満月の見えない三日月村。
　亡くなった祖母の遺言は、鈴の鳴る箱は開けてはいけない、でした。

　けれども、母によって開けられてしまった、箱。
　中に入っていたこけしの呪いが、母娘にふりかかります。
　恐ろしいこけしから、逃れることはできるのでしょうか。

　幻と言われる村を背景に、語られる恐怖。
　こけしが怖すぎる！
　お祖母さん、箱をもっとしっかり封印しておいてくださいよう。

「こけし」に宿るその恨み、憎悪はどこの何から生まれただろうか。

家族、一族、家系に古くからの呪いか、それとも・・・・・・

和風、そして日本のオカルトは様々な地域、エリアから持ち込まれた呪いや想いと戦うことが多く、そして寛容に許してきた歴史。

中国、台湾に存在する「木工厭勝」
和風呪物としての「こけし」を彷彿とさせる物語。

本作のキーワードの一つが「こけし」。子どもをイメージして作られたこけしは、可愛らしい風貌をしているはずなのに、どこか不気味な雰囲気を放っている…そう感じる人は多いのではないでしょうか？私もその一人。同じように感じる人なら本作を何倍も怖く、そして楽しく読めることでしょう！

一年にわたって満月を見られない『三日月村』。今では、その村は地図からも抹消され、幻の聖地となっていることから、その物々しさにまず引き込まれます。

祖母が強く言い残した遺言――

禁断の呪いが封じ込まれた、決して開けてはならない封魔の匣。

その中身とは――

闇が降りて、気付けば得体の知れない気配を感じ、怪奇現象のたびに、感覚がナイフのように研ぎ澄まされていく。
もうこの恐怖から、逃れられないのだろうか。

和風テイストがぬめぬめと絡みつく、断罪として引き摺り込まれていくホラー。特別な涼を深淵なる恐怖として、お楽しみください。

これは前書きにもある様に、普段は心を
温める人間模様を描かれるのを得意とする
作者が本気で臨んだ、肝を冷やしめる
ホラー作品であるという。
　元々、作者は登場人物の心情をとても
丁寧に描き出すのに長けている。そして

　　この、出だしの野辺送りの情景の
　美しさと不穏さである。

黒揚羽が舞う廼辺を、青々とした田圃の
畦をしめやかに行く葬送が、精緻な描写に
よって鮮やかに目に浮かぶ。

　　　　　　　　　　更に、そこからの

　　呪いの急転直下。

これは是非とも実際にその目で臨場感と
恐怖を味わって欲しい。


こけしの呪いは解けたのか？
答えは文末にあるとは限らない。これは
三日月の幻なのか、それとも…。