描写への追求
飴。
肝試し
「今度の土曜日に一緒に心霊スポットに行かない?」
僕はあまり関わったことのない、クラスの"一軍"と呼ばれる人達に突然遊びに誘われた。だが、そんなの何かされるに決まっているじゃないか。断りたいとも思ったが、友人に伝えておいた僕の空いている日程が割れていたらしく、断るなんてことをすれば何をされるか分からない。絶望的な状況だ。
「なんで急に、心霊スポットなんかに……」
「あれ、確か裕介ってホラー系が大好きって聞いてたんだけど違ったかな?」
その情報は間違ってはいない。僕は生粋のホラー好きで、実は心霊スポットも詳しい。しかし、どこまで僕のことを知っているのだろうか、下手なホラー作品よりもよっぽど恐ろしい。
「その通りだし、心霊スポットも詳しいけど、どんな場所に行こうとしてるの?」
「恥ずかしいんだけど実はさ、俺らの中にホラーに強い人がいなくて、裕介さんに着いてきていただけたらと思っていまして……」
「わかったよ、わかった。それでどこに行くの?」
僕は落ち着いた雰囲気を出しながらも、頬のゆるみが止まらなかった。
「えっと、この学校の裏山に橋がかかってるだろ? 元々自殺の名所だったらしくてさ、そこに土曜日の夜に行くと、橋から下を眺め続ける霊がいるんだって」
僕もそれは聞いたことがある。たしか霊を一度目撃してしまうと、その人が後日、取り憑かれたように橋から飛び降りてしまうという話だ。言葉を発することなく橋を渡りきることができると、大事にはならないと言われていて、それが唯一の対処法とも言える。
それから数日が経ち、土曜日の夕方頃に皆で集まることになった。
「裕介さん、先頭お願いしやす」
「「「お願いしやす」」」
「全然裕介でいいよ。任せてくれ」
さすがにクラスの"一軍"に異性でもないのにさん付けで呼ばれるのは、畏れ多いことだ。
段々と夕日が落ちていき、黄金色の空がどんよりと重たくなる。夜行性動物たちの鳴き声が徐々に活発になっていくのに戦慄を感じながらも、僕らは目的地へと向かった。
「裕介、あれは違う……よな?」
「あれだね……」
"それ"は真夏の夜にそぐわない厚手の白いコートを着ていて、病人を思わせるような立ち振る舞い。髪は乱れて、顔や姿はぼんやりとしていて、でもそこに確かに存在している。
「おい、お前ら一旦こっちに集まろう。そんでもって怖すぎる。俺信じてなかったのに……」
僕を誘った人がそう言うと、他の人もそちらに視線を向ける。彼はちらりと霊の方を見た途端、顔が青ざめていった。
「あいつ、いなくなってない?」
全員が目を離した隙にその場からその霊らしき存在は姿を消していた。
「みんなに話さなきゃいけないことがあるんだけど……」
「なんだよ急に、怖いって」
「あの橋を渡りきらないと、呪われるって噂があるんだよね」
「おい裕介、それってまさか」
この場にいた全員に再び強い戦慄が走るのを感じた。僕自身も、正直このような状況は想定しておらず、両手が震えて、本当に夏なのかと疑うほど冷や汗が止まらない。
「行こう」
僕は自分の立場をよく理解していて、先頭を行くことにした。橋は古いものではなく、コンクリートや鉄骨で最近作られたものなので、あまり揺れることはない。噂通り渡りきってしまえばなんの問題もないのだから、やるしかない。
僕は橋から落下した。
後ろからついてきていた皆に、突然抑え込まれて橋から投げ飛ばされたのだ。
今になって考えてみれば、無言で渡りきれば助かる、なんて都合のいい話はない。実際に霊がいるとするなら、目撃者を操り、根も葉もない噂を流し、橋の真ん中に誘導したところで、落としてしまうのが一番効率が良い。
かれらは正気を失ったようなかおつきで、それはまさに何かにとりつかれているようだった。
ぼくは落下しているあいた、とてつ
――テレビニュースにて
「速報です。今朝、渡良瀬川の下流で遺体が発見されました。死亡したのは有名ホラー作家の 桜 雅之 氏で、動機などの詳しい情報は現在調査中ですが、その場所は有名な自殺の名所とのことで川の上流部に位置する橋から飛び降りたのではないかと見られています。桜さんは日本を代表するホラー作家で、『恐怖の桟橋』『未来への一通列車』など様々な作品で賞を取っていて、どれも本当に体験しているのではないかというほどの、リアルな描写が話題になっていました。いやー悲しいニュースですね……」
と続いていく。
――更にその翌日
彼の所持品から"未完成の小説"が発見された。
描写への追求 飴。 @Candy_3
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