにこれはやるべきよ。
そしてお父様とお兄様に婚約解消の根回しをする。キャロラインと王太子殿下の婚約はウェーバルグ侯爵家と王家の契約なのだからお父様と国王陛下が話し合わないと婚約は解消出来ないのだ。この話し合いが穏便に済まないと、王家がウェーバルグ侯爵家に対抗するために新興貴族達と結びつきかねない。
キャロラインはお父様お兄様に穏便な話し合いを約束させ、自分の誇りや名誉よりも、王国と侯爵家の未来の方が大事だからと言ってお父様とお兄様を感涙させていたわね。
で、キャロラインはヴェスバール王子に自ら婚約解消の意思がある事を伝え、リルエッテとの関係を祝福さえした。王子はそれは疑ったけど、リルエッテへの好感度がカンストしている状態だしね。すぐに「リルエッテとの結婚の障害がなくなった!」と有頂天になったようね。そんな簡単な話ではないと思うんだけど。
キャロラインはどこの場面でも、地位も名誉も誇りも何もいらない。大事なのは王国の平和と身の安全という意思をはっきりさせていたわね。……こんなの私じゃないわよ。私は何よりも名誉と誇りを大事にしてるもの。それを守るためなら、王国が滅びても構わないと思ってるわよ。
……この思考の癖。平和というか問題が起こる事を嫌い、面倒から逃げるために目立つことを嫌う。こういう考え方をする人間に覚えがあるわね。
アケノだ。そうこの「キャロライン」はアケノなのだ。つまり私は日本にアケノとして転生したのではなく、アケノ入れ替わったのだろう。なんでまたそんな事に……。ていうか、アケノ! そんな弱気でどうするの! 勝手な事しないでよね!
しかし、ヴェスバール王子と面談したその日の夜。状況が一変する。
国王陛下からのお召しがあり王城に上がったキャロラインとお父様は、なんと国家機密が話し合われる時にしか使われない離宮に招かれた。
そこで国王陛下と王妃様が持ち掛けて来たのが、ヴェスバール王子との婚約解消と、ヴェスバール王子の廃嫡。そしてフレンデル王子の王太子就任と、キャロラインとフレンデル王子の婚約だったのだ。
な、な、なんですって! 私は驚愕したんだけど、考えてみれば「今の状況」で国王陛下が「ウェーバルグ侯爵家が」婚約解消を望んでいると聞けば、国王陛下は大いに驚き、侯爵家が王国から離反するのではないかと疑うだろうね。
大領と大きな軍事力を持つウェーバルグ侯爵家が王国から離反して他の王国に付いたら大変な事になる。王子の不祥事による婚約解消は十分離反の理由になり得るだろう。国王陛下がヴェスバール王子から婚約解消の話を聞いた時真っ先に恐れたのはそこだっただろう。
これがもう少しコードンルゥ伯爵家が根回しをしていて、新興貴族達の実力でウェーバルグ侯爵家を上回れる、と国王陛下が確信出来ていれば話は違ったんだろうけどね。とにかく、この時の状況では婚約解消などとんでもない。ウェーバルグ侯爵家に機嫌を直してもらわないと王国の存亡の危機だ。
そこで国王陛下は色ボケしたヴェスバール王子の廃嫡とフレンデル王子を王太子にした上で、キャロラインとの婚約を持ち掛けてきたのだ。キャロラインは頷いて言ったわ。「皆様がそう仰るなら仕方がありませんね。そのように致しましょう」
やったー! やったわ! 私は昔からフレンデル王子の事が好きで、本当は彼と結婚したかったのだ。しかし、私は王太子と婚約する事になっていて、次男であるフレンデル王子には嫁げなかったのだ。
それがここに来て大逆転だ! ありがとう! アケノ! ありがとう!
……その後、何も知らないヴェスバール王子とリルエッテは監視の上で放任され、リルエッテそれをいい事に好き放題攻略対象の好感度を上げて行く。コードンルゥ伯爵はヴェスバール王子が「必ずリルエッテと結婚する」という言葉を信じたし、国王陛下もヴェスバール王子の意思を尊重する、と言っていた。そのため、コードンルゥ伯爵家は王家への過剰な根回しを控える事になる。
その影ではウェーバルグ侯爵家が主導する新興貴族排斥作戦が進行していたのよ。
そして、運命の夜会でヴェスバール王子は「キャロラインとの婚約を解消してリルエッテと婚約する!」と叫んでしまったのだ。
ゲームのエンディングと同じ茶番が行われた後、国王陛下がヴェスバール王子の廃嫡と修道院への幽閉、そしてリルエッテへの死刑、更にコードンルゥ伯爵家の取り潰しを発表した。既に貴族の間には根回しが済んでおり、全員が拍手でこれを歓迎する。
そして新王太子であるフレンデル王子とその婚約者であるキャロラインを会場の全員が拍手で讃えたのだ。私は画面を流れる文字と絵を見ながら涙を流していたわね。大逆転もいいところじゃないの! すごい! アケノ! 凄い!
そうこのエンディングはどう考えても私では無理だった。誇りと自尊心が高過ぎて、実利を取るためにプライドを譲る事など出来ない私では無理だったのだ。
控えめで平和を愛し、そして冷静に状況を分析して最適な行動が出来る、アケノでなければ無理だったのだ。
私は悟った。この入れ替わりはきっと、神様が私を助けるために、そして私に重要な事を教えるために起こしてくれた奇跡なのだ。きっとそうよね。そうであれば……。
私は新しいノートを開き、アケノへのお礼の手紙を書いた。何もかもアケノのおかげだもの。たくさんの感謝の言葉を書いたわよ。途中から熱が入って、お説教くさくなってしまったかも知れないけど、それもアケノ、もう一人の私を思えばこそだ。
翌朝、案の定私はキャロラインに戻っていた。アケノがこの身体を使っていた時の記憶もちゃんとあった。彼女も、私になって色んな事を知り気が付いたと思う。私もアケノにならなければ知る事気出来なかった事がたくさんある。
そしてお互い、入れ替わってお互いの為に色々頑張った。アケノが頑張ってくれて得た事でこれからの私はきっと幸せになれるだろう。アケノも、私が残してきた事で幸せになってくれるといいな。
……とりあえず、アケノのおかげで婚約出来た、愛しのフレンデル王子にご挨拶に向かおうかしら。
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転生令嬢はプライドよりも命が大事です! 宮前葵 @AOIKEN
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